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静寂の崩壊

「おはよございます!」


ミルルが、先にいるタシトを見つけて声を上げた。


別館B棟の通路。


タシトは、柱へ手を添えたまま、 施設内を流れるフィールドの乱れを探っていた。


――何かがおかしい。


「ああ……おはよう」


タシトは、一瞬だけミルルへ視線を向けた。


ミルルは、小さくガッツポーズをする。


「ほんま好きなのな」


隣を歩くバーチが、小さく笑った。


「この前さ、エルナス王、生でみただろ?

タシト隊長となんか似てない?」


「どの辺が?」ミルルは不思議そうにバーチをみる。


「何かこう……顔だよ!ハッキリ言うと」


「えー? 全然似てないよ。タシト隊長の方がずっとカッコいいもん」


「……」


少しの間。


「いや王の方がカッコいいだろ」二人は、笑っていた。



巨大な水槽の中。 “半分だけ残された頭部付きの肉体”が、静かに浮遊していた。


その前で、スコーラオは目を細める。


「スコーラオ様、生体反応は良好です」


「何だろうね」


リングレベル十を解除されたスコーラオは、早朝から研究に没頭していた。


「これほど都合の良い検体は、なかなかありませんでしたから」


「ルシエル因子は、やっぱり特殊能力に反応するよね。解除十以上で干渉させたから違うのかな」


スコーラオは、興味深そうに顕微鏡を覗き込む。


「ただ、増殖速度と同時に、異常な勢いで打ち消し反応も起きています。五十%では、やはり……」


「少し様子を見ようか」


「あ、見て。ルシエル因子そのものが増えてる。凄くない?」


そして、スコーラオは自らの腕へ視線を落とした。

発光は、消えている。

――“解除十”。


その状態は、今も維持されたままだった。



別館B棟では、生徒達が次々と戦闘スーツへ着替え、訓練場へ集まっていた。


中央には、タシトの姿。


早く来た者達は、開始時間まで各自でストレッチをしていた。


カナタは、早朝にルイゼンの送迎で施設へ到着していた。


「ヨガサさん、……今日は遅いな」



ヨガサは、潮風が遠くから運ばれてくる並木道を走っていた。


「あ、遅刻する……!」


無人タクシーが捕まらない。 別館B棟までは、まだ一キロ以上ある。


「こんな時に瞬間移動できたらな……」


その時だった。


「あれ? プラス先生?」


付近のレストランで朝食を済ませたプラス先生が、無人バスへ乗り込もうとしている。


黒い戦闘服の集団が、 いつの間にか周囲を囲んでいた。


ヨガサの足が、止まる。


次の瞬間――


辺り一帯を、凄まじい電流が走り抜けた。


街路樹が弾ける。


鳥達が、力を失ったように次々と落下した。


「――っ」


ヨガサは、その場へ崩れ落ちる。


呼吸ができない。


視界が、落ちる。


だが。


プラス先生は、シールドを展開していた。


閃光。


同時に――


バスの窓が内側から砕け散る。


プラス先生の身体が、外へ飛び出した。


遅れて、銃声。



一キロ以上離れた別館B棟。


「……」


タシトの視線が、ゆっくりと外へ向く。


空気が変わっていた。


「訓練は中止だ」


静かな声だった。


その瞬間。 訓練場の空気が、張り詰める。


「防衛を維持しろ。気を抜くな」


いつもの指導とは違う。


――命令だった。


それだけ言い残し――タシトの姿が消えた。



(第百八章・了)


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