表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
106/130

夜明け前


エルナスは、カナタに気付くと、 ほんの少しだけ視線を向けた。


「訓練には慣れたか?」


突然声を掛けられ、 カナタは一瞬だけ言葉に詰まる。


「……はい。問題ありません」


「そうか」


短いやり取り。


それだけだった。


だが周囲の学生達は、 思わず顔を見合わせていた。


王が、一人の学生へ直接声を掛けた。


その意味を理解できないまま、 ざわめきだけが静かに広がっていく。


ユウナギだけが、 唇を強く噛みしめていた。



「やばいくらいカッコ良かったな。生の王」


「ほんまそれ!」


「カナタさん、声かけられてたな。すごくない?」


「いいなぁ~」


女子生徒達が、 興奮気味に笑い合う。


「あ、……たまたまです」


カナタは、居心地悪そうに視線を落とした。


「俺は、あのスコーラオって人見て鳥肌立ったぜ。なんかオーラ際立ってなかった?」


「あの人、前ニュースで見た。研究者だろ?」


「……護衛の人、王宮の人だったんだ。また会えるなんて嬉しい」


「わかる!爽やかで優しそうだよね」


エルナス達が帰った後も、 休憩スペースには熱気が残っていた。


王宮の人間が視察へ来るなど、 普通なら一生に一度あるかどうかだ。


誰もが、 どこか浮き足立っていた。


人の輪から少し離れた場所で、 ユウナギが声を掛ける。


「……大丈夫か?」


「え?」


「復帰してから元気ない」


カナタは少しだけ目を逸らした。


「……平気」


短い沈黙。


「無理すんなよ」


それだけ言って、 ユウナギは歩き去っていく。


カナタは、 遠ざかっていく背中を静かに見つめていた。


胸の奥が、 わずかに痛んだ気がした。


その時はまだ、 誰も知らなかった。


この夜が、 境界線になることを。



王宮、執務室では。


「これで、一回分だね」


「……ああ」


王宮に戻るとスコーラオは、エルナスに言った。


「いつが、いいんだ?」


「明朝から解除を頼むよ。検体が腐る前にね」


「……わかった」



軍が動く。


ヘリコプターが基地を旋回している。


銃を構える部隊が次々に軍用車に乗り込んだ。


「失敗は許されない。――“あれ”を使う」


男が顎で示した先には、

ステルス製の円盤型ドローンが並んでいた。



惑星アストレアの片隅にある町では、

古びた車のフロントに、タシトの写真が雑に貼り付けられていた。


「特殊能力者の生徒に説明しとかないとやばくないか?」


「俺たちは敵じゃないことをか?」


「そんな時間あるか? ターゲットに逃げられる。声を張り上げりゃいい」

男は武器のチェックを終えると、エンジンをかけた。


ワゴン車のドア付近からノックする音が響いた。

女は、窓を開ける。


「ねぇ、もう行っちゃうの?にいにが寂しがってた」


頭を撫でる女。


「土産話、楽しみにしてろよ」


女がそう言うとキャンディをポケットから取り出し少年に手渡した。


「ありがと!」



夜明け前。


タシトは、静まり返った訓練施設のゲートをくぐった。


「……?」


いつもと違う。


空気が、妙に静かだった。


遠くで、ヘリの音が鳴っていた。

タシトは足を止める。


――嫌な予感がした。



(第百六章・了)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ