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予兆

「スコーラオ率いるノクス:グレイン生体再編局からは、特に異常は確認できませんでした」


「……そうか」


エルナスは、静かに資料へ目を落とす。


「……制御を外さないと研究が進まないと言っていたな」


「はい。研究ログ上は通常業務のみです。 ですが――不自然なほど、痕跡が残っていません」


エルナスは小さく息を吐いた。


「……次の護衛を申し出る様子もないか」


「ええ。むしろ、こちらを警戒しているようにも見えました」


「……そうか。引き続き、研究データを提出させてくれ」


「承知しました」


わずかな間。


「それと――アレイシア波動研究局の件ですが、捜査はやや難航しています。後ほど改めてご報告を」


「過去に、タシトとスコーラオが接触した件だな」


エルナスの視線が僅かに曇る。


「あの者達は、次の一手が読めない。……完全制御も、視野に入れる必要があるな」


「はい」


セリューは一礼すると、静かに部屋を後にした。



王宮の白い回廊を、セリューは静かに歩いていた。


その先から、ルイゼンが姿を現す。


「セリュー殿」


爽やかな笑みを浮かべ、軽く会釈した。


「スコーラオ殿の護衛任務はいかがでしたか?」


「ああ」


セリューは、淡々と答える。


「制御を十段階解除した状態で、一度の跳躍で一キロを優に移動していたよ」


その言葉に、ルイゼンの目がわずかに細まる。


「……なるほど。制御された状態でそこまで動けるとは」


ルイゼンの瞳が、わずかに見開かれた。


「必要であれば、私も動きます」


爽やかな笑みだけを残し、

ルイゼンは静かに通り過ぎた。


その足音は、不思議なほど迷いがなかった。



「失礼します」


執務室の扉が開き、 ルイゼンが静かに入室した。


エルナスは、書類から顔を上げる。


「……ルイゼンか」


窓の外では、王都の光が静かに揺れていた。


「例の件ですが、オルデン・コア側でも能力変動者の再確認を進めています」

ルイゼンは淡々と資料を差し出した。


「ただ、変化は能力値だけではありません」


「人格傾向にも異常が見られます。

攻撃性、衝動性、判断力の低下―― 現時点では、明確な共通点までは断定できませんが」


エルナスの視線が、資料へ落ちる。


「……原因は?」


「現段階では不明です」


わずかな沈黙。


「ですが、一部の研究者は、リング制御との関連を疑っています」


「……どうだろうな」


エルナスは、考え込むように額へ手を当てた。


その様子を、 ルイゼンは静かに観察していた。


「……何か?」


視線に気付いたエルナスが顔を上げる。


「いえ。何でもありません」


ルイゼンは、穏やかに微笑んだ。


「引き続き、報告いたします」


「ああ。頼む」



扉が静かに閉まる。


執務室には、再び静寂だけが残った。

エルナスは、机上の資料へ視線を落とす。


能力変動者。


人格異常。


リング制御との関連。


そして――最近続いている、不穏な動き。


偶然にしては、あまりにも重なりすぎていた。


「……何かが、動いているのか」


誰に向けるでもなく、 小さく呟いた。



(第百章・了)


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