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必要な距離


「戦場では、ソウルメイトはペアから目を絶対に離すな」


プラス先生の低い声が訓練場に響く。


「それが最も生存率を高める。 ――部隊の鉄則だ」


張り詰めた空気の中、 ソードが小さく顔をしかめた。


「いや、ほんと大丈夫なのかよ……」

隣のバーチを見る。


「何が?」


「お前、やっぱDefence向いてないだろ」


「は? ちゃんと守ってやってるだろが!」


「どの辺がだ!?」


「静かにしろ」


プラス先生の一声で、 空気が一瞬で凍る。


「お前達は学生だ。だが、既に案件には参加している」


視線が訓練生達を貫いた。


「給金も発生している以上、半端な気持ちは許されない」


一拍。


「今の時点で“プロ意識”に欠ける者は――見込みなしと判断する」


プラス先生の声が、訓練場に鋭く響く。


その後、訓練場で無駄口を叩く者はいなかった。


張り詰めた空気の中、 学生達は、それぞれのリングへ意識を集中させていた。


ここは、惑星アストレア。 特殊部隊訓練施設・別館B棟。


正式入隊を目前に控えた学生達は、最終訓練段階へ入っていた。



「接近戦の模擬を行う。ヴェールガンより近い距離まで敵が踏み込んで来た場合を想定する」


「シャド前に出ろ」


「……はい!」


「遅い」


次の瞬間。


プラス先生のリングが閃いた。


「――っ!」


シャドの足元へ、光弾が走る。


だが。


「Defence!」


半透明の障壁が、瞬時に割り込んだ。


衝撃が弾ける。


膜はキラキラと光り消えていった。


訓練場が、ざわついた。


「……今のを防いだのか?」


「反応、速っ……」


シャドの後ろ。ミラは、息を切らしたまま手を広げていた。


プラス先生は、その光景を無言で見下ろす。


「さすがだな」


ミラは、一瞬たりともシャドから視線を外していなかった。


「接近戦では、ヴェールガンはほぼ使えない」


プラス先生は、訓練生達を見渡した。


「物理的に押し返すことはできる。だが、格上がシャインスフィアを撃てば終わりだ」


一拍。


「だから今日は、逃げるための技、閃光型シャインスフィアを教える」


「目眩ましか……」


訓練生達のざわめきが広がる。


その頃――


別館B棟の外では、カナタとルイゼンが向かい合っていた。


「ルイゼンさん」


久しぶりの登校に、カナタの表情はどこか硬い。


「今日からカナタさんの送り迎えをさせていただきますね」

ルイゼンは、安心させるように微笑んだ。


コロニー・ルミナリアから惑星アストレアまでは、飛行船で二時間弱。


月に一度行われる別館B棟での強化訓練期間中、 カナタだけは毎日そこへ通うことになっていた。


本来であれば、学生達は施設内の寮で生活する。


だが現在、王宮はカナタの身辺警護を強化していた。


タシトの婚約者である以上、 彼女もまた標的になる可能性がある―― そう判断されたためだ。


「施設内はセキュリティが王宮並みだから安心してください」


「……私、狙われてるんですか?」


カナタが素朴に質問をする。


「どうでしょう。ただ、タシト少佐の婚約者である以上、標的となる可能性は否定できません」


カナタは思った。それなら、婚約者でないほうが良かったのでは?


薬指に光るリングを見つめた。


ユウナギを守るため?


わからない。


「タシト少佐の居住区に危険が迫った。――一時、ここで保護する」


エルナスの声が、脳裏によみがえる。


タシト隊長は、狙われている。


――いや。


私といるから、危険になったのではないか。


居住区の崩壊。


あれは、本当は―― 私を狙ったものだったのでは。

胸の奥が、冷えていく。


……ユウナギと関わってはいけない。


ユウナギを守るために。


カナタは、そう思った。



(第百一章・了)


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