決断のあとに残るもの
「エルナス様!」
王宮の庭へセリューが駆けつけた。
エルナスの服は乱れ、口には血が付いていた。
「……ご無事でしたか」言葉に動揺が走る。
「ああ、問題ない」
「……」
セリューは思わず胸を撫で下ろし、目を閉じた。
「……お前には、心配かけてばかりだな」
「いえ、私が至らないばかりに」
「言うな。自分のことのように聞こえる」
そして、エルナスはかすかに微笑んだ。
だが――次の瞬間顔つきが変わる。
「セリュー。ルイゼンは王宮を離れた。オルデンコアが後ろにいる」
「やはり、そうでしたか」
「……タシトが何かを掴んでいる可能性があるのか、あるいはオルデンコアが彼を脅威と判断して動いているだけなのかは、わからない」
「……」
「いずれにせよ、タシトは不都合な存在として処理されている」
エルナスは腕のリングに触れ、歩き出した。
セリューは言葉を挟まず、その歩調に合わせた。
「私はルイゼンとの約束を果たしたい。――タシトのリングは、全制御を維持する」
「はい」
「ただし、明日の朝。タシトのリングを一瞬だけ解放する」
「惑星アストレアのエネルギー帯の変化を読み取ってくれ」
「……はい」
「オルデンコアよりも早くタシトを捕らえたい」
「承知しました。全解除と瞬間移動を使えば、数秒で北半球は確認可能です」
「お前には、負担をかける」
エルナスの足が止まった。
「……それと、別館B棟はどうなった?」
夜風が、庭の葉を揺らした。
エルナスは近くのベンチに腰を下ろす。
「……そうか」
エルナスは両手で顔を覆った。
ショックは計り知れなかった。
「アークヘイム軍団をカモフラージュとして利用さえしています」
「……そこまでして姑息な」
長い沈黙。
「……カナタは、無事なのか?」
「はい。彼女は特殊能力に覚醒した模様です。鎮静処置のもと、現在も眠り続けています」
「そうか、無事なんだな」
エルナスは、安堵から深く目を閉じた。
「……多くの死傷者が出てしまった今、事態をより重く受け止める必要がある」
少しの間。
「……直接、オルデンコア上層に話を聞く」
短い沈黙。
「ただしタシトを捕らえた後だ」
◇
エルナスは風呂場で身体を洗っていた。
次の瞬間、膝が崩れた。
(第百二十二章・了)




