グランディアの憩い
家に付くと、アンドロイドが出迎えた。
クリーム色の柔らかな色合いの母屋だった。
「やっぱりアンドロイド見ると、 “グランディアに来た”って感じする」
ミルルは、まじまじと、出迎えてきたアンドロイドを眺める。
「惑星アストレアでは、三大禁忌のひとつだもんね」
小さな家だったが、 作業用や介護用のアンドロイドが、 当たり前のように生活へ溶け込んでいた。
「ねぇ、ミルルって特殊能力レベル六だっけ?」
ポワレが聞いてきた。
「うちらは能力値がないから移住できたけど、ミルルは大丈夫なの?」
「うん、迷惑はかけない。居住地見つけたらすぐ出ていくよ」
「ごめんね。周りが厳しくてさ。でも、この星にいる間は協力するから」
「ありがとう。ポワレ姉さん」
「ねぇ、あの子と付き合ってるの?」
ルディが、フードを脱いでたたんでいるタシトを見て聞いてきた。
ミルルは、真っ赤になった。
「やだ!図星?」
「違うよー!! そんなの私が一方的に……」
言いかけたところで、言葉が途切れた。
「……親友、だから」
ミルルは、呼吸を整えるように言った。
「へぇ、彼はどう思ってるのかな?聞いてきてあげよっか?それとなく」
「ルディ、頼むからそっとしといて」
ミルルの言葉に力がはいっていた。
「ごめん、邪魔しないって?でもモテるだろうな彼……」
タシトは、グレーの特殊スーツ姿のままだった。
鍛えられた体躯と、整いすぎた立ち姿。
この港町には、どうしても馴染まない。
「ここにいる間は、旦那の服を着るといいよ」
ポワレは、旦那の服を何着か持ってきて、ソファーへ並べた。
「ありがとうございます。ポワレさん」
「本当、かわいい子だねぇ」
◇
食事は、簡易パックではなかった。
湯気の立つ料理が、次々とテーブルへ並べられていく。
AI文明が発達した惑星グランディアでも、家庭料理の文化は残っている。
調理をしているのは、家庭用アンドロイドだった。
ポワレの夫は、長期出張で不在らしい。
「……ご馳走さまでした」
食事を終えたタシトは、静かに器を持ち上げた。
そのまま、流れるような動作で食洗機へ運ぶ。
「はぁ……かっこいい……」
ミルルの口から、思わず本音が漏れた。
「大丈夫? ミルル」
ルディが、不思議そうに覗き込む。
「な、何でもない!」
ミルルは慌てて顔を逸らした。
その時だった。
器を受け取ったアンドロイドの動きが、不自然に止まる。
《ERROR》
緑色の光が、頭部でくるくると回転した。
そして――停止する。
「あれ?」
ポワレが目を丸くする。
「どうしたんだろ……」
慌てて端末を開き、設定確認を始めた。
タシトは、無言で自分の両腕へ視線を落とす。
全制御されて光っているリングが、わずかに脈打っていた。
「さ、あんたらは同じ部屋でいいね?」
ルディは、ミルルにウィンクして離れの鍵を渡した。
「ちょっ!それだけは……」
「問題ない」
タシトは一言だけ答え、ルディから鍵を受け取った。
そのまま、離れへ向かう。
「何だろう……今、彼、雰囲気ぜんぜん違ったことない?気のせい?」
ルディは、目をしばたかせた。
「親友だからって、男女で同じ部屋は……!」
ミルルの顔が真っ赤に染まっていた。
離れへ入った瞬間。
ずっと憧れていたタシト隊長が、 今、同じ部屋にいるのだと実感した。
「明日は街に出る」
低い声に、ミルルははっと現実へ引き戻された。
タシトは、窓際に並ぶベッドへ静かに腰を下ろす。
◇
夜。
ミルルは、小さく息を呑んで目を覚ました。
暗い天井。
――血。
訓練施設の光景が、まだ消えない。
……ユウナギ。
呼吸が浅い。
汗ばんだ指先が、シーツを掴んだ。
その時だった。
「……眠れないのか」
低い声。
ミルルは、はっと顔を上げる。
離れの窓際。
タシトが、外を見ていた。
(第百十九章・了)




