別離
瓦礫の山の中。
タシトは、静かにカナタの側へ歩み寄った。
ミラが、顔を上げる。
「……すまない」
低い声。
タシトは膝をつくと、 カナタの頬を伝う血を、そっと拭った。
「ミラ」
「……はい」
「カナタは覚醒した」
静かな声だった。
「少なくとも、……本来、報告されていたレベル11以上の力を超えている」
ミラの表情が、強張る。
「今は、再び封印されたように見える。だが――今までとは違う。一時的な可能性が高い」
短い沈黙。
「聞かれたら、そう答えてくれ」
ミラは、息を呑んだ。
「……タシト隊長」
自然と、言葉が漏れる。
「どこかへ行かれるのですか?」
自分でも、なぜそんな事を聞いたのか分からなかった。
まるで。
もう二度と戻らない人へ向ける言葉だった。
救急特殊医療班が、到着する。
「カナタを頼む」
タシトは、崩壊した施設を一瞥すると、そのまま外へ向かった。
その時だった。
「行かないで下さい」
震える声。
ミルルが、立ち上がっていた。
「私も……連れて行って下さい」
タシトは、振り返らない。
「勘違いするな」
冷たい声。
「お前は、足手まといだ」
ミルルの肩が、わずかに震える。
それでも。
「……惑星グランディアですか?」
沈黙。
タシトの足が、止まった。
ミルルは、息を整える。
「アストレアの追跡から逃れられるなら、あそこしかありません」
「特殊メガネの入手経路も、グランディアです」
「隊長が、そこへ接触していたなら――」
震える声だった。
「協力者もいます」
タシトは、答えない。
「今の隊長は、リング制御状態です」
「何があったなんて聞きません」
ミルルは、一歩踏み出した。
「単独行動では、追跡を切れません」
短い沈黙。
「……でも、私なら防御できます」
「隊長が動くまでの数秒なら、稼げます」
震える手を、強く握る。
「お願いします」
涙を堪える声。
「一人で行かないで下さい」
◇
『速報です』
崩壊したモニターから、ニュース音声が流れていた。
『本日、惑星アストレア特殊能力訓練施設・別館B棟にて、大規模襲撃事件が発生しました』
映像には、崩壊した施設が映し出される。
『軍の発表によりますと、アークヘイム軍団残党による武装襲撃と見られており――』
画面が切り替わる。
武装した軍。
運び出される負傷者。
『現在、軍による制圧は完了。生存者の救助活動が続いています』
短いノイズ。
『なお、一部訓練生との連絡が取れておらず――』
そこで、映像は途切れた。
(第百十三章・了)




