必要な距離
「戦場では、ソウルメイトはペアから目を絶対に離すな」
プラス先生の低い声が訓練場に響く。
「それが最も生存率を高める。 ――部隊の鉄則だ」
張り詰めた空気の中、 ソードが小さく顔をしかめた。
「いや、ほんと大丈夫なのかよ……」
隣のバーチを見る。
「何が?」
「お前、やっぱDefence向いてないだろ」
「は? ちゃんと守ってやってるだろが!」
「どの辺がだ!?」
「静かにしろ」
プラス先生の一声で、 空気が一瞬で凍る。
「お前達は学生だ。だが、既に案件には参加している」
視線が訓練生達を貫いた。
「給金も発生している以上、半端な気持ちは許されない」
一拍。
「今の時点で“プロ意識”に欠ける者は――見込みなしと判断する」
プラス先生の声が、訓練場に鋭く響く。
その後、訓練場で無駄口を叩く者はいなかった。
張り詰めた空気の中、 学生達は、それぞれのリングへ意識を集中させていた。
ここは、惑星アストレア。 特殊部隊訓練施設・別館B棟。
正式入隊を目前に控えた学生達は、最終訓練段階へ入っていた。
◇
「接近戦の模擬を行う。ヴェールガンより近い距離まで敵が踏み込んで来た場合を想定する」
「シャド前に出ろ」
「……はい!」
「遅い」
次の瞬間。
プラス先生のリングが閃いた。
「――っ!」
シャドの足元へ、光弾が走る。
だが。
「Defence!」
半透明の障壁が、瞬時に割り込んだ。
衝撃が弾ける。
膜はキラキラと光り消えていった。
訓練場が、ざわついた。
「……今のを防いだのか?」
「反応、速っ……」
シャドの後ろ。ミラは、息を切らしたまま手を広げていた。
プラス先生は、その光景を無言で見下ろす。
「さすがだな」
ミラは、一瞬たりともシャドから視線を外していなかった。
「接近戦では、ヴェールガンはほぼ使えない」
プラス先生は、訓練生達を見渡した。
「物理的に押し返すことはできる。だが、格上がシャインスフィアを撃てば終わりだ」
一拍。
「だから今日は、逃げるための技、閃光型シャインスフィアを教える」
「目眩ましか……」
訓練生達のざわめきが広がる。
その頃――
別館B棟の外では、カナタとルイゼンが向かい合っていた。
「ルイゼンさん」
久しぶりの登校に、カナタの表情はどこか硬い。
「今日からカナタさんの送り迎えをさせていただきますね」
ルイゼンは、安心させるように微笑んだ。
コロニー・ルミナリアから惑星アストレアまでは、飛行船で二時間弱。
月に一度行われる別館B棟での強化訓練期間中、 カナタだけは毎日そこへ通うことになっていた。
本来であれば、学生達は施設内の寮で生活する。
だが現在、王宮はカナタの身辺警護を強化していた。
タシトの婚約者である以上、 彼女もまた標的になる可能性がある―― そう判断されたためだ。
「施設内はセキュリティが王宮並みだから安心してください」
「……私、狙われてるんですか?」
カナタが素朴に質問をする。
「どうでしょう。ただ、タシト少佐の婚約者である以上、標的となる可能性は否定できません」
カナタは思った。それなら、婚約者でないほうが良かったのでは?
薬指に光るリングを見つめた。
ユウナギを守るため?
わからない。
「タシト少佐の居住区に危険が迫った。――一時、ここで保護する」
エルナスの声が、脳裏によみがえる。
タシト隊長は、狙われている。
――いや。
私といるから、危険になったのではないか。
居住区の崩壊。
あれは、本当は―― 私を狙ったものだったのでは。
胸の奥が、冷えていく。
……ユウナギと関わってはいけない。
ユウナギを守るために。
カナタは、そう思った。
(第百一章・了)




