追跡
プラス先生は、校庭の自販機でコーヒーを買っていた。
背後に、気配が走る。
振り返る。
「……あなたは」
一瞬だけ、プラス先生の目が見開かれた。
◇
事務室。
バーチとソードが、プラス先生の前に立たされていた。
「お前たちはクラス内でも能力反応が平均的だ。今回の任務には都合がいい」
「……ディスってます?ヴェール・ガン保持者なんですけど」
ソードが軽く笑う。
しかしプラス先生は表情を変えない。
「詳細はここでは言えない。だが――タシト隊長の件だ」
その瞬間。
バーチの声が落ちた。
「……俺には無理っす」
ソードが横目で見る。
バーチの顔には、まだ“あの事件”の影が残っていた。
◇
「むちゃくちゃだよな。国家レベルの大事に、俺たちみたいなヒヨコが任命されるなんてな」
「……」
バーチとソードは、特殊部隊専用の飛行船に乗り込んでいた。
表向きは、惑星間能力者交流プログラム。
実態は、タシト隊長確保のための監視任務だった。
「俺、タシト隊長に殺されたらどうしよ」ソードは、バーチに話しかけた。
「……」
バーチは黙り続けていた。
「何だろう……お前、そんな奴だったか?なってしまったことは仕方ないじゃないか。前を向こうぜってお前の名言だよな?」
「わかってるよ。……気持ちの整理が付かなくて」
「……足だけは引っ張るなよな」
「……どの口が言うか」
そして、バーチは飛行船の窓から外を眺めた。
◇
軍上層部による緊急会議が継続されていた。
「惑星アストレアの強制追跡モードに、反応はなかった」
「……では、成果は?」
リダルダの指が、机を軽く叩く。
「一つ、興味深いデータがございます」
モニターが切り替わる。
「ミルル・セーレン。対象人物の家系情報です」
「へぇ、それはどういうことかしら?」
リダルダが目を細める。
長い爪が光を弾いた。
「彼女の父親が、現在グランディア側に接触している形跡があります」
一瞬、空気が止まる。
「なら、場所は確定だね」
椅子の一つが、わずかに軋む。
「惑星グランディア……なら、僕が行こうか。面白そうだし」
第六席。
セテオス。
オルデンコアの最年少、
その声だけが、妙に軽かった。
彼は現場の人間ではない。 そして、特殊能力者でもなかった。
だが、その発言を否定する者はいなかった。
「報告します!」
慌てて軍人が駆け込んだ。
「第五席のIDリングが惑星アストレアの湖で発見されました」
「……本人は」
「未発見です」
「湖底も捜索済みです」
短い沈黙。
「……七席に続いて五席も!?」
どこかで声が漏れる。
「内部抗争は、やめてよ~」
セテオスが肩をすくめた。
誰も笑わなかった。
◇
プラス先生は、今日もコーヒーを事務室で飲みながら缶を揺らしていた。
「妙だな。まさかあの時、ルイゼンさんではなくて、セリュー殿が直接来られるなんてな……」
ボソリと呟いた。
(第百二十五章・了)




