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残響


『突入部隊との通信は途絶。惑星アストレア特殊能力訓練施設襲撃事件で、訓練生二十一名が死傷』


『なお、一部訓練生との連絡が――』


病院の個室モニター。


ヨガサの手から、飲み物が落ちた。


「……え?」


画面には、崩壊した別館B棟が映し出されている。


その瞬間。


全身の奥底が、震えた。



スコーラオが研究室へ戻ると、 内部は騒然としていた。


「……その検体は?」


助手の声が、引きつる。


スコーラオは、気軽な調子で答えた。


「あー、急いでくれる?」


一拍。


「――友達なんだ」


研究員達の空気が、止まる。


運び込まれたユウナギの上半身は、 血に染まっていた。


大型水槽が開く。


液体の中へ、静かに沈められていく。


最初、 水槽内部は赤く濁った。


だが――


徐々に、 色が薄れていく。


透明な液体の中で、失われた断面だけが、 痛々しく浮かんでいる。


「スコーラオ様……」


助手の声が、震える。


「こちらのご友人……本当に、生存しているのですか?」


短い沈黙。


スコーラオは、 静かに水槽を見つめていた。


「……わからない」


「え?」


「損失率は?」


助手が、息を呑む。


「……約六十パーセントです」


研究室の空気が、凍りつく。


――“リザーズ・テイル”。

損失四十パーセント以内。

それが、 再生可能な絶対条件だった。


六十パーセント。


本来なら、 蘇生対象にすらならない。


「……ただ」


スコーラオの視線が、 水槽のユウナギへ落ちる。


「今までと条件が違う」


助手が、顔を上げた。


「高能力者なんだよね。この子」


静かな声。


「そこが、どう影響するかだな」



「――ユウナギ!!」


ミルルは、息を切らして目を覚ました。


荒い呼吸。


全身が、汗で濡れている。


薄暗い天井。


小さく揺れる振動。


「……っ」


ここは。


飛行船の客室だった。


窓の外には、 人工光に照らされた宇宙航路が流れている。


惑星グランディア行き。


到着まで、あと三日。


「……ごめん」


ミルルの瞳から、涙が零れ落ちた。


――目を離さない。


それが、ソウルメイトの鉄則だった。


なのに。


タシト隊長を守ろうとして、ユウナギから目を離した。


「……私のせいだ」


喉が、詰まる。


あの瞬間が、何度も脳裏で焼き直される。


赤い光。


崩れるシールド。


血。


「……っ」


だが。 


もし、あの時タシト隊長を庇わなければ。


――隊長は、死んでいたかもしれない。


断言は、できなかった。


失いたくなかった。


ミルルは、震える指を強く握る。


客室の端末へ、複数のID偽装コードが流れていた。


アストレア軍の追跡を避けるため、航路情報を撹乱している。


以前の高層マンション立てこもり事件。


ミルルは、犯人が使用していた認識阻害システムを、独自に解析していた。


本来は、顔認識欺瞞用に開発された技術。

だが――


応用すれば、追跡撹乱にも転用できる。


――今だけは、それが役に立っていた。


「……大丈夫か? ミルル」


タシトが、飲み物を差し出す。


ミルルは、はっと顔を上げた。


「あ……ありがとうございます」


両手で受け取る。


まだ、指先が震えていた。


タシトは、それ以上何も言わない。


だが。


今、タシト隊長は自分のためだけに向き合っている。


その事実だけで、胸の奥が熱くなった。


不謹慎だと分かっている。


ユウナギが、あんな事になった直後なのに。


それでも。


ミルルは、視線を落としたまま、そっと飲み物へ口をつけた。


窓の外は、闇だった。


遠くの恒星が、涙のように小さく瞬いている。


飛行船は、静かに惑星グランディアへ向かっていた。


(第百十四章・了)


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