王国首都のパレード(目抜き通り)
光学照準器の円形の狭い視野で、ゆっくりと近付いてくる車列を視る。先導の黒い警備車輌に続いて、無天蓋の四頭立て馬車が現れる。
馬車の後部左の座席には、淡いグリーンのドレスを身にまとった若い女性、セレスティーナ・シルワウィリデがいる。
その白く美しい喉元に照準器の十字線が合うが、僅かに照準が揺れている。
何も知らぬ彼女は、周囲の群衆に手を振っている。シンプルなデザインのドレスにも、唇に薄紅を引いただけの顔立ちにも派手さはない。
しかし、穏やかな光をたたえる黒い瞳に、透き通るような白い横顔、そして落ち着いた優雅な仕草は、生来の気品を感じさせる。
姿勢良く伸ばされた背筋を腰まで流れる漆黒の髪も、淡い緑のドレスの色と対照となって清楚な美しさを際立たせていた。
もし彼女の持つ複雑な要素をあくまで一言で表すという無謀な試みをするならば、「調和」という言葉に凝縮することになるだろう。
その姿形も、仕草も、服装も、彼女という存在を絶妙にバランスしていて、老若男女問わず好感を持たずにはおられない。
中でも、いちばん人を惹きつけて止まないのはその柔らかな微笑だ。
そのとき、ふと、照準器の中の彼女が上目遣いになり、視線が交わされた気がしてはっとさせられるが、それはほんの一時のことに過ぎない。
この日、王国首都は華やかな雰囲気に包まれていた。
それは、王国空軍少佐でもある、ルトギエル・ヴァルシュタット男爵と王国のみならず、共和国にまでその美しさが伝わる、〈杜の民〉の首長の娘、セレスティーナ・シルワウィリデ姫との婚礼を祝うパレードが執り行われていたためだ。
パレードの車列が王宮近くのメインストリートに差し掛かるとあって、周囲に集まった王国臣民たちの興奮も最高潮に達しようとしていた。
王国首都中央部の街路には石畳が残されている部分があり、短くはない王国の歴史を見る者に感じさせる。
その石畳を多少の軍事知識を持つ者が観察することがあったならば、所々に跳弾にえぐられた痕跡を見つけることができただろう。
そして、決して平坦ではなかった、この国の歴史にも想いを馳せたことだろう。
視点をセレスティーナの隣、後部右の座席に移す。そこには、白い王国空軍士官の礼装をした、ルトギエルがいる。
照準器越しの像はもう揺れてはいない。遠距離かつ俯角のために制帽に隠れて確認できないが、沿道の臣民には短く刈り上げた頭髪の金色の襟足が、ちらりちらりと見えているかもしれない。
純白の空軍士官礼装は、お世辞にも女性受けするとは言い難い、仰々しいと評判の王国軍装の中で例外的に人気を誇っている。
沿道には胸の前で両手を握り締め、熱い視線を送ったり、ため息をつく若い娘の姿も見受けられる。
ルトギエルも、周囲の群集に手を振っている。時折、隣のライトグリーンのドレス姿にブルーの瞳を向け気遣うその表情は、激しく厳しい勤務中の彼のみを知る部下たちには想像だにできない、雲ひとつない青空のような晴れやかさだ。
これを似合いと言わずして、何を似合いと言うのか。そんな男女の馬車に続く車輌に視点を移動する。
こちらはオープンカーだが前の馬車とは異なり、前部座席の運転手と護衛のほかに、後部座席に乗車しているのは小柄な少女だけだ。
彼女も、王国空軍士官の白い礼装に身を包んでいる。事情を知らない者が見れば目を疑うかもしれない。
軍人というイメージにはおよそ不釣り合いな、小柄でまだ表情にあどけなさが残る少女が、王国空軍士官の礼装で腰掛けているのだ。
編み込んで押し込まれた明るい黄金色の髪の一部が、制帽からはみ出て陽光にきらめき、軍装のために何一つ装飾品を身にまとっていない彼女を効果的に彩っている。
しかし、彼女、ルトギエルの妹であるレティシア・ヴァルシュタット王国空軍少尉の表情を正面から見た者がいたならば、何より記憶に残ったのは、何か思い詰めたかのようなその碧い眼差しだっただろう。
にこやかな面を、沸き上がるかのような歓声に向け応えてはいるが、その表情は凍り付いたように変わらない。まるで取って付けた仮面のようだった。




