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白衣の男

コロニー・ルミナリアの王宮の昼は、ひんやりと静まり返っていた。


「元気?」


その後にノックの音がする。スコーラオが顔を出した。


「……スコーラオ殿」


エルナスは、一瞬だけ目を細めた。

鋭い視線が、白衣姿の男へ向けられる。


「また、逆だったね……」

スコーラオは、自らのノックした手に視線を落として小さく笑った。


「護衛に来たよ。セリューを“本気”で休ませてあげたくてね。私なりの慈悲だよ」


スコーラオは、悪びれる様子もなく笑った。


「余計なお世話です」


後ろから追いかけてきたセリューが、冷たく言い放った。


「護衛なら今日は結構だよ」


エルナスは、端末に視線を戻すと答えた。


「冷たいなぁ。せっかくコロニー・リオンドから飛行船で二時間もかけて来たのに」


「私の研究施設から惑星アストレアの王都なら、八分で着くんだよ?」


「勝手に参られたのでしょう?」


「いやさぁ、王宮いろいろあるけど、わざわざ遠いコロニーの王宮じゃなくてもいいじゃない?」


エルナスは、静かにスコーラオを見た。


「話はそれだけか?」


「……もう、はっきり言うとね。レベル十の解除がもう一回欲しいんだ!お願い」


「……今日の護衛は足りています」セリューは、冷ややかな眼差しでスコーラオを見た。


「……」


「ねぇ。別館B棟って今、学生達いたよね?」


「……強化訓練中です」


「カナタちゃんもいるよね」


スコーラオは、窓の外へ視線を向けた。


「少し見に行こうかな」


「観光気分で動かれると困ります」


セリューは、即答した。


「違う違う。未来の精鋭達を労うのも王の役割じゃない?“警護”のひとつとしてお供するよ。セリューも全解除でお疲れだろうし」


スコーラオは、真面目な顔で同情した。


しばらくして。


恒星ソレイユの光が優しく降り注ぐ。


スコーラオは、相変わらずソファーに寝そべりながら紅茶を口にしていた。


「悪いね、クッキーとかない?」手を上げ、近くに控えていた執事に目配せした。


「……暇なのか?」


エルナスは、端末から視線を外さないまま答えた。


「ひどいじゃないか。私はとっても忙しいんだよ」

ティーカップを指先で遊ばせた。


「何? 怒ってるの?」

スコーラオは、カップの中を覗き込んだ。

「だったら謝るよ。一応ね」


「……」


「せっかく“それらしい因子”を手に入れても、どうしても上手く作用しなくてね」


「再生医療の“リザーズ・テイル”装置。40%以上の安定的な再生可能を目指している、だったな?」


「……そういうこと。社会貢献したいんだよ」


スコーラオは、紅茶をひと口飲んだ。


エルナスは、しばらく無言で端末を見つめていた。


「……今日は、惑星アストレアへ向かう予定だ」


エルナスは、そう言うと静かに口を開く。


「ルイゼンを呼んでくれ」



惑星アストレア訓練施設・別館B棟。


夕刻。


訓練を終えた学生達が、休憩スペースへ集まり始めていた。


その時だった。


「誰だ、あれ――」


入口付近がざわつく。


「……っ」


誰かが息を呑んだ。


「エルナス王……!」


空気が、一瞬で張り詰める。


学生達がざわつく中、 白衣姿の男だけが場違いな笑みを浮かべていた。


「……スコーラオさん?」


ミラが、目を見開く。


「久しぶりー、ミラちゃん」


スコーラオは、自然な動作でミラの肩を抱き寄せた。


「えっ……!?」


あまりに唐突で、 ミラ自身も反応が追いつかない。

周囲の視線が集まり、 ミラの頬が一気に熱くなる。


ソウルメイトのシャドは、目を丸くした。


——いつ入った?

そんな錯覚を覚えるほど、 男の距離の詰め方は自然だった。


「へぇ。ここが未来の精鋭達か」


スコーラオは、興味深そうに周囲を見回した。


その後ろには、 ルイゼンの姿もある。


「……まじか」

ソードが、呆然と呟いた。


少し離れた場所で、 ユウナギは、その光景を無言で見ていた。


「……何で、王がここに」


胸騒ぎが消えない。


白衣姿の男を見た瞬間。

訓練施設の空気が、わずかに変わった気がした。



休憩ラウンジに集められた学生たち。

プラス先生も、以前と変わらず緊張した面持ちだった。


「皆、楽にしてくれ」


エルナスが静かに言う。


張り詰めていた空気が、少しだけ緩んだ。


「強化訓練の報告は受けている。今日は視察というより、労いに来た」


「王直々に!?」


「やば……」


ざわめきが広がる。


その横で、スコーラオだけが退屈そうに欠伸を噛み殺していた。


少し遅れて、 休憩スペースへカナタが姿を現した。


「……っ」


数人の視線がカナタへ向く。

だが、すぐに意識はエルナスへ戻った。


スコーラオだけが、

遅れて現れたカナタを静かに見ていた。


「……」


その視線に気づき、

カナタは無意識に目を逸らす。


ふと。


スコーラオの視線が、その後ろに立つルイゼンへ流れた。


「……?」


一瞬だけ。


何かが引っかかったように、

スコーラオは目を細める。


だが次の瞬間には、

いつもの笑みに戻っていた。


エルナスは、カナタに気付いたが、淡々と労いの言葉を続けた。


「君たちを私は誇りに思う」



(第百五章・了)


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