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隠した左手

特殊ガラスの向こう――

校舎の外では、ルイゼンが警備担当へ短く引き継ぎを行っている姿が見えた。


「カナタ!」

ミラは、駆け寄った。


「どうしてたの? 大丈夫だった?」


「うん。ごめん、ありがとう」


「来たか。連絡もらってたからそろそろだと思ってた」

プラス先生が笑顔で迎えた。


「先生、長い間すみませんでした」


「いや、お前の都合でもなかろう。気にするな」


更衣室で戦闘用スーツへ着替えたカナタは、訓練生達の列へ戻った。


「おはよ」


ユウナギが優しく微笑みかけた。


「おはよ」


カナタは、頭を軽く下げるとよそよそしく下を向いた。


ユウナギは胸騒ぎがした。


エルナス王と何かあった?


――いや。


カナタの左薬指に、指輪がはめられていた。


「……あ」


ユウナギの顔から血の気が引いた。


「うわ……それ、婚約指輪か?」 ソードが目を丸くした。


「めちゃ高そう……」


青く輝く見慣れない宝石が、指輪へあしらわれていた。



「う、うん」


そう言うとカナタは、左手を右手で隠すように握り込んだ。


「では、続きを始める。“閃光型シャインスフィア”――目を潰すほどの白光を放つ技だ」


プラス先生は手を叩いた。


訓練場では、閃光型シャインスフィアの実演が続いていた。


一瞬の白光。

数名の訓練生が思わず目を覆う。


「うおっ……!」


「これ、近距離で食らったら何も見えねぇな……」



「なぁ、カナタちゃんって今どこに住んでるの?」


ソードは、訓練施設の実技講習が終わった後、髪をタオルでふきながら聞いてきた。


「それは……ちょっと」


「よく分かってないんだ。カナタ自身も。送迎されてるから。そうだろ?」ユウナギが助け船を出す。


「うん」


「なぁ、カナタ久しぶりにお昼一緒に食べよう」ユウナギは、微笑んだ。


周囲では、訓練を終えた学生達が、食事や休憩のため施設内を移動していた。


カナタは、目も合わせることなく言葉を切った。


「……ごめん」


そう言うと、足早にミラの元へと走って行った。


「カナタちゃんも、ひとの者になっちまったんだからさ。いつまでも幼なじみ感覚でいたら駄目でしょ、ユウナギくん」


ソードは、ユウナギの肩に腕を回した。


「……やめろ」


それは、ユウナギらしくない圧があった。


ソードは、驚きはしたが珍しく何も言い返さなかった。


昼休み。


ユウナギは、施設と浜辺の境にある石段へ腰を下ろし、ひとり海を眺めていた。


遠くで波の音が響く。


訓練施設からは、学生達の笑い声が微かに聞こえていた。


「……もう、無理かもしれないな」


指輪を隠すように握ったカナタの手が、 何度も脳裏に浮かんだ。



(第百三章・了)


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