消される未来
上層部による極秘会議が終わった後も、 室内には重苦しい空気が残っていた。
「“婚約者を人質”に取れば良いものを」
「浅はかだな。知ったその瞬間に、俺たちはタシトに殺られる。そもそも人質に取れるかもわからない」オッドーは言った。
「リダルダ様の話では、 王を説得できないなら――」
「脅迫してでも、タシトのリングを完全封鎖するしかないと……」
「本気で、タシトを殺る気だな」
「……王に圧力をかけるなど。事後報告で済む話ではあるまい」
「それは、もはや謀反ではないのか?」
沈黙。
「セリュー殿がいる。どうやるんだ?」
その場の誰もが、 同じ人物の名を思い浮かべていた。
「……まさか、ルイゼン殿が」
「オルデン・コア側についていたとはな……」
◇
「どうした? ルイゼン」
エルナスが、端末から視線を上げた。
「無事、カナタさんを訓練施設別館B棟へ送迎しました」
「そうか。ありがとう」
王の視線は、再び端末へ戻る。
わずかな沈黙。
「……エルナス様。タシト少佐の件ですが」
ルイゼンは、静かに口を開いた。
「彼は、計り知れない力を持っています。先日の王宮での呼び出しで――私程度の者でも、それを感じました」
「……」
エルナスは、何も答えない。
「差し出がましいことは承知しております。ですが……タシト少佐のリングを、ある程度制御下に置くべきではないかと」
一拍。
「完全制御とまではいかなくとも」
「……そうだな。彼は何を考えているのか掴めないところが多い」
エルナスは、端末を静かに閉じた。
「だからこそ、彼は狙われたと私は思っている。居住区の崩壊にしても――だが彼がもう一度狙われたら命の保証がない」
静寂が落ちる。窓の外で青の蝶が舞う。
「……それでは、カナタが悲しむ」
「……その方が、都合が良い者達もいるのでしょう」
ルイゼンは、わずかに視線を落とした。
「もっとも――エルナス様の前で口にする気はありませんが」
◇
ルイゼンが退出した後、
エルナスは、首をゆっくり横に振った。
「……私にも都合が良いとでも言いたかったのか、ルイゼン」
エルナスは、小さく息を吐く。
「……悪ふざけだ」
(第百二章・了)




