王国首都の安宿
王国首都は、夜の帳が下りても昼間のパレードの興奮冷めやらぬといった様子で、熱気をはらんだ空気に包まれていた。
〈防人〉の男たちも宿舎としている安宿の一室で、安酒場や酒も賄う安食堂の類から溢れ出してくるのであろう陽気な笑い声や、訛りのない王国風の歌声を装備の点検清掃をしながら聞いていた。
パレードの警備から解放されたアウィスも、狙撃銃を整備している。
整備といっても、試射もままならない王国首都では、いつ零点規正と呼ばれる照準調整ができるかわからない。
照準器は装着したまま、引き金など可動部分の注油や銃身の清掃といった最低限できることをしておくしかない。
そこへ独特な拍子を取るノックの音が響く。ドア付近にいた中年の〈狩人〉が音もなくすっと立ち上がる。
「誰か?」
誰何の後、中年の〈狩人〉がドアを開けると、息を切らせた若い〈防人〉が部屋に入って来るなり一声を放った。
「姫の! セレスティーナさまのグラスに毒が!!」
一斉に立ち上がる男たち。
「なんと!!」
「王国の警備は何をしていたのだ!!」
〈杜の民〉たちは口々に叫び、場は騒然となった。
そのとき、髪に白い物が混じった初老の〈防人〉が左手を挙げ、前に進み出た。
それを見た〈防人〉たちは、さすが訓練された者の素早さか、一瞬で落ち着きを取り戻した。
押し黙った〈防人〉たちを背に、静かに問う声が、ほかに会話する者がない室内にやけに響いた。
「して、セレスティーナさまのご容態は?」
その中で、アウィスはずっと無言だった。
彼の狙撃銃を握った腕には、必要のない力が入り震えている。
口元は引き締められ、目は凶報をもたらした若い〈防人〉を見つめているが、その瞳には何が映っているのか。
「医者は血流にも呼気にも問題がないと。しかし、意識が……」
アウィスは、報告する声を遠くに聞きながら、昼間のパレード警戒中に照準器越しに見た、ライトグリーンのドレスに包まれた微笑の記憶が蘇り、その映像を確かに視た気がした。
どうしようもない無力感に襲われ、頭を垂れたアウィスは、両手の狙撃銃をさらに握り締めた。
オウルは、そのアウィスの様子をいつまでも見つめていた。
いつも陽気なこの男が見せたことのないような、暗い暗い瞳で。




