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漏出

明朝。

惑星アストレアの草原に、セリューは降り立っていた。


セリューの全解除では、一度に約四千キロ圏を感知できる。

多少の誤差は生じるものの、それは惑星規模に及ぶ広域認識能力だった。


『タシトのリングレベルを、通常時の八まで解除する』


「了解しました」


王宮との通信。


「知らせなしの変更、現地環境は十分でしょうか?」


『問題ない。アストレアの計器は特殊能力干渉を前提に設計されている』


『タシト自身も、攻撃と防御を兼ね備えている高能力者ならすぐに平常値に戻せる』


「承知しました」


コロニー・ルミナリアの王宮からエルナスとの通信。傍受の隙はない。


『では、セリューの全解除から開始する』


腕のリングが全て消えた。


『続いてタシトのリングを八まで解除!』



タシトはミルルと、惑星グランディアで食事をとっていた。


グランディア産の揚げたてキノコとハーブチキンのロールサンドは珍しく、観光客に人気だった。


テーブルに運ばれる料理。全てアンドロイドが対応していた。


向かい合うミルルは、落ち着かない様子で視線を揺らしていた。


(これじゃ、まるでデートだ……)


他のテーブルの女性客がざわつく。皆タシトを見ていた。


(はぁ、本当にカッコいい。品のある食べ方。白緑の瞳)


「どうした? ミルル。食べないのか」


タシトが視線に気づいた。


ミルルは咄嗟に目を逸らす。


「あ、はい!」


「……ミルルといると、動物園の動物になった気分になるな」


「え?」


意味を理解した瞬間、耳まで熱くなる。


「ち、違います! その、見てたわけじゃ……!」


「もう、馴れたけど」


タシトが優しく微笑んだ気がした。


食事を終え、二人は店を出た。


その瞬間だった。



タシトの腕から、リングの光が消える。


「――っ?」


路上のアンドロイドが、一斉に動きを止めた。


遅れて、耳障りな警告音が街へ広がる。


店舗端末。

信号機。

空中広告。


次々と光が乱れた。


「な、何……?」


ミルルの声。


次の瞬間。


空気が、軋む。


タシトは反射的に、漏れ出した能力を押さえ込んだ。


警告音が消えた。


そして――

消えていたリングが、再び両腕へ光を戻し始めた。



「どうだ?セリュー」


エルナスは、立体ホログラムへ視線を向けたまま、腕のリングを操作する。


十秒経過。


『北半球。南半球ともに反応がありません』


「惑星アストレアには、いないのか?……なら、どこへいった?」


「……まさか」


短い沈黙。


「……衛星メア・フェール経由後、惑星グランディアを確認――」


その時、エルナスの言葉が途切れた。


(そんな、馬鹿なことがあるか?

惑星グランディアは、生体反応干渉を前提に発展した高度AI文明。

高能力者を、最も危険視する惑星だ。

タシトのような能力者には危険すぎる……協力者でもいるのか?)


王であるエルナスは、簡単に他惑星へ入惑(にゅうわく)できない。


高能力者ほど、惑星間移動には厳重な制限がかかる。


無許可入惑は、惑星間条約違反として処理対象になる。


そして、能力制限を受けにくい者が多いオルデンコア側の方が、先に惑星グランディアへ入惑する可能性が高かった。



街の警報は、すでに停止していた。


代わりに、警備ドローンの旋回音だけが頭上へ響く。


タシトはミルルの腕を掴み、そのまま裏道へ入った。


「ここまでくれば、大丈夫だろう?」


「……あ、はい」


「……追手が来るかもしれない」


タシトが、ふと漏らす。


ミルルは、掴まれた腕をいつまでも見つめていた。


遠くで、警備ドローンの旋回音が響いていた。



(第百二十三章・了)


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