隣に立つために
昼休み、ざわめく教室でユウナギはカナタの元へ静かに歩み寄った。
「カナタ、放課後……少し時間ある?」
ミラが目を逸らして何も言わない。その沈黙だけが、意味を持っていた。
「……うん」
カナタは、ユウナギの真剣な表情に胸の奥がざわつくのを感じた。
――放課後。
屋上に立つ二人。
コロニーの風が、静かに循環している。
ユウナギは息を吸い、言葉を選ぶように口を開いた。
「カナタを……守れる人になりたい。
ただ側にいるだけじゃなくて、
“隣に立てる自分”でいたいんだ」
カナタは、少し驚いたあと、柔らかく笑った。
「私、ユウナギに守られたいって思ったことはないよ。
――一緒に、生きていたいだけ」
ユウナギの瞳が大きく揺れた。
「……本当に?それって」
カナタの笑みが、一瞬だけ陰を落とす。
「だからこそ、今は“この状況”から逃げられない」
声は震えていない。
それでも――どこか、自分に言い聞かせているように聞こえた。
ユウナギは拳を握る。
「俺が、もっと強かったら……ずっと側でいられたのに」
そう言いかけて、言葉が途切れる。
リングレベルが、残酷な現実を突きつけていた。
レベルは、生まれた時に決まる。
――それが、この世界の“常識”だ。
なら――
今の力で、届くところまで行くしかない。
“届かない距離”が、今ここにもある――
そんな感覚が胸に広がる。
カナタは、鞄のキーホルダーを外した。
「何故か懐かしいんだ。私、守られてると思わせてくれるやつ。スコーラオさんにもらったやつ」
「スコーラオ……」
その名前に、ユウナギの心臓がドクンと脈を打った。
――彼は危険だ。ただこれは直感ではない。
あの不適に笑う戦いを目の当たりにしたからだ。
彼は何者なのか。敵か、味方か――分からない。
何故タシト隊長と戦ったのか。
俺たちは、二人と話している。
タシト隊長も、スコーラオも――
あの圧倒的な力の前で、
俺たちは、生かされている。
「これ、お守り。持ってて」
そう言って、ユウナギにウサギのキーホルダーを手渡す。
「これ……カナタの大事なやつなんだろ?受け取れないよ」
「一年間……ユウナギに持っててほしい」
「一年間?」
カナタは少しだけ視線を逸らした。
優しい風が、二人の間をすり抜ける。
「……そっか。
いつか、“ちゃんと隣に立てる自分”になれたら――
その時に、返すね」
それは約束とも、願いともつかない言葉だった。
ほんのわずか、
ユウナギの表情に、晴れ間が差した。
*
――守りたい。
怒りじゃなくて、壊すためじゃなくて。
ただ、隣に立ち続けたいだけだ。
特殊能力中央施設は、
今夜も静まり返っていた。
「怒りだけじゃない……」
ユウナギは、そっと手を開いた。
「この色を変えるのは、戦うための力じゃない……
隣に立とうとする“願い”なんだ!」
その瞬間だった。
手のひらの光が、赤を飲み込み――
静かに、青へと染まっていく。
ユウナギ自身、息を呑む。
手の中の青は暴れない。
ただ、強く、まっすぐに“意志”のように燃えていた。
「……いける」
放たれたシャインスフィアは、迷いなく一直線。
次の瞬間――鉄製の的は、
音すら追いつけないほどの速度で粉砕された。
威力は桁違い。
だがそれ以上に、
ユウナギの胸の奥の“何か”が――確かに、変わっていた。
(第四十章・了)
強さとは、
何かを壊せることじゃない。
失わないと決めることだ。




