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よくわかる日本の歴史 ~ただし、原始時代から日本にのみダンジョンがあったものとする~【第三部完】  作者: Mr.ティン
間章5 ~大平安魔人伝~

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とある化け狐たちの話

遅刻ですが更新です。

何か勢い余って2話分くらいの文章量になってしまった……

【銀狐】


遠い昔のこと。

弘法太師──空海様がまだこの世におられた頃の話です。

四国の地では、化け狐と化け狸の争いが絶えませんでした。

化け狸たちは、私達のような化け狐を見つけると化け比べを挑み、そして負けた化け狐を殺していたのです。


ある日、二匹の化け狐が、化け狸の罠にかかりました。

一匹は、黄金の毛並みを持つ狐。

もう一匹は、白銀の毛並みを持つ狐。

そう、私達です。

私が妹の様に思っている、金狐が叫びます。


「くっ……この化け狸め!」

「卑怯な真似を……!」


私も、憤りましたが、化け狸の頭目は、そんな私達を嘲るように笑いました。


「化け比べに負けた者が悪いのだ」


この化け狸は、この辺りの狐を根絶やしにするかのように狩る、恐ろしい者。

私達は今まで逃げ続けていましたが、今日遂に追い込まれてしまったのです。


そして、無理やりにやらされた化け比べと言う名の命を懸けた勝負。

私達は精々姿を変えるだけですが、この化け狸は、その尾を炎にも大岩にも代えて、更に大きさも変えられます。

その化け狸が、尾を振るいました。

その尾が、巨大な岩の塊に変化して、私達に降り注ぎます。

ですが、その時。


「南無大師遍照金剛」


声が響きました。

すると、岩が空中で止まったのです。


「何……!?」


化け狸が、驚愕に辺りを見回します。

すると、いつの間にか近くに、一人の僧が立っていました。



「化け狸よ。殺生は罪深きこと。やめるがよい」


空海様の声は、穏やかでした。

ですが、その中には、抗いがたい力があったのです。

私達を殺そうとした化け狸でも抗えないほどの力が。

化け狸は警戒し、名を問います。


「貴様……何者だ」

「某は、空海と申す者。この地での争いを聞き付け、治めに参った」


そう、この方こそ、弘法太師──空海様でした。


「化け狐と化け狸の争い、某が仲裁しよう」

「仲裁だと? 笑わせるな!」


化け狸が、再び尾を振るいました。

今度は、尾が濁流のような水に変化したのです。

姿しか変えられない私達と比べて、何という力を持っているのでしょう。

ですが、空海様は動じませんでした。


「南無大師遍照金剛」


再び、空海様の声が響くと、水が止まりました。

いえ、それどころか、何も無かったかのように消えたのです。

有るのは、化け狸の大きな尻尾だけ。


「な……!?」


化け狸は愕然とし、更に震え始めます。

その理由は私達にもわかりました。

化け狸の内にある大きな力が、空海様のお力で外に出せず、封じられているのです。

それは、圧倒的な力の差が無ければ、到底成し得ない事でした。


「化け狸よ。某の言葉を聞くがよい」

「ひっ!」


空海様が、歩み寄ろうとしますが、既に化け狸は、逃げようとしました。

ですが、身体が動かないようで、僅かに悲鳴を零すだけ。

そんな化け狸に、空海様は告げました。


「四国の地は、化け狸の領地としよう。だが、本州には出てはならぬ」

「な、なんだと……」


そして更に化け狐が四国から逃れるのを邪魔してはいけないと、空海様はおっしゃられたのです。


「ただし、条件がある。鉄の橋が、四国と本州を結ぶ時まで、だ」


空海の言葉に、化け狸は黙りました。

鉄の橋。そんなものが、できるはずがありません。

ならば、実質的に永遠に四国から出られないということです。

ですが私達のような化け狐も、化け狸の領地である四国から立ち去るでしょう。


「その代わり、化け狐を殺すことも禁ずる。誓うか?」

「……誓う」


その事を理解したのか、化け狸は、渋々頷きました。


「よい。では、某が見届けよう」


空海様が、手を上げました。

すると、化け狸の身体が、光に包まれ、誓約が刻まれました。

そして力の拘束を解かれた化け狸は、逃げるように去って行ったのです。


その後、空海様は、私達に匹の狐に向き直りました。


「大丈夫か?」

「は、はい……ありがとうございます」

「助けていただき、感謝いたします」


金狐と私は、頭を下げました。


「良い。これからは、争いを避けるがよい。四国からも出た方がよかろう」


空海様の言葉に、私達は頷きます。

もとより、この四国の地は化け狸の勢力が強い土地でした。

これを機に、どこか別の土地に移り住む事を、私達は視線を交わし、決めたのです。

その様な私達を見ていた空海様は、ふと私達に尋ねられました。


「ところで、そなたたちは、人に興味があるのではないか?」

「どうして……」


確かに、私達は良く人の様子を見ていました。

人の暮らしは、見ていてとても面白いもの。

だから、化け比べで人の姿を取れたのです。


「某には、分かる。そなたたちの目に、人への好奇心が宿っておる」


そんな私達を見て、空海様は微笑んだのです。


「人の世は、複雑だ。だが、美しくもある。そなたたちが、人と共に生きる道を選ぶなら、某は止めぬ」

「本当ですか?」


金狐が、目を輝かせました。


「ああ。だが、人を傷つけてはならぬ。それだけは、守るがよい」

「はい!」


私達二匹の狐は、声を揃えて答えました。

こうして、二匹の狐は、人に対して更に興味を持つようになったのです。



【金狐】


時は流れて、平安の世。

わたしは、人に化けられるようになっていました。

そして、都の貴族たちの暮らしを見て、憧れを抱いていたのです。


(なんて素敵なの……あの着物、あの装飾品……)


貴族の姫たちは、美しい十二単を纏って、優雅に暮らしています。

わたしも、あんな風になりたい……。

ですが、ただ化けるだけでは、貴族にはなれません。

身分が必要なのです。


(どうすれば、わたしもあんな風になれるのかな……?)


わたしは、考えました。

そして、一つの計画を思いついたのです。


(そうだ、西の国に行きましょう)


西の国にある大宰府は、半島からの船が着く場所です。

そこで、異国の姫に化けて、潜り込めば、きっと私も姫になれる。

そう思ったわたしは、西の国へと向かいました。


辿り着いた西に国では、丁度海の向こうの半島から、交流の船がやってきていました。

なんでも、後百済という国からの使節団とのこと。


(なんて都合が良いのかしら!)


わたしは、夜闇に紛れて鳥の姿で船に乗り移りました。

そして、人の姿に化けたのです。

異国の姫の姿に。

既にいる異国の姫の姿に寄せて、美しい着物や結い上げた髪も真似て。


それから、その船に居る人々に術をかけました。

物の覚えを少しだけ曖昧にする、ちょっとした術を。

その結果が、翌朝に表れました。


「姫様、お疲れではありませんか?」


使節団の一人が、そう言ってわたしに尋ねてきたのです。

成功しました!

わたしは、心の中で喜びました。

そう、彼らを化かして、人が増えても不思議に思わないようにしたのです。


「いいえ、大丈夫でございます」


わたしは、頑張って雅な口調で答えました。


こうして、わたしは異国の姫の身分を手に入れたのです。


船は、都へと向かいました。

そして、わたしは都に着き、異国の姫として、朝廷に紹介されたのです。


「これは、珍しい。後百済からの姫とは」


公卿たちが、わたしを見て、口々に褒めています。


「美しい方だ」

「……どうやら、教養もあるようだ」


ええ、わたしも長く生きて人を見続けていたので、色々と物知りなのです。

こうして、わたしは、女官として帝に仕えることになりました。

そして、この美貌と才知で、帝の寵愛を受けるようになったのです。

いつしか人々は、わたしの名に「御前」を付けて呼ぶようになりました。


(やった……わたし、貴族になれた……憧れた、姫に……!)


わたしは、夢を叶えたのです。


都での生活は、想像以上に素晴らしいものでした。

美しい着物、豪華な食事、雅な歌会。

全てが、わたしの憧れだった世界でした。


(ああ、このまま、ずっとこの生活が続けばいいのに……)


わたしは、そう思っていました。

ですが、その幸せが、いつまでも続くとは限りません。

それは、わたしも分かっていました。

ですが、今は、この幸せを楽しもう。

わたしは、そう決めたのです。


こうして、金狐のわたしは、玉藻御前と呼ばれながら、都で暮らすようになったのでした。



【銀狐】


時は同じく、平安の世。

私は、和泉国、信太の森に棲んでおりました。

人に化けられるようにはなっていましたが、私は人の世に積極的には関わっていません。


(私は、金狐とは、違います……)


金狐は、人の世に飛び込んでいきましたが、わたしは彼女より臆病でした。


(人は、怖い……)


人の中には、稀に弘法太師のような、とんでもなく強い力を持つ人もいます。

そんな人に狙われたらと、どうしても不安がぬぐえないのです。

私は、そう思って、遠巻きに人を観察するだけでした。


ですが、ある日。


「あそこに、白い狐がいるぞ!」


男の声が森に響き渡りました。

それは、この地を支配する土豪の狩人たち。

朝廷の言うことも聞かず、粗暴に振る舞う者たちです。


「美しい毛並みだ! 捕らえれば、高く売れるぞ!」


私は、慌てて逃げましたが、狩人たちは執拗に追ってきました。

こんな逃げながらでは、変化も他の術も使えません。

そして汎たれた矢が、遂にわたしの足を掠めたのです。


「きゃっ!」


わたしは転び、その間に狩人たちが迫ってくるのが見えました。


(もう、だめ……やっぱり人間は……)


私はもう逃げられないと思い、既に諦めていました。

ですが、その時です。


「やめよ!」


年若い男の声がして、狩人たちが止まりました。


「何者だ、貴様」

「俺は、安倍保名という者。白狐を傷つけるなど、止せと言っている」


そう名乗った若い男──保名様が、わたしを庇ってくれたのです。

しかし、元より朝廷にも従わない土豪たち。


「何を言う! この狐は、俺たちの獲物だ!」

「そうだ! 横取りする気か!?」


保名様に口汚く反論をして、弓矢迄向けたのです。


「いや、そうではない。神罰が下ると言っているのだ」


しかし、保名様は怯むことなく、こう告げられました。


「な、何? 神罰……?」

「うむ、白き獣は、天照大神と縁あるとされている。これを狩れば神罰が下るとも言われておる。そなたら、神罰を望むのか?」


そう言われてしまえば、土豪たちも怯み始めます。

なにしろ、私のような化け狐が居るのですから、神々がおわすことも土豪たちですら周知の事。

そこで神罰と告げられれば、土豪たちも怯むのは仕方ない事なのでしょう。


「この狐は、俺が保護する。去れ」


保名様の声には、力がありました。

そして狩人たちは、渋々立ち去って行ったのです。


それを見届けた保名様は、私に近づいてきました。


「大丈夫か?」


優しい声でした。

私は、彼を見上げました。

その目は、とても優しいもの。


(この人は……なんて……)


その時です。

私の心に、この方の姿が刻み込まれたのは。

かつて私の命を助けて下さった、空海様程の力は感じません。

ですが、とても慈悲深いその心は、私が人を恐れながらも引き付けられ続けたものです。


そして、わたしは決めました。

この人に、恩返しをしよう。

その後、保名様に手当てされた私は、狐の姿のまま、森へと戻りました。


そして、数日後。

人里近くに降りた私は、里の者達の噂に背筋を凍らせました。

保名様が土豪に襲われそうだというのです。

もとより、あの土豪たちは粗暴で、以前からこの辺りを荒らしまわっていました。

その横暴さは、朝廷の役人も手を出せないゆような無法者たちなのです。

その土豪たちが、保名様を狙う……それはきっと、私を庇ったから。


(保名様が、危ない!)


私は、居てもたってもいられずに、走り出したのです。



私がそこにたどり着いた時、既に保名様は傷だらけで倒れていました。

土豪たちは、まだそこにいて、保名様の持ち物を物色しています。


「この男、金目のものは持っていないな」

「殺して、立ち去るか。邪魔者は消すに限る」


その言葉に、そして倒れた保名様の姿に、私は怒りを覚えました。


(なんてことを……許さない!)


私は、人の姿に化けました。絶世の美女の姿に。

そして、土豪たちの前に現れたのです。


「こんなところで何をしているの?」


わたしの声に、土豪たちが振り向きました。


「何だ、お前は……おお、美しい!」


土豪たちが、わたしに近づいてきました。

見た目に釣られ、見るも醜悪なだらしない顔で。


ですが、その瞬間、わたしは、術をかけました。

化け狐らしい、人を化かす術を。

心の底まで隙だらけだった土豪たちは、容易く術に囚われて、幻に囚われます。


「ひっ……何だ、この化け物は!」

「逃げろ!」

「向こうからも来るぞ!?」


土豪たちは悲鳴を上げながら、逃げ去りました。

その先は、川。

あんな男たちは、幻の化け物に追われて、季節外れの水浴びでもすればいいのです。


そんな男たちはもうどうでもよく、私は、保名様に駆け寄りました。


「今手当を致します!」

わたしは、保名様の傷を手当てしました。

治癒の術など使えませんが、ほんの少し傷口を化かせば、血を止めたり傷を負っていないように振る舞う事は出来るはずです。

ちゃんとした手当は、お屋敷などに戻って本職の方に任せるべきでしょう。


その様に私が処置していると、保名様が、目を開かれました。


「……そなたは……?」

「私は、あなた様に恩を受けし者です。お助けに上がりました」


その言葉に、保名様は、驚いた様子でしたが、すぐに微笑えまれました。


「そうか……ありがとう」


わたしは、保名様を自分の背に乗せ、彼の屋敷まで運び、そして傷の手当てを続けました。

薬師の方もすぐさま呼ばれ、保名様は一命をとりとめられたのです。


その後保名様は、わたしを自分の屋敷に招き入れてくれました。


「そなたには、世話になったな。そなたは、俺の命の恩人だ。好きなだけ屋敷で過ごすと良い」


保名様の言葉に、わたしは戸惑いました。


「でも、わたしは……」

「そなたが受けたという恩を、俺はまだ思い出せぬ。だが、構わない。お前は、優しい心を持っているからな」


保名様の言葉に、わたしの心は温かくなりました。


(この人……本当に、なんてお優しい……)


私は、保名様のお言葉に甘え、共に暮らすようになりました。

そして、次第に、互いに惹かれ合っていったのです。


やがて私達は結ばれました。

そして、子までが生まれたのです。

珠のような男の子が。

童子丸と名付けた、その子は、私達の宝でした。


平穏な日々が続きました。

ですが、ある日。

私は、うっかり狐の尾を見せてしまったのです。


「そなた……よもや、あの時の」


白銀の毛並みの尾を見て、保名様は私が何者であるか、察せられたのでしょう。

その顔には驚愕と、妙な納得の色がありました。


(ああ……幸せな日々も、これまでなのですね)


私は、悟りました。もう、ここにはいられません。

未だに驚きに固まる保名様の前で、私は最後の別れの言葉代りに、和歌を詠みました。


「恋しくば尋ね来て見よ 和泉なる信太の森のうらみ葛の葉」


そして、森へ帰ろうとして足を踏み出そうとした……その時。

保名様が私の手を掴んだのです。


「待ってくれ」

「ですが、保名様……もう、私は……狐があなた様と共に暮らすなど……」

「いや、それは不思議な事ではないぞ」


保名様が私を引き寄せました。

その力強さに逆らう事も出来ず抱きしめられた私は、しっかりと私の瞳を見つめる保名様の瞳に、目が離せません。


「前例は、あるのだ。日本霊異記に、こういう話がある。人と狐が結ばれ、幸せに暮らした話だ」


保名様の言葉に、私は目をしばたかせます。

そんな事が、既にあったというのですか?

私のような、人に恋焦がれた狐が、他にも。


「実際、混人は多く暮らしている。狐の血を引く者も、珍しくない。お前が狐でも、何も変わらない」


保名様の言葉は、私にとっての救いであり、何よりも望んだもの。


「本当……ですか?」

「ああ。だから、お前が狐でも構わない。俺は、お前を愛している」


それでもまだ信じきれない私でしたが、保名様の言葉に、目から涙が溢れました。


「保名様……❤」


私は、保名様を抱き締め返したのです。


こうして、私は保名様と共に暮らし続けることになりました。

息子の童子丸は、すくすくと成長していき、やがて陰陽師の加茂忠行様に弟子入りし、陰陽術を学ぶようになりました。

そして、その名を、安倍晴明と改めたのです。

そう。、私の息子は、後に日本を代表する陰陽師となるのです。

私は、そのことを誇りに思っています。


こうして、銀狐の私、葛葉は、保名様と共に、晴明の成長を見守り続けるのでした。

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