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成功という名の静寂

その作戦は、成功だった。

——記録の上では。

表彰は、簡素だった。


白い壁。

長机。

プロジェクターに映る、静止画の救出現場。


「——以上をもって、本件は成功裏に終了したと判断します」


淡々とした声が、会議室に落ちた。


拍手はなかった。

それでも、空気は“片付いた”という顔をしていた。


「犠牲者ゼロ。人質は全員無事」 「犯人は現場で無力化。二次被害なし」


数字と結果だけが、前に進んでいく。


ユウナギは、椅子に深く腰掛けたまま、

自分の手を見ていた。


震えてはいない。

——虚無感だけがのしかかる。


「ユウナギ・カーレン」


名を呼ばれて、顔を上げる。


「君の判断は迅速だった。


一歩でも遅れていれば、事態は変わっていた可能性が高い」

——ほんの、僅かな差だった。


あの瞬間。

指を弾いた、あの距離。


(……それでも)


「功績として、正式に記録される」


記録。

保存。

評価。


「異論は?」


誰も、何も言わない。


ユウナギは、喉の奥で言葉を噛み潰した。


——成功、だった。


けれど。

胸の奥に沈んでいる“何か”は、

成功という言葉では、浮かび上がってこなかった。


(……誰のための、成功だ)

ふと、目頭が熱くなる。

会って間もないはずなのに、

その男の顔が、離れなかった。


一粒、涙が落ちた。


(彼は、裏切られたんだ)


会議室の窓越しに見える空は、

今日も調整された色をしていた。


会議室を出ると、

廊下の空調音がやけに大きく聞こえた。


ユウナギが歩き出そうとした、その背中に。


「これで、いいんだよ。最悪の事態は避けられた」


振り返ると、シャドが壁にもたれて立っていた。

やがて姿勢を正し、優しい眼差しで目を細める。


「……最悪の事態」


その言葉をなぞるように、ユウナギの胸が、微かにざわめいた。


二人は並んで廊下を歩き出す。

空調の音に紛れるように、シャドは歩調を合わせて口を開いた。


「でも凄いね!ユウナギのあの速業、痺れたよ」


「……」


二人の間に沈黙が続く。


「一緒に帰る約束してただろ?」


「そうだったね、ごめん。待ってくれてたんだな」


苦笑いを浮かべシャドは、

ユウナギの鞄を奪うようにして持った。

「軽い!俺が持つ必要なかったな」


静かに笑って、奪い返すユウナギ。

「その優しさが重たいな」


「ひでー。

……俺ね、ここだけの話、上層部の特殊部隊に兄がいるんだ」


「え?」


唐突な告白に、ユウナギの視線が、ほんの一瞬だけ鋭く揺らぐ。


「だからさ。生死の残酷さって、戦いの中では避けられないと思ってる。

それが、その時の最善だったって……兄が、よく言ってた」


ユウナギは、足を止めた。


「……それが、その時の最善だったんだよ」

シャドは、天井を見た。


少し間を置いて、

シャドはわざと調子を変えたように、続けた。


「……そういえばさ。兄の話、ちゃんとしたことなかったな。

——タシト隊長の下にいるらしいよ」


「……タシト隊長の下?……同じ隊ってこと?」

ユウナギは声を整えきれないまま、問い返した。


「兄は中尉で、タシト隊長が少佐。直属の上官らしい。びっくりするだろ?兄も相当だけど、 あの歳で少佐って。飛び級にもほどがあるよ」


「そ……そうなんだ」


タシト隊長のこと。何も知らなかった。

まさか、こんなにも近くに、情報へと繋がる人物がいたなんて――。


少しでも、何かを引き出せるかもしれない。

ユウナギは、答えが欲しかった。

胸に、小さな希望の光が灯る。


——けれど。

その光が、どこへ向かうものなのかは、

まだ、見当もつかなかった。



(第三十三章・了)


成功と呼ばれた日。

その日、ひとつの疑問が生まれた。

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