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狩人の血脈  作者: SKeLeton
第二章 現在
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王国空軍輸送機(操縦席)

 前方を見つめる王国空軍飛行服姿の中年男が、右手で操縦桿そうじゅうかんおさえたまま、左手で目頭めがしらむ。


 最近、視力のおとろえを感じている。明るいうちはまだ良いが、薄暗くなるとたちまちダメになる。夜間視力ときたらなおさらだ。


 何百回、いや、何千回とアプローチした馴染みの滑走路なのだが……。


まかせる。降ろしてくれ」

「了解。受け取ります」


 機長の言葉に、副操縦士が急速に暗闇が忍び寄りつつある眼下の地形から目を離すことなく簡潔に応じる。その声は若い女性のものだった。


 輸送機、爆撃機など大型機向けの飛行服は戦闘機、攻撃機など小型機向けの物と違って、さほど身体からだに密着するようにはできていない。


 それでも、副操縦士のほっそりとした身体からだのシルエット……その胸部に、形の良いふくらみが確認でき、声の主が女性であることを肯定こうていしていた。


 コントロールを受け取った副操縦士、レティシア・ヴァルシュタット王国空軍少尉は、ぐんぐんと近付いてくる滑走路を見つめる。


 気をかせた地上要員グランドクルーが早めに誘導灯を着け始めたようだが、夜目よめくレティシアにはまだそんなものは必要ない。


 滑走路脇かっそうろわきに立てられた吹き流しが、勢いよく風にはためいているのまで視認している。


 レティシアが、両手で握っていた操縦桿そうじゅうかんから左手を外し、中央のスロットルレバーの上に置く。


 この機の並列復座は、左に位置する機長席、右の副操縦士席それぞれに操縦桿があるが、スロットルレバーは二つの席にはさまれるように配置されており共用となる。


 落ち着き払った、レティシアの動作を横目で見た機長の口元がほころぶ。ゆったりとシートに背をつけた姿は、まるで自宅の居間でくつろいでいるかのようだ。


 レティシアは機体が横風に流されないよう、操縦桿を右手だけで強く固定しながら、ラダーペダルと左右エンジンのスロットル調整で横に流れる機体を少し風上に向ける。


 そして、機首をかしげるようにして機体が滑走路からはみ出さないよう進入降下させる。


 さらにレティシアは、降着装置ランディングギアが滑走路に接地する寸前、ラダーペダルとエンジン推力を戻し気味にして、滑走路の向きと機首の向きを合わせ、降着装置に負荷がかからないよう、機体進行方向に垂直に滑走路に平行に接地させる。


 そして、降着装置ランディングギアのタイヤが仕事を始めたのを機体の振動で確認したところで、ゆっくりとスロットルレバーを戻し、逆進位置に入れ速度を殺す。


 ひと仕事終えたレティシアが、機体を駐機位置に運ぼうとラダーを踏み込もうとしたとき、ベレー帽を被った王国陸軍士官が貨物室カーゴルームからやってきて、コックピットに首を突き出した。


「機長! お見事でした!!」


満面の笑みを機長に向け、右手を差し出し握手を求める。


「俺じゃあなくてね」


 機長はいたずらっぽく笑いながらレティシアのほうへあごをしゃくったが、事態を理解できずに陸軍士官の右手がくうを泳いだ。


「おめいただき光栄でありますっ!!」


 レティシアは、凍り付いた場の空気をやぶるべく反射的に言ってはみたものの、こそばゆいような、なんとなくプライドを傷つけられたような、複雑な心境のためか馬鹿丁寧な言い回しになってしまっているのを意識する。


 が、一度口に出してしまったセリフはもうどうしようもない。


 満面の作り笑いを浮かべ、副操縦席から身体をひねってしゃちほこばった敬礼をした後、あっけにとられている陸軍士官の右手を取り、ぎこちない握手を交わした。


 その姿は、まるで仮装コスプレした女学生が本職の軍人をからかっているようだった。


 そんな部下のまじめくさった態度と、陸軍士官の引きつった笑顔とを見比べた機長は、笑いをかみ殺すのに苦労することとなった。

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