源頼光には、丑御前と呼ばれる姉妹(もしくは兄弟)がいたという伝承がある 前編
ちょっと遅刻&明日以後のGW中は規制の予定が有り更新が難しくなるかもしれません。
今日中に何処まで書き溜められるかが勝負ですね……
【源頼光】
拙者は、父、満仲に呼ばれて、その居間に向かった。
父は、厳格な顔でそこに座っていた。
「頼光、お前に頼みたいことがある」
「何でしょうか、父上」
父の声は、いつになく重々しかった。
拙者は、居住まいを正して尋ねた。
「東国に、怪異の集団が現れている」
父は、そう切り出した。
「その頭目は、丑御前と名乗る女怪異だという」
丑御前、か。
拙者は、その名を初めて聞いた。
「その者たちを、討ってもらいたい」
父の言葉に、拙者は頷いた。
「承知しました。拙者と四天王で、必ずや討ち果たします」
拙者がそう答えると、父は少し複雑な表情を浮かべた。
「頼光……この件には、儂の過去の過ちが関わっている」
父の言葉に、拙者は目を見開いた。
「過去の、過ち……ですか?」
「ああ。お前に話しておかねばならぬ」
父は、深く息を吐いた。
「儂が、まだ若く未熟だった頃の話だ」
【源満仲】
儂は、若き日、常に焦燥感に苛まれていた。
父、経基は、平将門の乱の折に功を上げ、清和源氏の名を高めた。
その武勇と功績は、今も語り草となっている。
だが、儂はどうだ。
藤原純友の乱で、確かに功はあった。
しかし、父ほどの輝かしい功名は、まだ得ていなかった。
(このままでは、父を超えられぬ……清和源氏の頭領として、相応しくない……)
儂は、そんな焦りに駆られ、日々苦悶していた。
そして、儂は決意した。
怪異を討って、名を上げる。
それが、最も確実な道だと。
儂は、東国に怪異が多く出没しているという情報を得た。
密かに、僅かな従者だけを連れて、東国へと向かった。
最初に出会ったのは、山賊のような獣の混人たちの群れだった。
彼らは人里を襲い、略奪を繰り返していた。
「源満仲、参る!」
儂は、彼らに斬りかかった。
儂の剣技は、既に一流だった。
混人たちは、儂の前に次々と倒れていった。
次に、川の近くで人を襲う水の怪異の群れを討った。
そして、山奥に潜む鬼のような怪異たちも、儂は倒していった。
(これで、功を上げられる……)
儂は、討った怪異たちの証を集めながら、次の獲物を探した。
そして、ある森の中で、一つの怪異の群れを見つけた。
牛や馬の混人たちを中心とした、比較的大きな集団だった。
儂は、彼らに襲いかかった。
だが、この集団は、今までの怪異たちとは違っていた。
組織立って動き、儂を取り囲もうとする。
激しい戦いの末、儂は何とか優勢に立った。
怪異たちは、次々と倒れていく。
その時、一人の女が儂の前に跪いた。
牛の角を持つ、美しい女だった。
「お助けください……命だけは……」
女は、必死に命乞いをした。
儂は、剣を構えたまま、女を見下ろした。
(討つべきか……)
だが、女の必死な様子に、儂は躊躇した。
女には、他の怪異たちとは違う、何か人間的な情があるように見えた。
「……立て」
儂は、剣を下ろした。
「今回は見逃す。だが、二度と人を襲うな」
儂の言葉に、女は深く頭を下げた。
「ありがとうございます……ありがとうございます……」
女は、涙を流していた。
儂は、その場を立ち去ろうとした。
その時、森の奥から、一人の男が現れた。
鬼のような角を持つ、威圧的な風貌の男だった。
「待たれよ、源満仲殿」
男は、儂を呼び止めた。
「お前は……」
「儂は、この者らの長を務める者だ」
男は、深々と頭を下げた。
「先ほどは、我らが無礼を働いた。お詫び申し上げる」
男の態度に、儂は警戒を緩めなかった。
「何の用だ」
「実は、お願いがある」
男は、先ほど助けた女を手招きした。
「この者を、交渉役として遣わす。我ら怪異の集団、そなたに降りたい」
男の言葉に、儂は目を見開いた。
「儂に、降る……だと?」
「左様。そなたの武勇は見事であった。我らは、そなたの配下となり、その力になりたい」
男の提案は、儂にとって渡りに船だった。
(怪異の集団を配下にできれば、大きな力となる……)
儂は、少し考えた。
「条件がある。人を襲うことは、一切許さぬ」
儂の言葉に、男は頷いた。
「承知した。我らは、そなたの指示に従う」
こうして、儂は怪異たちと行動を共にするようになった。
だが、それが、全ての始まりだったのだ。
怪異たちは、儂に従順だった。
彼らは、他の怪異を討つ際にも協力してくれた。
儂の功績は、着実に積み上がっていった。
そして、交渉役として遣わされた女怪異が、儂の世話を焼くようになった。
「満仲様、お疲れではございませんか?」
女は、常に儂の傍にいた。
最初は、単なる交渉役だと思っていた。
だが、次第に、女との距離が近くなっていく。
女は、儂の苦悩を理解しているかのように、優しく接してくれた。
労いの言葉、励ましの言葉。
儂は、女に心を許していった。
そして、ある夜、儂は女と関係を持ってしまったのだ。
愚かだった。
今思えば、全てがその時から狂い始めていた。
女との日々は、儂にとって安らぎだった。
だが、それは長くは続かなかった。
ある日、女が深刻な顔で儂のもとに来た。
「満仲様……お話があります」
女の様子が、いつもと違った。
「どうした?」
「満仲様、私……身ごもりました」
女の言葉に、儂は驚いた。
「何……だと……?」
「はい。満仲様の子を」
女は、複雑な表情を浮かべていた。
喜びと、そして何か苦悩のようなものが入り混じっていた。
「それは……」
儂が言葉を探していると、女は続けた。
「満仲様、実は……お伝えしなければならないことがあります」
女の声が、震えていた。
「我ら怪異の長の、真の目的は……源氏の血、ひいては帝の血を取り込むことなのです」
女の告白に、儂は凍りついた。
「何……だと……?」
「満仲様の血を引く子が生まれれば、その子は源氏の血を持つ者。帝の血筋に連なる者となります」
女は、涙を流しながら続けた。
「その子を旗頭として、我ら怪異は人の世に影響を及ぼす。それが、長の目論見なのです」
「なぜ、今それを……」
儂は、愕然とした。
(儂は……利用されていたのか……!)
儂が問うと、女は泣きながら答えた。
「私は……満仲様に情が湧いてしまったのです。こんなことで満仲様を利用するのは、耐えられません」
女は、儂の手を握った。
「どうか、逃げてください。このままでは、満仲様は利用され続けます」
女の必死の訴えに、儂は正気を取り戻した。
このままでは、功名どころか、源氏に、帝に、取り返しのつかぬ汚名を残すことになる。
それは何としても避けねばならなかった。
「分かった。儂は、ここを去る……そなたも共に参れ」
俺は女に告げるが、女は悲し気に首を振った。
「無理なのです……私は、長の呪に縛られています。逃げられないのです」
そう言って着物の裾を上げた女の足には、いつの間にか鎖の如き瘴気がまとわりついていた。
「満仲様に真実を明かした為、呪が強まりました。じきに、長には知られてしまうでしょう」
「そうか……その子は、儂の子だ。だが、儂はもう、ここには戻れぬ……」
「いえ……そのお言葉だけで、十分です」
儂は、苦渋の決断をした。
「すまぬ……」
儂は、女に謝罪した。
「いえ……私こそ、満仲様を騙していました。本当に、申し訳ございません」
女は、深く頭を下げた。
「せめて、逃げる時間を稼ぎます。どうか、お早く」
女の助けで、儂は集落から逃げ出すことができた。
女は、儂の逃亡をしばらく隠してくれたのだ。
だが、長たちは儂を追わなかった。
目的は、既に達成されていたからだ。
【源頼光】
父の話を聞いて、拙者は言葉を失った。
父の過去に、その様な事があったとは……。
父は、苦渋に満ちた顔で告げた。
「そして、その女が産んだ子が……丑御前なのだ」
「……」
「丑御前は、儂の娘。そして、頼光、お前の姉にあたる」
拙者の、姉……。
「儂は、その事実を隠してきた。お前にも、誰にも言わずに」
父は、深く頭を下げた。
「許してくれとは言わぬ。だが、この過ちを、正さねばならぬ」
父の言葉に、拙者は複雑な思いに駆られた。
「丑御前は、現在、怪異たちの旗頭となっているとの知らせが入った。源氏の血を引く者として、彼らに担がれているのだ」
父は、拳を握りしめた。
「このままでは、源氏の名に、帝に、泥を塗ることになる。だから……」
「拙者に、討てと」
拙者は、父の言葉を継いだ。
「……すまぬ。既に衰えた儂では、この手で事を成せぬのだ」
父は、そう言って、再び頭を下げた。
拙者は、深く息を吐いた。
「承知しました。拙者が、参ります」
拙者は、そう答えた。
父の過ちを、拙者が正す。
それが、嫡子としての務めだ。
……だが、拙者の心には、重いものが残った。
拙者は、金時たち四天王を集めた。
「東国に、討つべき怪異がいる」
「おう! 任せとけ! 何処のどいつだ?」
拙者は、皆に告げると、金時が、元気よく答える。
一方で渡辺綱は、拙者の様子に何かを感じたようだ。
「しかし、頼光様、何か思い詰めておられるようですが」
「……ああ」
勘の鋭いものも居る以上、隠し通す事は出来まい。
拙者は、皆に事情を話すこととした。
父の過去のこと。
そして、丑御前が拙者の姉にあたること。
「なんと……」
綱も、驚きを隠せない様子だった。
そんな中、金時が、力強く言う。
「オイラたちは、頼光様に従います!」
「ああ。だが、拙者には迷いがある」
拙者は、正直に告白した。
「まかりなりにも、拙者の姉にあたる者を、この手で討てるのか……」
拙者の言葉に、皆は沈黙した。
その時、卜部季武が口を開いた。
「頼光様、拙者からの忠言をお許しください」
季武は、真剣な顔で言った。
「争う前に、丑御前殿本人と言葉を交わし、その心根を知るべきではないでしょうか」
季武の言葉に、拙者は目を見開いた。
「心根を、知る……?」
「はい。彼女が本当に討つべき相手なのか、それとも……」
季武は、そこで言葉を切った。
「何か、救う道があるのではないか、と」
「拙者も、そのように思います。その方が、道が開けましょう」
季武の言葉に、碓井貞光も頷いた。
貞光は、信仰深い者らしく、しばしば神託のようなお告げを受ける。
「また、何かを感じたのか?」
「形にはなっておりませんでしたが……」
貞光の言葉に、拙者は考え込んだ。
「そうか……討つだけが、道ではないのかもしれぬ」
拙者は、皆を見渡した。
「分かった。まずは、丑御前と対峙し、言葉を交わそう」
拙者の決断に、皆は頷いた。
「その上で、討つべきか、救うべきか、判断する」
拙者は、そう宣言した。
こうして、拙者たちは東国へと向かうことになった。
丑御前との対峙に向けて、拙者は覚悟を決めた。
姉として、どのような者なのか。
怪異たちに担がれて、本当に悪しき存在なのか。
それとも、救う道があるのか。
拙者は、その全てを見極めるつもりだった。
「では、出立する」
拙者は、四天王と郎党の兵たちを率いて、東国へと馬を進めた。
道中、拙者は父の言葉を思い返していた。
父の過ち。
そして、その過ちから生まれた、拙者の姉。
(丑御前……お前は、どのような者なのか)
拙者の心には、迷いと、そして一抹の期待があった。
もし、丑御前が救える者ならば。
もし、共に歩める道があるならば。
拙者は、そんなことを考えていた。
やがて、東国の山々が見えてきた。
あの山の奥に、丑御前がいる。
「頼光様、もうすぐ怪異たちの領域に入ります」
綱が、拙者に告げた。
「ああ。皆の者、警戒を怠るな」
拙者は、郎党たちに命じた。
「はっ!」
兵たちが、一斉に応えた。
拙者は、愛刀、安綱に手をかけた。
戦いになる可能性もある。
だが、まずは言葉を交わす。
拙者は、そう心に決めていた。
山道を進み始めると、周囲の空気が変わっていくのを感じた。
人の気配が消え、代わりに怪異たちの気配が濃くなっていく。
(ここからだ……)
拙者は、深く息を吸い込んだ。
そして、拙者たちは、怪異たちの領域へと足を踏み入れたのだった。
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