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監視圏外

港湾街から少し離れた惑星グランディアの市街地は、人間とアンドロイドで溢れていた。


空には、発光レーンに沿って無数の無人タクシーが飛び交っている。


惑星アストレアからの観光客も多い。


両腕へ幾重にもリングをはめた若者達が、街を歩いていた。


グランディア人には、本物との違いなど分からない。


この星ではそれが、“上流風”のファッションとして流行していた。


タシトとミルルは、新しい居住地と、認識阻害システムを維持できる環境を探っていた。


ポワレの夫から借りた服では、タシトの両腕を隠しきれなかった。


「うわーお兄さんのリング、リアルだなぁ」


話しかけてきたのは、ファッションリングを専門として販売している店のオーナーだった。


店内の視線が、一斉にタシトへ向いた。


「カッけーな……。お兄さん、よく似合ってる!ちょっと見せて」


「それ特注?」


「……触るな」静かな低い声。


空気が、一瞬で冷える。


タシトのただならぬ雰囲気に、オーナーの手が引っ込む。


タシトとミルルを見送った後。


オーナーは、遅れて背筋に寒気が走るのを感じた。


「……まさか、本物じゃないよな」



「タジィト様、この服……ミルルが買ってもいいですか?」


洋服店のディスプレイ。


グレーのシャツへ、ミルルは視線を向けた。


今のタシトより、この街に馴染みそうだった。


「無駄な金は使うな」


タシトは、静かに言った。


「送金も止められている」


「大丈夫です。父の口座、こっちにも残ってるので」

ミルルは、慌てて笑う。


「気にしないでください。ただの修理工ですがお金の使い道がない人なので」


「……」


タシトの視線が、自分の両腕のリングへ落ちる。

短い沈黙。


「……ありがとう。必ず返す」



着替えを終えたタシトが、更衣スペースから姿を現す。


「……っ」


ミルルは、思わず息を呑んだ。


軍服でも特殊スーツでもない。


それなのに。


どんな服を着ても、結局目立ってしまう。


「似合ってます!」


思わず声が出る。


タシトは、少しだけ視線を逸らした。



その頃、惑星アストレアでは。


軍上層部による緊急会議が開かれていた。


そこには、以前ルイゼンと共に現れたオルデンコアの重鎮――リダルダの姿もある。


「まだタシトが見つかっていないだと!?」


軍上層部の声が響く。


「コロニー及び惑星アストレア全域へ捜索網は展開済みです」


「ですが、惑星規模が広すぎる。高度な認識阻害システムを使用されていた場合、追跡は極めて困難かと」


短い沈黙。


「それならば――」


男の低い声。


リダルダが、静かに脚を組み替える。


机の上では、長いネイルの指先がゆっくり組まれていた。


「惑星アストレア全域のIDリングへ、“強制追跡モード”を適用してはどうなのか?」


空気が、一瞬で張り詰める。


「お待ちください。それは市民権保護法へ抵触します」


「位置情報だけではありません。脳波・感情波形・行動履歴まで中央管理局へ集約されます」


「そんなことを気にしている段階ではないのでは?」


リダルダの長いネイルが、机を静かに打った。



(第百二十章・了)


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