監視圏外
港湾街から少し離れた惑星グランディアの市街地は、人間とアンドロイドで溢れていた。
空には、発光レーンに沿って無数の無人タクシーが飛び交っている。
惑星アストレアからの観光客も多い。
両腕へ幾重にもリングをはめた若者達が、街を歩いていた。
グランディア人には、本物との違いなど分からない。
この星ではそれが、“上流風”のファッションとして流行していた。
タシトとミルルは、新しい居住地と、認識阻害システムを維持できる環境を探っていた。
ポワレの夫から借りた服では、タシトの両腕を隠しきれなかった。
「うわーお兄さんのリング、リアルだなぁ」
話しかけてきたのは、ファッションリングを専門として販売している店のオーナーだった。
店内の視線が、一斉にタシトへ向いた。
「カッけーな……。お兄さん、よく似合ってる!ちょっと見せて」
「それ特注?」
「……触るな」静かな低い声。
空気が、一瞬で冷える。
タシトのただならぬ雰囲気に、オーナーの手が引っ込む。
タシトとミルルを見送った後。
オーナーは、遅れて背筋に寒気が走るのを感じた。
「……まさか、本物じゃないよな」
◇
「タジィト様、この服……ミルルが買ってもいいですか?」
洋服店のディスプレイ。
グレーのシャツへ、ミルルは視線を向けた。
今のタシトより、この街に馴染みそうだった。
「無駄な金は使うな」
タシトは、静かに言った。
「送金も止められている」
「大丈夫です。父の口座、こっちにも残ってるので」
ミルルは、慌てて笑う。
「気にしないでください。ただの修理工ですがお金の使い道がない人なので」
「……」
タシトの視線が、自分の両腕のリングへ落ちる。
短い沈黙。
「……ありがとう。必ず返す」
◇
着替えを終えたタシトが、更衣スペースから姿を現す。
「……っ」
ミルルは、思わず息を呑んだ。
軍服でも特殊スーツでもない。
それなのに。
どんな服を着ても、結局目立ってしまう。
「似合ってます!」
思わず声が出る。
タシトは、少しだけ視線を逸らした。
◇
その頃、惑星アストレアでは。
軍上層部による緊急会議が開かれていた。
そこには、以前ルイゼンと共に現れたオルデンコアの重鎮――リダルダの姿もある。
「まだタシトが見つかっていないだと!?」
軍上層部の声が響く。
「コロニー及び惑星アストレア全域へ捜索網は展開済みです」
「ですが、惑星規模が広すぎる。高度な認識阻害システムを使用されていた場合、追跡は極めて困難かと」
短い沈黙。
「それならば――」
男の低い声。
リダルダが、静かに脚を組み替える。
机の上では、長いネイルの指先がゆっくり組まれていた。
「惑星アストレア全域のIDリングへ、“強制追跡モード”を適用してはどうなのか?」
空気が、一瞬で張り詰める。
「お待ちください。それは市民権保護法へ抵触します」
「位置情報だけではありません。脳波・感情波形・行動履歴まで中央管理局へ集約されます」
「そんなことを気にしている段階ではないのでは?」
リダルダの長いネイルが、机を静かに打った。
(第百二十章・了)




