王国首都郊外の農場(敷地内3)
共和国の男……アレクサンドル・コドロフは恐怖していた。
戦場に赴く兵士には多かれ少なかれ恐怖は付き物だが、そのときの恐怖はいつも戦場で感じる類いのものとは明らかに違っていた。
見えはしなかったが、経験から、攻撃はおそらく狙撃手によるもの。それも熟練の……ということに気付いたからだ。
狙撃手は、味方にすればこれだけ心強い者はない。
しかし、敵にすれば……一騎打ちの時代は忘却の彼方に過ぎ去り、戦場で個人が戦の趨勢をどうこうするという話はついぞ聞かなくなった昨今……。
もし、一人で戦況を変え得る者がいるとするならば、それは狙撃手以外にない。
練度の高い狙撃手は、あるときは小隊の自由を奪い戦意を喪失させ、あるときは指揮官を斃して大隊の機能を麻痺させる。
実際、彼も小規模な遭遇戦で、手練れの狙撃手が味方の劣勢を覆すのを見たことが何度かあったし、“あの高地”では〈狩人〉に狙撃されさんざんな目にあっている。
アレクサンドルのなけなしの理性が“即時撤退”の四文字を頭の中で繰り返していたが、彼の感情が撤退を許さなかった。
にわか軍人や政治屋には臆病とも揶揄される冷静かつ堅実な用兵が持ち味のアレクサンドルだったが、いつ終わるとも知れぬ、左遷がごとき敵地での特殊任務暮らしが彼を変えてしまった。
アレクサンドルは、焦燥に駆られていた。
そして、誰にでも解りやすい成果が必要だという、彼らしからぬ結論に至ってしまった。
だから、自分の判断で襲撃を早めた。成果を手土産に、義父に口を利いてもらい軍へ復帰するつもりだった。
それがどうだ。目論見は見事に外れ、味方に損害が続出し……このまま自分だけ無事に帰ったとしても、最早、陸軍に居場所があるかどうかは解らない。
そうだ、斃れた仲間たちのためにも、手ぶらでは帰れないのだ。
そのとき、また銃声がして、仲間が一人どさりと倒れると微動だにしなくなった。
「!!」
アレクサンドルは、“あの高地”で〈狩人〉に狙撃され、危うく戦死するところだったことをまざまざと思い出してしまい……絶句したまま思考が止まってしまった。




