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よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】  作者: Mr.ティン
間章5 ~大平安魔人伝~

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丹後の大江山には、とある鬼が徒党を組んで住み着いたという伝説がある

【名も無き鬼】


わいは、鬼や。

四方も上も岩に覆われた、柱の地に住んどる。

無数の支柱が天井を支える、大きな穴。

ここが、わいらの棲み処や。


創造主様は、この場所のためにわいらを作りはったそうや。

わいらは、ここを守り、維持する使命を与えられとる。

そう、わいらの祖先は、創造主様が直接生み出しはったんや。

けど、わいは違う。

わいは、その鬼たちが交わって生まれた、二代目や。


この柱の地には、わいらみたいな鬼が、ぎょうさんおる。

頭が馬のやつ、牛のやつ。

肌が赤いやつ、青いやつ。

みんな、それぞれの役目を果たしながら、支柱の間を巡り、ここで暮らしとる。


この柱の地には、不思議な力が満ちとる。

空気に混ざって漂う、見えへん力や。

わいらは、それを吸い込むだけで、腹が満たされる。

たまにそこらに生えとるんキノコいうんをくうこともあるんやが、ホントは食い物なんぞ、いらん。

この力さえあれば、わいらは生きていけるんや。


けど、わいには、この暮らしがつまらんかった。

いつもいつも、同じことの繰り返しや。

支柱の間を巡回して、壁の具合を調べて、何か異常がないか確認する。

それだけや。

何も変わらへん。

何も起こらへん。


(なんや、おもろないなぁ)


わいは、そう思いながら、柱の地を歩いとった。

他の鬼たちは、この暮らしに満足しとるようやけど、何でか知らんが、わいだけは違ったんや。

もっと、何か、おもろいことがあるんちゃうか。

天井の向こうには、何かあるんちゃうか。

そう思わずにはおれへんかった。


そんなふうに過ごしとったときのことや。

わいは、柱の地の端っこの方を歩いとった。

普段は、あんまり来ない場所や。

そこで、わいは見つけたんや。

通路を。


それは、今まで見たことない通路やった。

柱の地の壁に、ぽっかりと口を開けとる。

上に向かって、伸びとるようや。

もしかしたら、天井の向こうに続いとるんかもしれん。


(なんやこれ……)


わいは、その通路を見つめた。

せやけど、創造主様から与えられた本能が、わいに囁くんや。

『柱の地に留まれ』『上の方に出てはならぬ』ってな。


せやけど、わいの好奇心が、それを上回ったんや。


(……ちょっとだけ、見てみよか)


わいは、通路に足を踏み入れたんや。

その瞬間、わいの心臓が高鳴りときたら、なかったわ。

これや。

これが、わいが求めとったもんや。


通路は、上へ上へと続いとる。

柱の地しか知らんかったわいにとって、この通路でさえ、珍しくてたまらんかった。

壁の感触が違う、空気の流れが違うんや。

全てが、新鮮やった。


わいは、嬉々として先に進んだ。


(……これ、どこまで続くんやろ? この先に、何があるんやろ? ……天井の向こうには、何があるんやろ?)


そんなことを考えながら、わいは通路を登っていったんや。


けど、ふと、わいは気づいたんや。

進む先から、何かがやってくる。

足音や。

わいらのような、二本足で歩く足音や。


(なんや……?)


わいは、立ち止まった。

そして、その者の姿が見えた瞬間、わいの中で何かが弾ける。

人や!

見た事もない筈やが、わいには判る。

あれが、人。

そう思った時、創造主様から与えられた使命が、わいの頭の中で響いたんや。


『柱の地に侵入する者を、追い払え』


わいは、咆哮を上げた。


「ガァァッ!!」


そして、その人間に襲いかかったんや。

わいの爪が、人間に迫る。

殺すつもりやない。

けど、重傷を負わせて、追い返すつもりやった。


けど、その人間は、わいの攻撃を受け止めたんや!

おまけに、刀を翻して、わいに一撃を入れてくる。


「ガッ!」


わいの腕に、傷がつく。


(痛っ! なにすんねん!)


けど、それ以上に驚いたわ。

人間が、わいの攻撃を受け止めたんや。

それどころか、反撃してくるとか、想定してへん。


わいも負けじと、爪を振るったんやが、人間の鎧を切り裂くだけやった。

紐が断たれて、人間の荷物が辺りに散らばったのが見えて、仕切り直しか思ったその時や。


わいの後ろ、通路の奥から、足音がせまったんや。

複数の足音……他の鬼たちや。


「「「「グルルル……」」」」


きっと、わいを連れ戻しに来たんや。

人間は、それを察知したんか、すぐに、逃げていったわ。


「ガァッ!」

「「グルゥ!!」」


わいは、追いかけようとしたんやが、他の鬼たちに止められてもうた。


「グルァァ!」

「グガァァ!」


他の鬼たちが、わいに何か言うとる。

『戻れ』と。

『上の方に行くな』と。

まあそんな意味やな。


わいは、まあ、渋々やけど従ったわ。

けど、そん時、わいは気づいた。

人間が落とした荷物が、足元に転がっとる。

わいは、こっそりとそれを拾った。

袋や、なんやわからん変な形の入れ物に、何かの包みや。


こうしてわいは、他の鬼に連れられて、柱の地へと戻されたんや。



柱の地に戻ると、他の鬼たちが、わいを咎めたわ。


「グガァ!」

「グルルァ!」


『何をしてたんや』と。

『上への通路に入るなんて』と。


けど、わいは気にも留めへんかった。

わいの頭の中は、人間が落とした荷物のことでいっぱいやった。


わいは、自分の寝床に戻ると、すぐさま荷物を調べ始めたんや。

袋の中には、干した肉が入っとったし、包みの中には、何かの粉が入っとった。

そして、何やようわからん形の入れ物。それが、瓢箪いう物と知ったのは、ずっと後の話や。

ゆすると、チャプチャプ音がしよる。


(……水、やろか?)


わいは、瓢箪の栓を開けた。

すると、不思議な匂いがしたんや。

甘くて、どこか刺激的な匂い。


わいは、恐る恐る、それを口に含んだ。


その瞬間、わいの世界が変わったんや!


(なんや……これ……)


心地よい酩酊感が、わいの身体を包む。

そして、高揚感。

わいの心が、躍り出す。


これや。

これが、わいが求めとったもんや。


わいは、瓢箪の中身を、全て飲み干して……わいは思った。

もっと、この水が欲しい。

もっと、のみたいんや、と。


この水は、きっと天井の向こうにあるんやろ。

上の方に行けば、もっと手に入るんやろ。


わいの中で、上の方への憧れが、一気に膨れ上がったんや。

本能が、「柱の地に留まれ」と囁いとったけど、もうそんなんは知らん。

わいの心は、もう天井の向こうを向いとった。


もう、わいは我慢できんくなった。

だからわいは、もう一度上への通路に足を踏み入れたんや。


今度は、誰にも見つからんように、こっそりと。

他の鬼たちが寝静まった頃を見計らって、わいは通路を登り始めたんや。



長い、長い通路やった。

けど、わいは諦めへんかった。


(天井の向こうに行きたいんや!)


その一心やった。



そして、遂に、わいは天井を抜けた。

その瞬間、わいは息を呑んだ。


(なんや……っ!? なんやこれ……!?)


柱の地とは、あまりにも違う光景やった。

天井のない、上。それが空ってい運を後から知った。

明るい光。柱の地でとは違う、わいの目を突き刺すうような、光。

辺りに一杯立っとる緑の何かは、木いうキノコに似た代物や。

そして、様々な匂い。


わいは、興奮した。

こんな世界があったんや。

こんな素晴らしい世界が。


けど、同時に、わいは思った。

上の方の者らは、この光景を、当たり前のように享受しとる。

わいらは、暗い柱の地に閉じ込められとるのに。


嫉妬や。

怒りや。

そんな感情が、わいの心を満たしたんや。


けど、わいは、それを振り払った。

今は、それよりも、あの水や。

あの水を、もっと手に入れたい。


そう思っていたその時、わいは気づいた。

腹が、減っとる。

柱の地では、あの力を吸い込むだけで、腹は満たされとった。

けど、ここには、あの力が薄うて、ほとんど感じられへん。


(なんや……腹が減るんか、ここでは……)


わいは、初めて知る空腹感に、戸惑ったけど、すぐに悟ったんや。

ここでは、何かを食わなあかん。


わいは、鋭敏な感覚を研ぎ澄ませた。

すると、どこからか、腹が減る匂いがする。

わいは、その匂いを辿って、森の中を進んで……やがて、四つ足のもんを見つけたんや。

あとでしったんやけど、そいつは馬いうん生き物らしかったわ


わいは、躊躇なく、その馬に襲いかかった。

一撃で仕留めて、その肉を喰らう。

温かい血が、わいの喉を潤してくれたんや。


(ああ……腹が満たされるんは、こういうことなんか)


わいは、初めて獣を喰らった。

柱の地では、必要なかったことや。

けど、ここでは、これが必要なんや。


そして、わいは、再び感覚を研ぎ澄ませた。

今度は、あの水の匂いを探すと、どこからか、あの匂いがしたんや。

あの水の匂いや。


わいは、その匂いを辿って、歩き出し、わいは、とある建物に辿り着いた。

そこから、あの匂いが強く漂っとる。


わいは、その建物に近づくと、中から人の声が聞こえてきた。


「今日も、ええ酒ができたなぁ」

「ほんまやなぁ。この調子で頑張らんとなぁ」


酒。

その言葉を、わいは聞き取った。

あの水は、酒というんや。


わいは、建物の扉を開けた。

いや、叩き壊した。


「ひっ!」

「お、鬼や! 鬼が出たぁ!」


人々が、悲鳴を上げて逃げ出した。

けど、わいは気にせえへん。

わいの目的は、酒や。


わいは、建物の中に入った。

そこには、大きな樽がいくつも並んどった。

その樽から、酒の匂いが漂っとる。


わいは、樽の一つを開けた。

そして、その中の酒を、飲み始めた。


(ああ……これや……)


心地よい酩酊感が、再びわいを包む。

わいは、酒を飲み続けた。

一つの樽を空にし、また次の樽へ。


わいは、酔いしれた。


それから、わいは天井の向こうで暮らすようになった。

餓えれば、家畜や獣を襲う。

柱の地のような力がないここでは、肉を喰らわねば生きていけへん。

酒が欲しくなれば、酒蔵を襲う。


人々は、わいを恐れた。

わいに名前をつけた。


『酒呑童子』と。


わいは、その名前を気に入った。

ええ名前や。


やがて、わいは、大江山いう場所に拠点を構えたんや。

そこは、都から離れとるけど、酒蔵もある。

獣も多い。

わいにとって、ちょうどええ場所やった。


人々は、わいを恐れ、近づかんようになった。

けど、わいは構へん。

わいには、酒がある。

それで、十分や。


こうして、わいは、酒呑童子として、大江山で暮らすようになったんや。

柱の地の退屈な暮らしとは、さよならや。

わいは、自由を手に入れたんや。


けど、時々、わいは思い出す。

あの通路で会った、あの人間のことを。

あいつは、強かった。

わいに傷をつけた、唯一の人間や。


いつか、また会うかもしれへんなぁ。

その時は、決着をつけたいもんや。


わいは、そう思いながら、今日も酒を呷るのやった。

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