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よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】  作者: Mr.ティン
間章5 ~大平安魔人伝~

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源頼光には、丑御前と呼ばれる姉妹(もしくは兄弟)がいたという伝承がある 前編

ちょっと遅刻&明日以後のGW中は規制の予定が有り更新が難しくなるかもしれません。

今日中に何処まで書き溜められるかが勝負ですね……

【源頼光】


拙者は、父、満仲に呼ばれて、その居間に向かった。

父は、厳格な顔でそこに座っていた。


「頼光、お前に頼みたいことがある」

「何でしょうか、父上」


父の声は、いつになく重々しかった。

拙者は、居住まいを正して尋ねた。


「東国に、怪異の集団が現れている」


父は、そう切り出した。


「その頭目は、丑御前と名乗る女怪異だという」


丑御前、か。

拙者は、その名を初めて聞いた。


「その者たちを、討ってもらいたい」


父の言葉に、拙者は頷いた。


「承知しました。拙者と四天王で、必ずや討ち果たします」


拙者がそう答えると、父は少し複雑な表情を浮かべた。


「頼光……この件には、儂の過去の過ちが関わっている」


父の言葉に、拙者は目を見開いた。


「過去の、過ち……ですか?」

「ああ。お前に話しておかねばならぬ」


父は、深く息を吐いた。


「儂が、まだ若く未熟だった頃の話だ」



【源満仲】


儂は、若き日、常に焦燥感に苛まれていた。

父、経基は、平将門の乱の折に功を上げ、清和源氏の名を高めた。

その武勇と功績は、今も語り草となっている。


だが、儂はどうだ。

藤原純友の乱で、確かに功はあった。

しかし、父ほどの輝かしい功名は、まだ得ていなかった。


(このままでは、父を超えられぬ……清和源氏の頭領として、相応しくない……)


儂は、そんな焦りに駆られ、日々苦悶していた。

そして、儂は決意した。


怪異を討って、名を上げる。

それが、最も確実な道だと。


儂は、東国に怪異が多く出没しているという情報を得た。

密かに、僅かな従者だけを連れて、東国へと向かった。


最初に出会ったのは、山賊のような獣の混人たちの群れだった。

彼らは人里を襲い、略奪を繰り返していた。


「源満仲、参る!」


儂は、彼らに斬りかかった。

儂の剣技は、既に一流だった。

混人たちは、儂の前に次々と倒れていった。


次に、川の近くで人を襲う水の怪異の群れを討った。

そして、山奥に潜む鬼のような怪異たちも、儂は倒していった。


(これで、功を上げられる……)


儂は、討った怪異たちの証を集めながら、次の獲物を探した。


そして、ある森の中で、一つの怪異の群れを見つけた。

牛や馬の混人たちを中心とした、比較的大きな集団だった。


儂は、彼らに襲いかかった。

だが、この集団は、今までの怪異たちとは違っていた。

組織立って動き、儂を取り囲もうとする。


激しい戦いの末、儂は何とか優勢に立った。

怪異たちは、次々と倒れていく。


その時、一人の女が儂の前に跪いた。

牛の角を持つ、美しい女だった。


「お助けください……命だけは……」


女は、必死に命乞いをした。


儂は、剣を構えたまま、女を見下ろした。


(討つべきか……)


だが、女の必死な様子に、儂は躊躇した。

女には、他の怪異たちとは違う、何か人間的な情があるように見えた。


「……立て」


儂は、剣を下ろした。


「今回は見逃す。だが、二度と人を襲うな」


儂の言葉に、女は深く頭を下げた。


「ありがとうございます……ありがとうございます……」


女は、涙を流していた。


儂は、その場を立ち去ろうとした。


その時、森の奥から、一人の男が現れた。

鬼のような角を持つ、威圧的な風貌の男だった。


「待たれよ、源満仲殿」


男は、儂を呼び止めた。


「お前は……」

「儂は、この者らの長を務める者だ」


男は、深々と頭を下げた。


「先ほどは、我らが無礼を働いた。お詫び申し上げる」


男の態度に、儂は警戒を緩めなかった。


「何の用だ」

「実は、お願いがある」


男は、先ほど助けた女を手招きした。


「この者を、交渉役として遣わす。我ら怪異の集団、そなたに降りたい」


男の言葉に、儂は目を見開いた。


「儂に、降る……だと?」

「左様。そなたの武勇は見事であった。我らは、そなたの配下となり、その力になりたい」


男の提案は、儂にとって渡りに船だった。


(怪異の集団を配下にできれば、大きな力となる……)


儂は、少し考えた。


「条件がある。人を襲うことは、一切許さぬ」


儂の言葉に、男は頷いた。


「承知した。我らは、そなたの指示に従う」


こうして、儂は怪異たちと行動を共にするようになった。


だが、それが、全ての始まりだったのだ。


怪異たちは、儂に従順だった。

彼らは、他の怪異を討つ際にも協力してくれた。

儂の功績は、着実に積み上がっていった。


そして、交渉役として遣わされた女怪異が、儂の世話を焼くようになった。


「満仲様、お疲れではございませんか?」


女は、常に儂の傍にいた。


最初は、単なる交渉役だと思っていた。

だが、次第に、女との距離が近くなっていく。


女は、儂の苦悩を理解しているかのように、優しく接してくれた。

労いの言葉、励ましの言葉。

儂は、女に心を許していった。


そして、ある夜、儂は女と関係を持ってしまったのだ。


愚かだった。

今思えば、全てがその時から狂い始めていた。


女との日々は、儂にとって安らぎだった。

だが、それは長くは続かなかった。


ある日、女が深刻な顔で儂のもとに来た。


「満仲様……お話があります」


女の様子が、いつもと違った。


「どうした?」

「満仲様、私……身ごもりました」


女の言葉に、儂は驚いた。


「何……だと……?」

「はい。満仲様の子を」


女は、複雑な表情を浮かべていた。

喜びと、そして何か苦悩のようなものが入り混じっていた。


「それは……」


儂が言葉を探していると、女は続けた。


「満仲様、実は……お伝えしなければならないことがあります」


女の声が、震えていた。


「我ら怪異の長の、真の目的は……源氏の血、ひいては帝の血を取り込むことなのです」


女の告白に、儂は凍りついた。


「何……だと……?」

「満仲様の血を引く子が生まれれば、その子は源氏の血を持つ者。帝の血筋に連なる者となります」


女は、涙を流しながら続けた。


「その子を旗頭として、我ら怪異は人の世に影響を及ぼす。それが、長の目論見なのです」

「なぜ、今それを……」


儂は、愕然とした。


(儂は……利用されていたのか……!)


儂が問うと、女は泣きながら答えた。


「私は……満仲様に情が湧いてしまったのです。こんなことで満仲様を利用するのは、耐えられません」


女は、儂の手を握った。


「どうか、逃げてください。このままでは、満仲様は利用され続けます」


女の必死の訴えに、儂は正気を取り戻した。

このままでは、功名どころか、源氏に、帝に、取り返しのつかぬ汚名を残すことになる。

それは何としても避けねばならなかった。


「分かった。儂は、ここを去る……そなたも共に参れ」


俺は女に告げるが、女は悲し気に首を振った。


「無理なのです……私は、長の呪に縛られています。逃げられないのです」


そう言って着物の裾を上げた女の足には、いつの間にか鎖の如き瘴気がまとわりついていた。


「満仲様に真実を明かした為、呪が強まりました。じきに、長には知られてしまうでしょう」

「そうか……その子は、儂の子だ。だが、儂はもう、ここには戻れぬ……」

「いえ……そのお言葉だけで、十分です」


儂は、苦渋の決断をした。


「すまぬ……」


儂は、女に謝罪した。


「いえ……私こそ、満仲様を騙していました。本当に、申し訳ございません」


女は、深く頭を下げた。


「せめて、逃げる時間を稼ぎます。どうか、お早く」


女の助けで、儂は集落から逃げ出すことができた。

女は、儂の逃亡をしばらく隠してくれたのだ。


だが、長たちは儂を追わなかった。

目的は、既に達成されていたからだ。



【源頼光】


父の話を聞いて、拙者は言葉を失った。

父の過去に、その様な事があったとは……。

父は、苦渋に満ちた顔で告げた。


「そして、その女が産んだ子が……丑御前なのだ」

「……」

「丑御前は、儂の娘。そして、頼光、お前の姉にあたる」


拙者の、姉……。


「儂は、その事実を隠してきた。お前にも、誰にも言わずに」


父は、深く頭を下げた。


「許してくれとは言わぬ。だが、この過ちを、正さねばならぬ」


父の言葉に、拙者は複雑な思いに駆られた。


「丑御前は、現在、怪異たちの旗頭となっているとの知らせが入った。源氏の血を引く者として、彼らに担がれているのだ」


父は、拳を握りしめた。


「このままでは、源氏の名に、帝に、泥を塗ることになる。だから……」

「拙者に、討てと」


拙者は、父の言葉を継いだ。


「……すまぬ。既に衰えた儂では、この手で事を成せぬのだ」


父は、そう言って、再び頭を下げた。

拙者は、深く息を吐いた。


「承知しました。拙者が、参ります」


拙者は、そう答えた。

父の過ちを、拙者が正す。

それが、嫡子としての務めだ。

……だが、拙者の心には、重いものが残った。


拙者は、金時たち四天王を集めた。


「東国に、討つべき怪異がいる」

「おう! 任せとけ! 何処のどいつだ?」


拙者は、皆に告げると、金時が、元気よく答える。

一方で渡辺綱は、拙者の様子に何かを感じたようだ。


「しかし、頼光様、何か思い詰めておられるようですが」

「……ああ」


勘の鋭いものも居る以上、隠し通す事は出来まい。

拙者は、皆に事情を話すこととした。

父の過去のこと。

そして、丑御前が拙者の姉にあたること。


「なんと……」


綱も、驚きを隠せない様子だった。

そんな中、金時が、力強く言う。


「オイラたちは、頼光様に従います!」

「ああ。だが、拙者には迷いがある」


拙者は、正直に告白した。


「まかりなりにも、拙者の姉にあたる者を、この手で討てるのか……」


拙者の言葉に、皆は沈黙した。

その時、卜部季武が口を開いた。


「頼光様、拙者からの忠言をお許しください」


季武は、真剣な顔で言った。


「争う前に、丑御前殿本人と言葉を交わし、その心根を知るべきではないでしょうか」


季武の言葉に、拙者は目を見開いた。


「心根を、知る……?」

「はい。彼女が本当に討つべき相手なのか、それとも……」


季武は、そこで言葉を切った。


「何か、救う道があるのではないか、と」

「拙者も、そのように思います。その方が、道が開けましょう」


季武の言葉に、碓井貞光も頷いた。

貞光は、信仰深い者らしく、しばしば神託のようなお告げを受ける。


「また、何かを感じたのか?」

「形にはなっておりませんでしたが……」


貞光の言葉に、拙者は考え込んだ。


「そうか……討つだけが、道ではないのかもしれぬ」


拙者は、皆を見渡した。


「分かった。まずは、丑御前と対峙し、言葉を交わそう」


拙者の決断に、皆は頷いた。


「その上で、討つべきか、救うべきか、判断する」


拙者は、そう宣言した。


こうして、拙者たちは東国へと向かうことになった。

丑御前との対峙に向けて、拙者は覚悟を決めた。


姉として、どのような者なのか。

怪異たちに担がれて、本当に悪しき存在なのか。

それとも、救う道があるのか。


拙者は、その全てを見極めるつもりだった。


「では、出立する」


拙者は、四天王と郎党の兵たちを率いて、東国へと馬を進めた。


道中、拙者は父の言葉を思い返していた。

父の過ち。

そして、その過ちから生まれた、拙者の姉。


(丑御前……お前は、どのような者なのか)


拙者の心には、迷いと、そして一抹の期待があった。

もし、丑御前が救える者ならば。

もし、共に歩める道があるならば。


拙者は、そんなことを考えていた。


やがて、東国の山々が見えてきた。

あの山の奥に、丑御前がいる。


「頼光様、もうすぐ怪異たちの領域に入ります」


綱が、拙者に告げた。


「ああ。皆の者、警戒を怠るな」


拙者は、郎党たちに命じた。


「はっ!」


兵たちが、一斉に応えた。


拙者は、愛刀、安綱に手をかけた。

戦いになる可能性もある。

だが、まずは言葉を交わす。


拙者は、そう心に決めていた。


山道を進み始めると、周囲の空気が変わっていくのを感じた。

人の気配が消え、代わりに怪異たちの気配が濃くなっていく。


(ここからだ……)


拙者は、深く息を吸い込んだ。


そして、拙者たちは、怪異たちの領域へと足を踏み入れたのだった。

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