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それぞれの決意

その日、

二人の男が、

それぞれ違う未来を選んだ。

研究室の一室で、

タシトは惑星グランディアの科学者たちと

向かい合って立っていた。


無数のモニターが宙に浮かび、

緑の光が室内を静かに照らしている。


「まさか、惑星アストレアの特殊部隊の少佐がこんなにお若いなんて驚きました」

白衣の口ひげを生やした科学者が髭をいじりながら目を細める。


隣にいた若い科学者は、口を挟んだ。

「本当に。あなたの星の三大禁忌は確か……

若返りの禁止、クローン技術の禁止、

そしてアンドロイド製造の禁止でしたね。

我々の星とは、まるで逆だ」


「そうだ。あんたのところでは全部解禁されてたな」


「そうですよ。こう見えて私はあなたの三倍は歳をとっています」


「知っている」


「いやいや少しは驚いてくださいよ……まぁ話しは早いですがね」


「我らにとって以前は、惑星アストレアは脅威的な文明でした。それに追い付いたと思ったら、まさかの新人類が誕生。脅威は持続しています」


「そう、それがあなただ」


「前置きは、いい。

かつてのアンドロイド技術は、あんた達の惑星からは、もう遥か及ばない」タシトは、目で追いながら周りの宙に浮かぶモニターを一巡した。


隣では、背が高く美しいアンドロイドが人数分のお茶を入れ、誰も座っていないテーブルに置く。


アンドロイドは、タシトと目が合うと

ニコリと微笑み、少し照れたように下を向いた。


まるで、人間のような仕草だった。


タシトは、何も言わずその様子を見ていた。

ただ、その表情からは何も読み取れなかった。


「カモミールです。どうぞお掛けください」


「この子は、ティティと言います。恥ずかしがりやなんですよ。立ち話もなんですので。さ、遠慮なさらずに」科学者がタシトをソファに促す。



「少佐のお話だと、衛星メア・フェールに旧式アンドロイドが眠るということでしたね」


もうひとりの科学者が言う。

「旧式を掘り起こすなんて、実に興味深いですね」


科学者たちの視線が、わずかに鋭くなる。

「ただ、保管から分析まで、その交換条件は相当なものなのでしょうね」


「あんた達が喜ぶものを用意する」


「しかし、やはり……危険では?」

科学者の一人が、低く言った。

「起こすべきではないものが、

かつてアストレアには、存在していたと聞きます」


一拍の沈黙。


「――リエル」


その名を口にした科学者は、

わずかに声を落としていた。


「惑星アストレアにのみ存在した、

伝説級のアンドロイド。

AI戦争と共に、姿を消した存在です」


「……何故、今さら覚醒させる必要があるのですか?」


「兵器としての価値を、確認する必要がある」


タシトの声音には、迷いがなかった。


「旧式とはいえ、アストレアの技術だ。

放置すれば、いずれ誰かが掘り起こす。

それが敵でない保証はない」


「だから、こちらの管理下に置く。

——ただそれだけだ」



まだ誰も知らないところで、

それぞれの思惑が動き出していた。


運命は静かに

形を変え始めていた。



「婚約者?タシトが?」


エルナスは手に持っていた書物を閉じ、静かに息をついた。「……そうだったのか」


王宮の書庫で梯子(はしご)を跨ぎながらエルナスは、目下のセリューを見た。


「余計な計らいは結構と。カナタは、私の妻になる女だとメッセージに添えられておりました」


「……余計な計らい。ぶっきらぼうなメッセージだな」

エルナスは、ゆっくりと梯子を降りると王宮のバルコニーに出た。冷たい風が頬を撫でる。

「あの少女に、また出会えた気がしたんだけどな……」


胸の奥が、きゅっと縮む。

安堵と同時に、名付けられない焦りが残った。


セリューが横に立ち、静かに笑った。「おかしな話、私も運命を感じました。困りましたね」


エルナスは視線を空に戻し、深く息をつく。

――タシト・レヴァント、あの少年が――いや、青年が。

自分の前に立つとは思わなかった。


小さく唇を噛む。胸の奥が、まだざわつく。


「……だが、私は諦めるつもりはない」


そう呟くと、王は空を見上げたまま、決意を固める。


この時まだ、

誰も知らなかった。


二人の選択が、

やがて世界を

大きく変えることになるとは。



(第三十四章・了)


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