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狩人の血脈  作者: SKeLeton
第二章 現在
22/38

ヴァルシュタット男爵家(書斎)

 ルトギエルは、書斎で卓上たくじょうの書類に目を通していた。文字だけの資料に混じって、小型の航空機とおぼしき平面図も見受けられる。


 コンコンコンとノックの音がすると、ルトギエルは大きな引き出しを開き、書類を放り込んで閉じた。


「どうぞ。いている」


 カチャリと静かにノブが回ると、音もなく部屋に若い〈狩人かりゅうど〉が滑り込んで来た。まるで風のようだな、とルトギエルは思う。


「キミか。アウィス君」


 ルトギエルの一言だけで、しばらくの間ふたりの視線が交わされたが、ようやくアウィスが言葉をしぼり出した。


「『あのとき光を失ったことで、逆に見えるようになったことも多い』」

「……」

「いつも、閣下のことを『見護みまもっております』と……あるじ、セレスティーナ・シルワウィリデから、ルトギエル・ヴァルシュタット閣下への個人的な伝言です。それだけお伝えにまいりました」

「セレスティーナ姫から?」


 アウィスは言うことだけ言ってしまうと、すっと消えるように部屋を後にしてしまった。


 あの婚礼の、毒をられたセレスティーナは、生死を彷徨さまよったあと、奇跡的な回復を見せた。


 しかし、あの黒瑪瑙くろめのうごとくと言われた漆黒しっこくひとみに、二度と光が宿ることはなかった。セレスティーナは今もやみの中にいる。


 ルトギエルは、セレスティーナの意識が戻らなかったときも、意識が戻ってからも、伴侶はんりょとしてむかえるという姿勢はくずさなかった。


 盲目もうもくの妻をヴァルシュタットの家にむかえ入れるに何の躊躇ためらいもなかったし、そのための準備もしていた。


 しかし、みずからのセレスティーナへの気持ちを疑わなかったルトギエルになされた、あるひとりの〈狩人かりゅうど〉からの問いかけに、彼は苦渋くじゅうの選択をせまられることとなった。


 すなわち、「セレスティーナをまもることがあなたにできるのか?」と。


 婚礼の日、姫のさかずき一服いっぷくに気付くことがことができなかったあなたに……。


 結局のところ、彼女をまもるために婚姻こんいんはなかったこととされ、セレスティーナは〈狩人かりゅうど〉らにまもられ〈もり〉に帰った。


 政治屋や自称識者じしょうしきしゃは「当たり前の選択」と言い、街の人々は「見損みそこなった」「お姫さまがかわいそう」などと勝手なことを口々に言ってルトギエルを非難したが、ルトギエルがそのことについて口を開くことはなかった。


 ヴァルシュタット家の先代せんだいも、生前、献身けんしん貢献こうけんの大きさにしてあまりにもお粗末そまつな〈もりたみ〉の待遇たいぐう……その改善かいぜんのために心をくだいていた。


 その一助いちじょとして、今回の王国と〈もり〉の関係強化のための婚姻こんいんは、王室の意も受けてのことだった。


 だが、この国にくう、権力の妖魔ようまがそれをしとしなかった。


 〈もり〉の者がこれ以上、王国への影響力を増すのも許しがたいし、新参者しんざんもののヴァルシュタット家も目障めざわりだったということだ。


 既得権益者にとっては、悪くなることも良くなることですらも、変わることはすべてが阻止すべき事案なのだ。


「セレスが……そんなことを……」


 ひとり部屋に残されたルトギエルは、虚空こくうにらみながら、彼にしか聞こえないつぶやきをらし、暫時ざんじにじ居室きょしつの壁を呆然ぼうぜんと見つめていた。

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