歓迎される敵
惑星アストレア――
別館B棟から数キロ離れた廃倉庫。
薄暗い室内には、 武装した十数人の姿があった。
「なぁ、本当に突破できんのか? あそこの監視網、特殊部隊仕様だろ」
男が煙草を踏み消す。
「問題ない。 時間指定で、一瞬だけ監視システムが落ちる」
「内部協力者か?」
「さぁな」
短いやり取りの後。
「……なぁ、これ。 出来すぎてないか?」
娘は、飴を噛み砕きながら顔を上げた。
「何がだ」
「監視の穴も、警備の薄い時間も…… 全部、“向こうから置かれてる”みてぇだ」
男は、無言で弾倉を押し込む。
「今さら降りるか?」
「……降りねぇよ」
娘は、車へ銃を放り込んだ。
「ただ、気持ち悪ぃだけだ」
男は、古びた地図を荷台へ広げる。
「侵入口は裏口だ。 正面は陽動に使う」
一枚の写真が、 地図の上へ滑らされた。
「目標は―― タシト・レヴァント」
◇
コロニー・ルミナリア。
早朝の執務室。
エルナスは、開いた書類フォルダを胸元に落としたまま、椅子にもたれていた。
机には、未処理の書類データが 立体ホログラムで積み上がっている。
「……終わらんな」
傍らには、セリュー。
窓の外は、まだ薄暗い。
その時。
扉が、静かに叩かれた。
「失礼します」
入室してきたのは、ルイゼンだった。
「どうした?」
エルナスが視線を上げる。
「惑星アストレアにて、 アークヘイム軍団と思われる集団の動きが確認されました」
「……アークヘイムか」
エルナスの眉が、わずかに動く。
「執拗にアンドロイドを狩っている組織だったな」
「はい。 特殊部隊訓練施設・別館B棟を 目標にしている可能性があります」
「……どういうことだ?」
「詳細は不明です」
短い沈黙。
「タシト少佐がいる。 問題にはならんだろう」
エルナスは、再び書類へ視線を落とした。
だが。
「それが―― 現在、タシト少佐と連絡が取れません」
空気が変わる。
「……何?」
「広域妨害地場が発生しています」
「地場?」
エルナスは、ゆっくり顔を上げた。
「アークヘイムに、 そこまでの技術力があるのか?」
「不明です。 ただ、背後に巨大組織がいる可能性があります」
セリューの視線が鋭くなる。
「……ここから別館B棟までは、 飛行船で二時間弱か」
「瞬間移動能力を使用すれば、 飛行船の中継地点を経由して、 一分以内に到達可能です」
ルイゼンは、淡々と続けた。
「生徒達の安否が懸念されます」
エルナスは、静かに目を閉じる。
「……そうだな。 セリュー、頼めるか?」
「いえ」
ルイゼンが先に口を開いた。
「私が向かいます。施設内部を把握していますので」
沈黙。
「……わかった。頼もう」
エルナスは、低く答えた。
「解除は、十でいいな?」
その瞬間。
ルイゼンが、わずかに目を細めた。
「――いえ」
静かな声。
「応戦の可能性がありますので、
――全解除で向かいます」
空気が、わずかに張り詰める。
(第百七章・了)




