拒絶
会いたいと願い続けた人がいる。
ただ一度でいい。
生きているとわかれば、それでよかった。
そう思っていたはずだった。
隣にはプラス先生がいた。
カナタは小さく深呼吸した。
特殊部隊生は、入学式の前に必ず検査を受ける。レベル検査だ。
学年が移行するたびに行われる、通例のもの。
――しかし、今回は少し違った。
十二歳になったあの日。
タシトが現れ、スコーラオとの戦いに巻き込まれた。
本来なら、ユウナギと一緒に受けるはずだった精密検査。
あの日を境に、延期されたままだった。
そう――
アレイシア波動生体研究局、AWBI。
本当なら、ここで検査を受けるはずだった場所。
そして、あの日――父がいた。
今ではその建物も、すっかり様変わりしていた。
蟻一匹入ることも許さないような重厚な外壁と、幾重にも張り巡らされた防御システム。
嫌な予感と、ほんの少しの期待が、胸の奥で混ざっていた。
あの後、父の消息はわからなかった。
養母に聞いても、調べても、何一つわからなかった。
生きてさえいてくれれば、それでいい。
――唯一の肉親だった。
「大丈夫か?カナタ」
プラス先生が、顔を覗き込んできた。
「何だか緊張してきて……。今回もゼロのままで終わるのはわかっているのに、それでも、誰かの期待に応えられない結果が出て……でも、どうすることも出来なくて。私には、何も出来ることがありません」
「そうだな。きっと上の人間は、いつか君が覚醒することを期待しているのだろう。だが、カナタはカナタで十分尊いぞ。気にするな」
「……」
「期待は、裏切るためにある! ははは」
「先生……」
検査員の女性が現れ、カナタを検査室へ案内した。
「ロビーで待ってる」
プラス先生は軽くウィンクする。
「ありがとうございます、先生」
着替えを終えたカナタは、円形の床の中央に立つよう促された。
薄い円柱状の壁が、静かに彼女を包み込む。
目を閉じる。
身体が、ふわりと浮くような感覚。
遠い記憶が、どこかから滲み出してくる。
――誰かが、目の前に立つ。
「お母さん……?」
温もりが、思い出せない。
「お父さん……?」
同じだった。
触れた記憶すら、曖昧だった。
病院では、記憶喪失だと言われていた。
本当に、そうなのかもしれない。
それでも――
(知っている)
ずっと、見ていたような感覚だけが、確かに残っていた。
《カナタ・アレイシア》
《リングレベル、ゼロ》
無機質な音声が、静かに響く。
――結果は、変わらない。
カナタは、ふと思った。
このままゼロのままなら、除隊になるかもしれない。
ユウナギも、辞めたがっていた。
(それなら……)
今度こそ、二人で自由になれるのではないか。
その考えが、胸をよぎった瞬間――
視界の端で、人影が動いた。
白衣を着た男たちが、廊下を歩いている。
その中に――
「お父さん!!」
間違えるはずがなかった。
走り出す。
「カナタさん、いけません!」
検査員の声も届かない。
ただ、目の前の背中だけを追った。
そして――
その男の前に、立つ。
隣にいた助手が、カナタの前に立ちはだかる。
それでも、視線は逸らさなかった。
あの日から会えなかった父、ガイオス。
「……よかった」
声が震える。
「お父さん」
一歩、踏み出す。
手を伸ばす。
「私は、お前など知らん!」
その言葉は、刃のように空気を裂いた。
「お父さん……?」
伸ばしかけた指先が、止まる。
「汚い手で、私に触るな!」
その声は、施設中に響いた。
(第四十一章・了)
唯一の肉親だった。
その人から向けられた拒絶が、
カナタの心にどれほどの絶望を落としたのか――
まだ、この時は誰も知らない。




