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消失

「……何だろう」


スコーラオは、顎へ手を当てた。


「どうされました?」


「感じるんだよ。……妙だな」


助手が、首を傾げる。


「何か、ありましたか?」


「外で。……いや、“遠く”か」


助手は、窓の外へ視線を向けた。 続けて、端末のニュースを確認する。


「……いえ。特に異常報告はありません」


惑星アストレア。


スコーラオのいるコロニー・リオンドから、およそ五万キロ。


王のいるルミナリアまでは、約七十万キロ。


比較すれば、近い距離だった。


「……瞬間移動なら、中継地点一回ってところか」


「え? どこかへ行かれるんですか?」


スコーラオは、ゆっくり立ち上がる。


「そうだな」


一拍。


「……ちょっとトイレ」



「……エルナス様。あなたを解放すれば、再びリングを操作される可能性がある」


ルイゼンは、エルナスの両手を背後へ回させる。


拘束具が、静かな音を立てた。


「しばらく、拘束させていただきます」


「……もう、後戻りはできないぞ。ルイゼン」


セリューが、首元から流れる血を押さえながら睨みつける。


エルナスは、拘束されたまま静かにルイゼンを見る。


「……タシト少佐は、お前が思うほど“人形”じゃない」


一瞬。


ルイゼンの瞳が、わずかに揺れた。


「大分、血が出ていますね」


感情のない声。


「セリュー。あなたは、もう解放してあげますよ」


次の瞬間。


ルイゼンとエルナスの姿が、掻き消える。


同時に。


セリューを取り囲んでいた青白い光も、消滅した。


「……っ」


膝から崩れ落ちる。


床へ拳を叩きつけた。


「……ルイゼン」



その瓦礫の中央に――


リエルが、立っていた。


優しい光が、崩れた天井から静かに降り注ぐ。


リエルは、ゆっくりとカナタへ歩み寄った。


そっと抱きしめる。


次の瞬間。


青白い暴走が、嘘のように消えた。


カナタが、崩れ落ちた。


「……封印したのか?」


タシトが、静かに呟く。

ミルルをそっと床へ寝かせ、 カナタへ近づいた。


その時だった。


「うわー。何だこれ?」


場違いなほど軽い声が、崩壊した施設へ響く。



「……スコーラオ」


その名を口にした瞬間、

タシトの鼓動がわずかに跳ねる。


呼吸が乱れる前に、 即座に整えた。


「あ!」


スコーラオが、怪訝そうに目を見開く。


「君、あの時の“私を殺そうとした少年”じゃない?」


タシトは、答えない。


「うわー。なんか、めちゃくちゃ大きくなってるねぇ」


「……」


「あれ? あの時の勢いは?」


スコーラオは、倒れた兵士を避けながら近づいてくる。


「……止まれ」


低い声。


するとスコーラオは、歩みを止めた。

辺りを見回す。


「……何?」


視線が、タシトの腕へ落ちる。


特殊スーツの隙間。


リングの光が、薄く漏れていた。


「……もしかして、リング制御されてる?」


「……」


スコーラオの口元がわずかに歪む。そして、再び歩み始める。


「――簡単だな」


その瞬間だった。


「スコーラオさん!!」


震える声。


ミラだった。


スコーラオは、ゆっくり振り返る。


「え? ミラちゃん?」


タシトへ背を向け、 瓦礫の向こうへ歩いていく。


「ユウナギが……!」


声が、震えていた。


「ユウナギが……っ!」


そこには。


下半身を失ったユウナギが、倒れていた。


静かだった。


「……即死か」


スコーラオは、しゃがみ込む。


そっとユウナギへ触れた。


「……何だろうな、これ」


空気が、わずかに変わる。


「ミラちゃん」


スコーラオは、いつもの調子で笑った。


「ユウナギくん、ちょっと貰うね」


一拍。


「一応、再生医療のおにいさんだけど、期待はしないでね」


次の瞬間。


ユウナギの身体が、光に包まれる。


そして――消えた。


静寂。


タシトは、はっと瓦礫の中央を見る。


「……リエル?」


そこには、もう誰もいなかった。



(第百十二章・了)


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