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08

 私はカメラを通して彼の行動を見ていた。正直、彼の実力は神谷君から聞いていた話よりも上だ。組織に入る資格を十分に持っていることが分かり、私はますます彼が欲しくなった。

「Aグループ、行動を起こして。Bグループは三分後、Cグループは10分後に」

 周囲に聞こえないよう小声で指示を出した。制服のリボンに付けた小型マイクが、それを仲間に伝える。指示は伝わったようだ。ノートパソコンの画面で、二人の生徒が行動を起こした。私はそれを確認し、キーボードを叩いて別のカメラの画像を見る。

「あーっ! 大変だー! 金岡先輩。C館二階でトラブル発生しましたー。急いでくださいー!!」

 と女の子が言う。私は映像の中で、一人の男子生徒が走り出したのを見て、周囲にわからないように笑った。

「あれっ? ケンカをやめて走って行っちゃいましたー」

 どうやら彼らは、さっきの三人よりも賢かったらしい。私は安心して、別のカメラの映像をノートパソコンで見た。

「えっ? あっ、村瀬先輩! A館の一階でトラブル発生です!」

 ともう一人の女の子が、ノートパソコンの画面を見ながら言った。

『……到着。だけど、トラブルが無い』

 と音声が聞こえてきた。村瀬水月の声だ。

「村瀬先輩が来る前に、どこかに行っちゃいました…」

 私は二人の女の子が不思議がる様子を見て心の中で笑い、キーボードを叩いた。そして、小声で仲間に指示を出す。

「起動させなさい」

 この指示は、おそらく風紀委員を大きく動揺させるはず。その確信が私の中にあった。

『うっ……。何だ…?』

『頭がっ……』

 二人の音声が聞こえてきた。金岡大地と村瀬水月の声だ。

「金岡先輩!?」

「村瀬先輩!? どうしたんですか!?」

 と風紀委員二人の様子が変わり、それを見て女の子二人はマイクで聞く。そこでドアが開き、朝井翔太と沢口智也、日野沙織が部屋に入ってきた。

「どうした?」

「金岡先輩と村瀬先輩が……」

 と女の子の一人が質問に答える。それを聞いて、日野沙織が女の子に質問する。

「金岡君と村瀬君がどうしたの?」

「トラブルが発生した場所に、金岡君と村瀬君が行って、原因不明の何かが起こったようです」

 と私は報告しながらキーボードを叩き、その何かの原因を停止させた。画面の中に二つの映像が映し出される。金岡大地と村瀬水月が気絶していた。

「……風紀委員を狙ったボヤ騒ぎのようなもの、と考えればいいのでしょうか?」

 と沢口智也が言う。確かに沢口智也の言う通り風紀委員を狙っている。しかし、ただのボヤ騒ぎではない。目的は別にある。今日から始まった十日間の部活勧誘の期間は、その目的を果たすのにちょうどいい期間と条件が揃っている。

「………その何かが起こる前の様子は?」

「生徒たちがトラブルを起こしてー、金岡先輩と村瀬先輩が到着する前に、どこかに行きましたー」

 と女の子の一人が説明した。それを聞いて朝井翔太は黙り込んだ。しばらくして通信端末を取り出し、通信を行った。

「全員、巡回をやめて帰宅しろ」

 それを聞き、私はつまらなくなった。同じような仕掛けがまだあるのに、ここで終わってしまうのはつまらない。

(…まあ、九日間もあるから十分に楽しめるわね)

 私はヘッドフォンを外し、立ち上がってバッグを手に持った。

(残りの九日間で誰か気がつくかしら?)

 そう思いながら私は生徒会室を出て行った。


 俺は訓練を終えて滞在している部屋に帰ると、すぐに大佐に連絡を取った。

『興味深い話だ。……兵器を所持しているということは、何かの組織が絡んでいることは間違いないだろう』

 と大佐は俺の報告を聞いて言った。

「そうですね。……それより、この分子ブレードの解析を頼みたいんですが」

『それなら、倉敷博士に頼んでみよう。すぐに部下に取りに行かせる』

「お願いします」

 そして、通信が切れてコンタクトディスプレイから大佐の姿が消えた。とりあえず、これで兵器の件はどうにかなるだろう。

(兵器と言えば……)

 〈兵器〉という言葉で、俺は自分の両腕が兵器だったことを思い出した。普段はカモフラージュされているが、カモフラージュを解くと機械仕掛けだ。

「……偽装解除」

 俺の言葉を合図に、腕が光を放ってカモフラージュが解けて兵器が姿を現した。この兵器は、俺の心臓付近に埋め込まれた永久機関からエネルギーを供給しているらしい。音声コマンドと心意コマンドで操作するので扱いやすい。

「起動」

 と俺が言うと、ヴンッという音と共に手の甲のクリスタルに光が灯った。

『稼働状況を確認します。エネルギー充填30パーセント。回路や機関に異常は見当たりません』

 イヤホンから音声が聞こえてきた。どうやら正常に起動しているらしい。

「停止。偽装」

 二つの命令で兵器は稼働を停止し、光を放ってカモフラージュされた。その様子を見ながら俺は思った。

(……近いうちに使うことにならないといいけどな)

 おそらく使うことになるという直感が俺の中にあった。

「巡回の停止命令。兵器の所持。それと機密文書。そして、テロ組織……」

 俺はなんとなく気になることを口にだしてみた。

「まず、巡回の停止命令は十中八九、神谷裕一が関わっている組織が何かしたんだろう」

 軍事用兵器は分子ブレードだけとは限らない。それに、神谷裕一がどんなルートを使い、あの軍事用兵器を手に入れたのかも分からない。他にも問題は山積みだ。

(とりあえず、明日にでも朝井翔太に何があったのかを聞いてみるか)

 と俺が考えていると、チャイムが鳴る音がした。大佐の部下が来たんだろう。俺は玄関へ歩いて行き、ドアを開けた。

「〈特尉〉ですね?」

 とドアを開けた瞬間に聞いてきたのは、スーツを着た女性だった。

「…そうだけど、アンタは?」

「私は大佐の部下です。大佐の命令で来ました」

 女性は書状を取り出して俺に見せた。書状の端には、俺の持っている軍服と同じ紋様があった。

「では、例のものを預かります」

 と言って女性はアタッシュケースを開いた。俺はアタッシュケーの中に分子ブレードを入れる。そして、厳重にロックした。

「それでは」

 と女性はいって礼をして去って行くが、数歩歩いてから立ち止まって俺の方を振り返った。

「私の名前は倉敷といいます。〈特尉〉、あなたの名前は?」

「…風間搭屋だ」

 俺が答えると、倉敷と名乗った女性は微笑んで言う。

「これから、よろしくお願いします。風間〈特尉〉」

 そして、今度こそ去って行った。心なしか、さっきよりも嬉しそうに感じるのはなぜだろうか。

(……何だったんだ?)

 と俺は思った。あの女性は軍の書状を持っていたので、確かに軍の人間なのだろう。

『軍のサーバーにアクセスしました』

 イヤホンから音声が聞こえて来たので、俺はドアを閉めて鍵をかけた。コンタクトディスプレイにデータが表示される。

「倉敷少佐。二つ名は〈電子世界の舞姫〉か……。あの倉敷博士の孫。あの爺さん、孫がいたのか……」

 俺はデータを確認し終えると、コンタクトでディスプレイから消した。

(今日は、もう寝るか)

 と俺は考えて備え付けのベッドに寝転がった。とにかく今は、来るべき時のために体を休める。それが今の優先事項だ。


 私は学校から帰ってからベッドに座り、考え事をしていました。考えている内容は、今日の放課後にカメラを通して見たことです。

「金岡先輩と村瀬先輩。大丈夫かな……」

 私はカメラを通して見たことが信じられません。そして、信じることができません。だから恐いです。

「……もしかして、風間君もあんなことになるんじゃ……」

 言った途端に息苦しくなりました。

(もし、あんなことが、またあったら……)

 私は自分の中の不安が大きくなっていくのを感じ、押しつぶされそうになりました。

 ――ピリリリッ

「きゃっ!」

 いきなり音がしたので、私は驚いて悲鳴を上げてしまいました。携帯電話の音です。私は通話ボタンを押して電話に出ました。

『やっほー、マーちゃん』

 この明るくマイペースな声は、鈴原さんです。

「鈴原さん、どうしたの?」

 と私が聞くと、鈴原さんは明るい声で答えてくれます。

『うん。正直、私もショックだったんだけど、いつまでもウジウジしてられないでしょ?

 明日からも仕事ある訳だし』

 どうやら鈴原さんは私を励ますために、電話をかけて来てくれたようです。それが分かり、少しだけ不安が薄れました。

「そうだけど、……また、あんなことがあったら」

『大丈夫だよー。トーヤ君の仕事ぶりは見たでしょ?』

 と鈴原さんに言われ、私はカメラを通して見た風間君のことを思い出しました。

『ね?』

「……うん」

 私の中にある不安は消えませんでしたが、少しだけ軽くなった気がしました。

「ありがとう。鈴原さん」

『別にいいよー。それよりも、マーちゃん』

 この七日間で分かるようになった事ですが、鈴原さんの声が私をからかう時のものに変わりました。

『トーヤ君との関係、その後の進展はー?』

「す、鈴原さん!」

 と私が大声で言うと、電話の向こうから笑い声が聞こえてきました。

『照れない、照れない。だって、友達の恋愛状況だよー? 普通は気になるよー』

 鈴原さんは私が慌てるのを楽しんでるみたいです。

『それで? 何か進展はあったー?』

 と再び聞かれたので、私はあきらめて答えることにします。

「最近、生徒会の仕事とかで忙しいし、風間君はホームルームが終わってすぐに教室から出て行っちゃうから…」

『話す時間が無かったんだー? じゃあ、進展は無いんだねー?』

「……うん」

『…………』

 長い沈黙があったので、私は鈴原さんの名前を呼びます。 

「鈴原さん?」

『マーちゃんさー、昼休みとかにトーヤ君に声かけるとかしないのー?』

「うっ……」

 確かに声をかけることはできるかもしれないけど、また噂が広がるのが恥ずかしかったので、声をかけることができないだけです。

『マーちゃんの言った理由って、ただの言い訳に聞こえるよー?』

「………」

 鈴原さんの指摘に、私は返す言葉がありませんでした。

『仕方ないなー。そんなマーちゃんに、親友の私からアドバイスしてあげるよー』

 私は何も言えないので、鈴原さんの話を黙って聞きます。

『昼休みとかに声をかけられないならー、前みたいに朝なんてどう? トーヤ君、朝は屋上にいるみたいだよー』

 私はそれを聞いて固まってしまいます。

(何で、そんな情報を知ってるの?)

『トーヤ君さー、フェンスにもたれてるから、下から見たら分かるんだけどー、マーちゃんは気がつかなかったのー?』

 と鈴原さんが補足説明してくれたので、私はホッとしました。

「……そうだったんだ」

 すると、鈴原さんの声が、また私をからかう時のものになります。

『あれ? もしかしてマーちゃん、私がトーヤ君と付き合ってると思ったー?』

「そっ、そんなこと思ってない! 変なこと言わないで!!」

 と私は慌てて否定します(一瞬だけ思ってしまいましたけど)。

『はいはい。それじゃ、また学校でねー』

 と鈴原さんは言って通話を切りました。

「はぁ……」

 と私は溜め息をつきました。鈴原さんと話して疲れてしまったみたいです。

(鈴原さんにからかわれたから疲れちゃった……。シャワー浴びよう)

 そう考えて私はバスタオルと着替えを用意し、バスルームに向かいました。


 ――ピーッ、ピーッ

 俺は音が鳴るのを聞いて目を覚ました。耳に付けているイヤホンが音源だ。上半身をベ

ッドから起こす。それと同時に通信回線を開くよう頭の中で考えた。

「…はい〈特尉〉です」

『眠そうじゃな。もしかして寝ていたのか? すまんのう』

 倉敷博士だ。この人が通信してきたってことは、

『例の分子ブレードじゃが、解析が済んだ』

「それで、どうだったんだ?」

 と俺が聞き返すと、コンタクトディスプレイに分子ブレードの図が映し出された。

『この分子ブレードじゃが、バッテリーがウィルトンという会社が開発していたものじゃ。大きさは小さいが、かなりの電気を蓄えることができる。例えるなら、大型荷電粒子砲三台ぶんかのう』

 よく分からないが、とんでもない物らしい。

『そして、もう一つ。こっちが決め手となったんじゃが、分子発生装置と分子操作装置。これは未完成だったはずの物じゃ』

「どうして未完成のはずなんだ?」

『昨年に試作機が作られ、今も開発中になっておる。それにしても、よくできているのう』

 と倉敷博士は言いながら目を輝かせている。

「それで、ルートは分かったのか?」

 と俺が聞くと、倉敷博士は邪険そうな顔をして答える。

『今、孫が調べておる。ネットワークを使ってウィルトンのサーバーに〈ハッキング〉とやらをな。苦戦しておるようじゃが』

「連絡、ありがとうございました。倉敷博士」

 と俺が言うと、分子ブレード手に笑いながら(少し気味が悪い)言った。

『なーに、こんな珍しいものが手に入ったんじゃ。大した苦労では無い』

 通信が切れた。とりあえず、兵器からルートが辿れそうだ。

(……ルートを辿って組織名を割り出し、居場所を探し出して解体させる。それが基本のパターンだな)

 と俺は今後の動きを頭の中で整理した。

「……考えるのは簡単だが、やるとなったら話は別だよな」

 と俺は呟き、ベッドに横になって瞼を閉じた。すると、すぐに眠りに落ちる。

 久しぶりに夢を見た。俺はどこかの建物の屋上にいる。過去の記憶は無いが、漠然とした懐かしさを感じたので、おそらく過去の記憶にあるものだろう。

 俺と同じ歳ぐらいの男子が、柵にもたれて下を見ている。俺も手すりにもたれて下を見てみた。下で小さい子供が数人、遊んでいる。保育施設だろうか? だが、隣にいる男子は園児には見えない。俺は隣を見て驚く。隣にいたのは俺だ。

「搭屋」

 と誰かが俺の名前を呼んだ。俺は振り返った。そこにいるのは、俺と同じ年ぐらいの女子だ。その女子を見て俺は再び驚く。女子と天堂真衣の面差しが似ていたからだ。隣にいる俺は振り向かずに聞く。

「誰だ?」

 それを聞いた女子は片方の頬を膨らませた。

「もう、トーヤの意地悪。私だよ」

「…真奈か」

 と隣にいる俺は言った。女子は「うん」と頷いて俺たちの間に入ってきた。

「搭屋。聞きたいことがあるんだけど……。いい?」

「……何だ?」

 少しの間だけ沈黙が続いた。もう一人の俺は女子が話すのを待つ。女子は体を揺らし、口を開いたり閉じたりして、やっと言う。

「搭屋は――」

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