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よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】  作者: Mr.ティン
間章5 ~大平安魔人伝~

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大江山の酒呑童子には、多くの手下が居たとされる

【酒呑童子】


わいは、相も変わらず、大江山で暮らしとった。

酒を飲み、獣を喰らい、自由に過ごす日々や。

柱の地での退屈な暮らしとは、大違いや。

わいは、この生活が気に入っとった。


時折、酒が欲しくなると、山を降りて酒造を襲う。

人々は、わいを恐れて逃げる。

わいは、樽を抱えて、山に戻る。

そんな暮らしを、わいは続けとった。



けど、ある日、転機が訪れたんや。


その日も、わいは酒造を襲っとった。

樽を開けて、酒を飲んどると、ふと気配を感じた。

わいと似た、気配や。


「なんや……?」


わいは、振り向いた。

そこには、一人の女が立っとった。

いや、女の姿をした何かや。

肌は青白く、角が生えとる。

鬼のような姿やけど……なんやろうな? わいとは違う。

もっと、人に近い姿や。


「あんた……誰や?」


わいが尋ねると、女は微笑んで答えたんや。


「うちか? うちの名前は……もう捨ててしもたわ」

「名前を捨てた? どういうことや?」

「元の名前なんぞ、うちにはもう要らんのや。あんな名前、人間やった頃の名前やからな」


女は、寂しそうに笑っとった。


「ほな、どこから来たんや?」

「茨木や。茨木の土地におったんや」


女は、そう答えたわ。


「茨木、か。ほな、茨木でええやないか。わいは、あんたを茨木と呼ぶわ」

「茨木……ええな。気に入ったわ」


わいの言葉に、女は少し驚いた様子やったけど、嬉しそうに笑ったんや。


「ところで、何の用や?」

「うち、あんたの事、見とったんや。すごい力やなぁ思てな」


茨木は、わいに近づいてきた。


「うち、あんたの手下になりたいんや」

「手下? なんでや?」


わいは、驚いた。


「うち、力ある者に惹かれるんや。あんたみたいな、圧倒的な力を持つ者にな」

「ふーん。まあ、好きにしたらええわ。止めへんから」


茨木の目は、真剣やった。

せやから、わいは好きにさせることにしたんや。

わいの言葉に、茨木は嬉しそうに笑っとった。


「ありがとうなあ! うち、あんたのために働くわ!」


こうして、茨木はわいの後をついて回るようになった。

そのうちに、人んらは茨木の事を、『茨木童子』と呼ぶようになったんや。


茨木は、確かに役に立ったで?

酒造を襲う時、茨木は術を使って、わいの姿を変えたり、人々を惑わせたりしたんや。

おかげで、酒を手に入れるのが、楽になったわ。


「うち、あんたのためなら、何でもするで」


茨木は、そう言うて、いつもわいの傍におる。

わいも、茨木を気に入ったんや。

知恵も回る茨木は、わいの片腕として、頼りになる存在になっとった。



それからや、わいの配下が増えていったんは。


ある日、わいが山で獣を狩っとると、大きな男が現れた。

いや、男のような何かや。

体中が毛むくじゃらで、顔つきも獣に近い。

熊の混人やった。


男は、わいを睨むと、訪ねてきよった。


「てめぇが、酒呑童子ってやつか?」

「そうやけど、何か用か?」

「この辺りの山は、俺の縄張りだ! なのに、後からやって来たてめぇが、この山で好き勝手やってるらしいじゃねえか?」


男は、腕を鳴らした。


「だから、思い知らせてやる! 誰が上か、誰が山のかしらかってなあ!」


男は、わいに襲いかかってきた。

その拳は、たしかに岩をも砕くような重さやろうな。

けど、わいには届かへん。

わいら鬼にとっては、こんな程度お遊びや。

せやからわいは、男の拳を片手で受け止めたった。


「なっ……!?」


男は、驚愕しとるが、のんきなもんやな。


「この程度かいな?」


わいは、男の腕を掴んだまま引き寄せて、腹に拳を叩き込んだんや。


「ぐはっ!」


男は、吹き飛んだ。

木に激突して、倒れる。

はぁ、つまらんわ。もう終わってくれんかな?

さっさと酒が飲みたいわ。


「まだや……まだ終わらねぇ……!」


せやけど、男は、立ち上がったんや。

血を吐きながらも、再びわいに向かってくる。


「しつこいなぁ」


わいは、男の攻撃を避けて、男の顔面に拳を叩き込んだんや。

なんかが砕ける音は、多分鼻の骨やろな。


「ぎゃあっ!」


男は地面に倒れて、顔を抑えてのたうち回っとる。

流石にもう、立ち上がる気配はないみたいやな。


「どうや、参ったか?」

「く、くそっ……強ぇ……てめぇの、勝ちだ……」


わいが尋ねると、男は震える声で答えて、わいに頭を下げた。


「俺が、てめぇの手下になる……」

「さよか……名前は?」

「名前なんざ、ねぇ……ただの山賊だ……」

「ほな、熊や。熊の混人やし、熊童子でええやろ」


わいが言うと、男は頷いた。


「熊童子……ああ、それでいい……」


こうして、熊童子はわいの配下になったんや。

気性は荒いけど、力は強い。

戦いには、役立つ男や。


次に加わったのは、山猫の混人や。

大江山で山の民として暮らしとった。


ある日、わいが山を歩いとると、木の上から声がした。


「あんた、酒呑童子かニャー?」


見上げると、黄と黒の縞模様の、猫のような耳と尾を持った男が、木の枝に座っとった。


「そうや。あんたは?」

「わっしは、この山で暮らしとる者ニャー。あんたが来てから、山が騒がしなったニャー」


男は、木から飛び降りた。


「わっし、あんたの配下になりたいんやけど、ええかニャー?」

「……ニャー?」


わいが聞き返すと、男は顔を真っ赤にしたんや。


「言うなニャー! これは、癖なんニャー! 言いとうて言うとるんやないニャー!」

「わかった、わかった」


いや、突っ込むな言うんは、無理やろ、それは。

何しろ見た目はいかつい男なんや。

聞くと、話し方で揶揄われる度に暴れるせいで人里に居られなくなったらしいわ。


「それで、配下になりたいんやったか。別にええで」

「ほんまかニャー! ありがとうニャー!」


嬉しそうに跳ねる男に、わいは訊ねたんや。


「で、名前は?」

「名前……人里を追われた時に、捨ててしもたニャー」

「ほな、虎熊や。虎柄やし、虎熊童子でどうや」

「虎熊童子……ええ名前やニャー!」


こうして、虎熊童子もわいの配下になったんや。



ある日のことや、わいが酒造を襲うとると、懐かしい気配を感じた。

鬼や。

わいと同じ、柱の地の鬼や。


「ガァァッ!」


鬼が、わいに近づいてきたんや。


「おお、お前も地上に出てきたんか!」


わいは、懐かしい鬼に声をかけたわ。

この鬼は、まだ若くて、柱の地では、わいの弟分みたいな奴やった。

まだ上に来てから日が浅いせいで、人の言葉も、まだ話せへんようやな。


「ガァッ! ガガァッ!」


鬼が、何か言うとる。

ほかの者らは首を傾げとるが、わいには、分かる。

『仲間になりたい』と言うとるんや。


「ええで。一緒におろう」

「ガァァッ!」


わいの言葉に、鬼は嬉しそうに鳴いたわ。

となると、この鬼にも呼び名が必要やな。

改めてコイツを見ると、柱の地で見る、仄かな明かりがまだ身体の周りに漂っとる。

ああ、思い出すわ。柱の地は、こういう光で照らされとった。

今見ると、空の星みたいやな。


「お前、星みたいに光っとるなぁ。星熊童子でどうや」

「ガァッ!」


わいが言うと、鬼は嬉しそうに頷いたわ。

こうして、星熊童子もわいの仲間になったんや。



そして、別のある日のことや。

茨木が何かを作っとった。


「何しとるんや?」


わいが尋ねると、茨木は振り向いた。


「あんた、見てや。うちが作っとるんや」


茨木が見せてくれたのは、金属の人形やった。

人の形をしとるけど、全身が金属や。


「これは……?」

「うちの師匠が使うとった術や。金属の人形を作って、操るんや」


茨木は、少し寂しそうに笑った。


「うちの師匠は、道元いう術者やった。強い術者やったんや。けど、芦屋道満いう術者に負けて、人里を追われてなあ……」

「師匠は、もう一度立て直そうとしたんや。うちも、手伝った。人形を作る術とか、姿を変える術とか、使ってな」


茨木の声には、恨みが混じっとった。

人形を見つめる茨木の目には、涙が浮かんどる。


「けど、うちらは認められんかった。人間どもは、うちらを恐れて、排除しようとした」

「……そうだったんか」

「師匠は、死んだ。うちは、人里におられんくなった。そのうち、うちは変わっていったんや。鬼のような姿に」


茨木は、わいを見た。


「うち、人間が憎い。師匠を認めんかった人間が、うちを排除した人間が、憎いんや」


茨木の声は、震えとった。


わいは、茨木を見つめた。

そして、言うた。


「好きにしたらええ」


茨木は、驚いた顔をした。


「ええんか?」

「ああ。わいは、止めへん。お前が人間を憎むんなら、それでええ。お前の恨み、わいは否定せえへん」


元よりわいは鬼や。元は人の茨木の事は判らん。

せやから、好きにしたらええんや。

わいらは好きに生きると決めた者らやからな。

わいの言葉に、茨木は涙を流しとった。


「ありがとう……ありがとう、あんた……」


それからしばらくして、茨木は、人形を完成させたわ。


「この人形、金童子いう名前や。あんたの配下として、働かせるわ」

「金童子……ええ名前やな」


わいが手を動かすと、人形も動いた。


こうして、わいの配下は増えていった。

熊童子、虎熊童子、星熊童子、金童子。

そして、茨木童子。


さらに、人の山賊たちも、わいの配下になった。

わいの力を恐れ、従うようになったんや。


大江山の酒呑童子一党。

わいらは、巨大な勢力となっていった。


わいは、大江山の主や。

配下を従え、酒を飲み、自由に暮らす。

これが、わいの望んだ暮らしや。


柱の地の退屈な日々は、もう遠い昔や。

わいは、地上で、自由に生きとる。


けど、時々、わいは思い出す。

あの通路で会った、あの人間のことを。

あいつは、今、何をしとるんやろか。


いつか、また会うかもしれへん。

その時は、今度こそ、決着をつけたい。


わいは、そう思いながら、今日も酒を呷る。

配下たちと共に、大江山で暮らすんや。


これが、わいの生きる道やった。

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