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07

 風間君と朝井先輩が出て行った後、私は日野先輩に最初だけ仕事を教えてもらい、今は一人で作業をしています。今やっているのは、今年度の部活の予算配分を調整する仕事です。私は初めてなので、過去のデータを参考にしながらやっています。

「マーちゃん、熱心だねー。……トーヤ君のこと気にならないのー?」

 鈴原さんが言った言葉に、私は手を滑らして間違ったキーを押してしまいました。

「な、なな何言ってるの鈴原さん!」

「あははは、マーちゃんカワイイー。ところで、マーちゃん。トーヤ君と仲直りできて良かったねー」

 いきなり話が変わったので、私はキョトンとしてしまいました。

「ほら、朝の屋上」

 と言われ、私は何を言われたのか分かりました。今日一日、いろいろあったのですっかり忘れていました。

「…うん」

 と私は返事をして仕事を再開しました。

(……でも、その先に進めないのが、ちょっとだけ残念かなー)

 なんて手を止めて考えると、後ろから両頬をつまんで引っ張られました。

「手が止まってるわよ。真衣ちゃん」

 日野先輩です。生徒会長らしくしていたと思ったら、子どもの様にちょっかいを出してきました。今日はこれで三度目です。

「ところで真衣ちゃん。搭屋君とはどこまで行ったの?デートはした?」

「か、会長も、いい加減にしてください!」

 と私は大声で言いました。すると、会長はニヤニヤと笑いながら言います。

「真衣ちゃんカワイイ」

 私は二人の質問から逃げるために、仕事を再開しました。でも、気になることがあったので手を止めます。

「…会長。風間君は朝井先輩と何をしてるんですか?」

「やっぱり気になるんだー?」

 と横から鈴原さんが言ってきましたが、私は無視して日野先輩の答えを待ちました。日野先輩はニコニコ笑いながら答えてくれます。

「風紀委員に入る手続きよ」

「……風紀、委員ですか?」

「そう。実は昨日から誘ってたのよ。……それにしても、恋人にまで隠し事なんて、風間君も奥手ね」

 と日野先輩に言われ、私は頬が熱くなるのを感じ、慌てて大声で言います。

「そ、そんな関係じゃありません!」

 それでも、二人はニコニコ笑いながら私に言います。

「「やっぱりカワイイ」ー」

(もうヤダ! 誰か、この状況を何とかして!!)

 と私は心の中で悲鳴を上げ、二人の質問やからかいから逃げるために作業を再開しました。……何だか先が思いやられます。


 完全下校時刻になり、俺は天堂真衣と鈴原葉菜の二人と一緒に校門を出ることになった。

「ねえ、トーヤ君。マーちゃんのこと、どう思ってるのー?」

 と鈴原葉菜がいきなり聞いてきた。

「ちょっと! 鈴原さん!!」

 鈴原葉菜の質問を聞いて俺の代わりに反応したのは、質問中にあった天堂真衣だった。

「えーっ? でも、マーちゃんは、気にならないのー?」

 そう鈴原葉菜に質問された天堂真衣は、顔を赤くして口をもごもごと動かす。

(いったい、何なんだ?)

 そう思いながら、俺はロッカーから靴を取り出して上靴から履き替える。

「ねえ、どうなのー?」

 鈴原葉菜に問い詰められ、天堂真衣の顔が赤みを増した。

「そ、それは、気になるけど……」

 何か言ったようだが、後半部分が聞き取れなかった。

「ねえ、トーヤ君。マーちゃんのこと、どう思ってるのー?」

 再び同じ質問され、俺は少し考えてから答える。

「普通に、いいヤツだと思う。最初に怒鳴られたのは、困ったけどな」

 それを聞いた二人は、肩を落とした。鈴原葉菜は大きく溜め息をつき、天堂真衣は引き攣った笑顔を顔に浮かべている。それを見た俺は、何も考えずに天堂真衣と鈴原葉菜の二人に質問した。

「どうしたんだ?二人とも」

 すると、鈴原葉菜は力無く俺に答える。

「…トーヤ君、今のは無いよ」

「何がだ?」

 本当にわからないので聞き返してみると、鈴原葉菜は再び溜め息をついた。

「……風間君。根に持ってたんだ?」

 今度は、天堂真衣だった。何も考えずに言ったのがまずかったらしい。それに気がついた俺は、肩をすくめて天堂真衣に言う。

「…根に持ってない。ただ、怒鳴られた時は困った。それだけだ」

 天堂真衣の顔から引き攣った笑みは消え、その代わりに苦笑が浮かび上がる。どうやら、誤解は解けたらしい。

「……トーヤ君って案外、唐変木なんだね」

 鈴原葉菜が意味不明なことを言ったが、俺は特に追及せずに昇降口を出た。後から二人がついて来るのを、足音で認識する。

 校門を出たところで、俺は振り返って天堂真衣と鈴原葉菜の二人に言う。

「明日、学校でな」

 そう言うと、二人からそれぞれの返事が返ってくる。

「うん、またね」

「また明日ー」

 俺は早足で歩き、角のところで後を振り返った。二人が話をしながら、俺と逆方向へ歩いて行くのが見える。角を曲がると、昨日と同じように車が止まっていた。

 注意深く周囲を見回し、俺は近づいて行って車に乗り込んだ。すぐにエンジンがかかり、車が出発する。行き先は、昨日と同じ軍の訓練場だ。

(風紀委員に入ったことを、大佐にも報告しておくべきだよな)

 そう思ったが、通信だと中川中尉に聞かれる可能性があった。なので、メールにする。

〈報告:風紀委員に入ることになりました。なので、学校に滞在する時間が長くなります〉

 頭の中で考えた文面がコンタクトディスプレイに浮かび、俺は送信するように心意コマ

ンドを出した。メールが大佐宛に送られる。

(……これで、訓練後に大佐から連絡があるはずだ)


 ――キーンコーン、カーンコーン

 チャイムが鳴って授業が終わったので、俺は授業の教科書やノートをバッグにさっさと片付けて教室を出た。階段を上り、ドアを開けて屋上に出る。屋上は基本的に開放されているが、あまり生徒は来ない。俺は桜の木の下まで行って木に背中を預け、バッグを横に置いて座り込んだ。

「…何なんだろうな……」

 と俺は呟きながら目を閉じた。これには理由がある。俺は屋上にいるとなぜか落ち着き、それと同時に何かの感情を感じる。それは朧気で何なのか分からなかった。もしかしたら、過去の記憶に関係しているのかもしれない。

「まっ、いいか……。気にしていても仕方ない」

 と俺は言って、瞼を閉じて寝ようとした。そこに、イヤホンからザッとノイズのような音がする。通信端末に通信が入った音だ。通信端末のディスプレイを確認すると、朝井翔太の名前が表示されている。

「はい、風間です」

『風間、どこにいる。今すぐ部屋に来い』

 風紀委員の活動は、基本的に各自で巡回することだ。だから、報告以外で部屋に行くことはない。なので、何かあったと考えるのが普通だ。

「…何かあったんですか?」

『昨日、終礼が終わったら来るように言っていたはずだが?』

 と朝井翔太の言葉を聞き、俺は昨日のことを思い出してみる。確かに言われていた。いつもの習慣と、自分の思考に入り込んでいたせいで忘れていた。

「すみません、すぐに行きます」

『急ぐように』

 通信が切れ、俺も通信を切った。俺は立ち上がりバッグを持ち、部屋に向かった。風紀委員に入って一週間が経つ。だが、神谷が動く様子は無かった。俺が屋上に行くようになった以外、特に変わったことは何も無いのが現状だ。

(だが、油断はできないな……)

 ここ最近のことを思い出していると、部屋の前に到着した。俺はバッグから腕章を取り出して黒い箱のような機械に翳す。機械音と鍵が開く音がしたので、ドアを開けて中に入る。すると、生徒会と風紀委員のメンバーが全員いた。

「ようやく集まったな。今から会議を始める」

 と朝井翔太は言い、俺たち全員を見回した。

「知っての通り、今日から十日間は部活勧誘の期間となっている。この時期は風紀が乱れ

やすくなる。よって――」

「だから、生徒会も協力して校内の風紀を守るの。よろしくね」

 と朝井翔太の話の途中に、朝井翔太の隣にいる日野沙織が割り込んだ。朝井翔太は咳払いをし、日野沙織を睨みつけた。それを日野沙織は小さく舌を出し、笑って受け流す。

「……そういうことだ。巡回はペアで行ってもらう。組み合わせは今から言う通りにして

くれ」

 生徒会は四人、風紀委員と合わせて十一人になる。巡回をペアで行うということは、五組ができて一人だけ余ってしまうわけだ。俺としては、どう配分するのかが気になる。

「まず、鈴原と天堂。二人には生徒会のコンピューターで、巡回組みをサポートしてもらう。伊藤は二人のフォローを頼む」

(なるほど、監視カメラで校内を監視するわけか……。それに、オペレーターを置くことで、素早く対処できるようにしたんだな)

 天堂真衣と鈴原葉奈をフォローするように頼まれたのは、生徒会のもう一人の副会長だ。フルネームは伊藤志穂、髪は長く眼鏡をかけている女子生徒だ。学年は二年生。

「巡回組は、金岡と宮塚、村瀬と日野、沢口と風間、小田と僕だ」

 俺とペアを組むのは風紀委員会の副委員長こと、爽やかな笑顔が特徴の沢口智也だ。

「さっそくだが、ペアごとに巡回に行ってくれ。担当するエリアの地図は通信端末に送っ

ておいた」

 朝井翔太の指示に従い、俺たちは部屋を出てそれぞれのエリアに向かった。別に急ぐことも無く、普通に歩いての移動だ。

「風間君、よろしく頼むよ」

「こちらこそ、よろしくお願いします。副委員長」

 と言葉を交わした後、沢口智也は通信端末を操作してディスプレイを俺に見せた。

「これから僕たちが巡回するエリアは、体育館と部活棟があるから部活勧誘が激しいんだ。特に体育館前や部活棟、B館の裏は特にね」

「わかりました」

 それ以外にも、沢口智也からいろいろと巡回で注意する点について聞いているとエリアに到着した。体育館前では、生徒たちでごった返している。

「…あれは危険だな。風間君、止めに入るよ」

 と言って、沢口智也は生徒の群れに向かって走り出した。俺も少し遅れて走り出す。沢口智也は生徒の群れに腕を突っ込み、掻き分けて埋もれていた新入生を助け出した。

 俺も周囲の生徒を適当に掴んで引き剥がす。が、生徒は二十人近くいるので引き剥がしてももとに戻るからきりが無い。

「風間君、ブザーを使え」

 沢口智也からの指示を聞き、俺は通信端末を操作してブザーのツールを呼び出した。そして、ディスプレイに表示されたスイッチを押す。

 ――ビイィィイッ!

 耳障りな音が響いて生徒たちは耳を塞いで動きを止めた。その様子を確認し、俺はブザーを停止させる。

「おい、……何だよお前? いきなりデカイ音を出しやがって」

 と一人の男子生徒が言い、俺の着ているブレザーの襟を掴んできた。男子生徒の顔を見ると、明らかに不機嫌な色がにじみ出ている。

「風紀委員です。ケガ人の出る可能性があったので、止めに入らせてもらいました」

「あ?風紀委員?」

 と俺の説明を聞いた男子生徒が言い、ブレザーの襟を掴む手に力をこめた。

「やめておいた方がいいよ」

 とキレかかった男子生徒に声をかける人物がいた。爽やかな笑顔がトレードマークの沢口智也だ。沢口智也は続ける。

「ここで暴力を振るえば、よくて自宅謹慎。悪くて退学だよ」

 顔は笑っているが、声はいつもよりトーンが低い。そのせいか、沢口智也から感じる威圧は大きかった。沢口智也は近づいて来て、男子生徒の手首を掴んだ。男子生徒はダラダラと冷や汗をかき始めている。

「勧誘どこじゃなくなるし、何よりも君のためだよ。だから、彼から手を放してくれないかな? でないと、余計な罰則が増えるだけだよ?」

 沢口智也が言い終えても男子生徒はブレザーの襟を掴んでいた。

「手を放してくれないかな?」

 沢口智也が再び言って、ようやく男子生徒はようやく手を放した。

「理解してくれて嬉しいよ。こんな事で、この学校の生徒数を減らしたくないからね」

「……調子にのるんじゃねぇぞ風紀委員。俺には神谷先輩がいるんだ。後で後悔すのは、お前らだ」

 神谷裕一の名前が出た。どうやら、この男子生徒は神谷裕一の仲間らしい。

 だったら、他の生徒たちは風紀委員の腕章を見ておとなしくなっているのに、この男子生徒だけが風紀委員に突っかかってくる理由も説明がつく。神谷裕一という後ろ盾がいるから、強気でいられるんだ。

「さて、皆さん。部活勧誘もいいですが、ケガ人が出ないようにしてください。もしケガ人が出た場合、三日間の謹慎になってしまいます。なので、もう少し慎重に部活勧誘をしてください」

 と沢口智也は男子生徒を無視し、周囲の生徒たちに呼びかけた。その様子を見た男子生徒が、歯軋りをして沢口智也に飛びかかる。

「このクソが!」

 その瞬間、男子生徒は地面に叩きつけられた。

「…カウンターか……」

 と俺は呟いた。さっきの沢口智也の技。飛びかかってきた男子生徒の勢いを利用し、男子生徒を叩きつけるカウンター技だ。相手と接触する瞬間に回転扉のように回転し、相手の背中を軽く押した。それだけの行動だが、勢いがついている分、バランスを崩して倒れた相手のダメージは大きい。

「君を校則違反で逮捕する。キミには部屋で、色々と聞かせてもらうよ」

 周囲の生徒たちが何も言えずに見ている中、沢口智也は男子生徒に手錠をかけた。そして、風紀委員の部屋に連行して行く。

「あっ、風間君は引き続き巡回を頼むよ」

 と思い出したように振り返り、沢口智也は俺に言った。

「了解です」

 と俺は答え、周囲を見回して気がついた。生徒たちの視線が、すべて俺に集まっている。目の前であれだけのことがあったから無理も無いだろう。

「…とりあえず、ケガ人だ出ないように気をつけてください」

 と俺は言い残し、そこから離れた。背中に多数の視線が突き刺さっていたのは、言うまでも無いだろう。ザッと通信端末のイヤホンにノイズのような音が入った。通信端末のディスプレイに本部の文字が表示されている。

『か、風間君! 部活棟の方でトラブル発生! 女の子たちが男子生徒にナンパされてる! 急いで!』

 天堂真衣の声が聞こえてきた。俺は通信端末で部活棟の位置を確認する。

「了解。人数は?」

 と俺は聞きながら部活棟の方へと走り出した。

『女子生徒が二人。男子生徒が三人です』

『えーっとね。リストを確認したんだけど、神谷先輩のお仲間みたいだよー』

 伊藤志穂、鈴原葉菜の順番に声が聞こえてきた。それだけ聞くことができれば十分だ。俺は走るスピードを上げた。部活棟は体育館の角を曲がって十メートルぐらいの場所にある。

『トーヤ君、走るの速いねー』

 力の抜けるような、のんびりとした鈴原葉菜の声が聞こえた。つい俺は鈴原葉菜に言ってしまう。

「…鈴原、力が抜けるから喋るな」

『えーっ!?』

 鈴原葉菜から抗議の声があったが無視した。体育館の角を曲がって部活棟が見える。この部活棟には、およそ二十の文化部の部室がある。

『場所は部活棟の中じゃなくて、裏の方。右に曲がった方が早いかも』

 天堂真衣の指示を聞いた俺は、部活棟の前で右に曲がって部活棟の横に回り込んだ。角から覗き込んで様子を確認する。

「さて、「神谷さんが女が欲しい」って言ってるんだ。まあ、嫌だと言ってもダメだぜ。無理矢理連れて行くからな」

 男子生徒三人が女子生徒二人を囲み、逃げられないようしている。

「や、やめてください!」

「ふ、風紀委員が、来ますよ!」

 女子生徒たちは震えながら、男子生徒三人を見て言った。それを聞いた男子生徒3人は笑い声を上げる。

「風紀委員? それがどうした?」

「そんなの怖くねーよ」

「俺たちには、これがあるからな」

 と口々に男子生徒三人は言い、ブレザーの袖から何かを取り出した。

「もし風紀委員が来たら、これで切り刻んでやるよ」

 その言葉で、俺は朝井翔太に見せられた画像を思い出した。

(例の軍事用兵器か……。厄介だな)

 俺はどうするかを考えた。この前、天堂真衣を助けた時は相手が持っていたのは、ただの特殊警棒だ。だが、今回は違う。相手が持っているのは軍事用兵器。

 どんな機能があるのか分からない上に、それを持っているのが三人、うかつな行動はできない。俺は自分の腕を見た。

(……これを使うか? …いや、ここで使うほどのことじゃない。……なら)

 俺は通信端末に手を伸ばし、通信をONにした。

「……天堂、聞こえるか?」

『き、聞こえるよ風間君。何?』

「三秒、数えてくれ」

『えっ?』

 と天堂真衣は聞き返してきた。まあ、事情を説明するのは後でもいいので、俺は通信端末を操作し、あるツールを呼び出す。

「頼む。3秒、数えてくれ」

『う、うん。3、2、1』

 ディスプレイに親指で触れた。

『0』

 通信端末を投げた。通信端末は大きな音をだし、回転しながら男子生徒三人の頭上を飛んで行く。男子生徒三人は驚いて周囲を見回した。

「なっ、何だ!?」

 俺は角から飛び出し、全速力で男子生徒たちに近づく。まず、目の前にいる男子生徒の顎を右足で蹴り上げた。

「がっ…」

 続いて女子生徒二人の腕を掴み、俺の背中側へと逃がした。

「風紀委員だ。この三人は逮捕するが、とりあえず逃げろ」

「こっ、この!」

 と言いながら、男子生徒の一人が手に持っていた何かを構えた。刀だ。ただし、時代劇に出て来るような侍が持っているような刀じゃない。ヒーローショーのヒーローが持っているような刀だ。

 男子生徒が刀についたスイッチを押そうとしたので、俺は男子生徒の手首に回し蹴りを放った。男子生徒は持っていた刀を落とし、痛みが走っているらしい手首を、もう片方の手で掴む。

「てめっ!」 

 息をつく暇も無く、もう一人の男子生徒が俺に斬りかかってきた。俺は半身になってそ

れを避け、男子生徒の鳩尾に左の拳を叩き込んだ。

「ぐっ……」

 男子生徒は膝から崩れるようにして倒れた。それを確認し、俺は通信端末を拾い上げて通信をONにする。

「制圧完了です。委員長たちに連絡を頼みます」

『わかりました。すぐに連絡を取るので待機してください』

 伊藤志穂が応じてくれたので、俺は手錠を取り出して三人にかけた。

「あっ、あの」

 後から声をかけられたので振り向くと、女子生徒が二人いた。なぜか二人とも、僅かに頬が赤く染まっている。

「助けてくれてありがとうございます」

 どうやら、さっき逃がした女子生徒たちらしい。

「風紀委員の仕事だから、礼を言われるようなことじゃない。だから気にしなくていい」

 と俺が言うと、二人は顔を見合わせた。それから、再び俺を見て聞いてくる。

「あなたの名前、教えてもらってもいい?」

「風間塔屋」

 俺の答えを聞くと、女子生徒二人は走って行ってしまった。

「何だったんだ?」

 と俺は呟いてから、三人の持っていた軍事用兵器を回収した。

『トーヤ君、モテモテだねー』

「そうか?」

 俺は通信端末の通信をONにし、鈴原葉菜に聞き返した。

『うん。さっきの女の子たち、きっとトーヤ君に一目惚れしちゃったんだよー。さっきのトーヤ君、まるでテレビに出てくるヒーローみたいだったし』

「……それは言いすぎだ。俺なんか大したことない」

 と俺は感想を言ってくる鈴原葉菜に返し、男子生徒三人の様子を見た。気絶していない1人だけが俺を睨み付けている。

「……まあ、自業自得だ。あきらめた方がいい」

 と俺が言うと、男子生徒の俺を睨む目が鋭くなった。それを俺は無視しながら男子生徒三人が持っていた軍事用兵器に目線を移した。

『解析を開始します』

 とイヤホンから音声が聞こえてきた(通信端と軍のイヤホンを接続して使っている)。

『解析完了。分子ブレードです』

 コンタクトディスプレイに、分子ブレードの情報が映し出された。分子ブレードとは、分子レベルの炭素を小さな刃の形状にし、チェーンソーのように動かす武器らしい。簡単に言うと、ダイヤモンドを刃の部分に使ったチェーンソーだ。

『該当する製品はありません』

 音声を聞いた俺は不思議に思った。

(該当する製品が無い? ……となると、試験段階の武器なのか?)

 コンタクトディスプレイに、過去に作られた分子ブレードが表示される。どれを見ても刀の柄が太いし、似たような形状の製品が全く無い。

(これは、倉敷博士に相談した方がいいな)

 と俺が考えていると、何人かが走ってくる音がした。俺は分子ブレードの一本を、ブレザーの袖の中に隠し、後ろを振り向いた。すると、朝井翔太と沢口智也、日野沙織の三人が部活棟の陰から現れる。

「搭屋君、大丈夫!? ケガはない!?」

 と日野沙織が大慌てで俺に聞いてきた。

「ありません。それより、この三人を連行し、これをどうやて手に入れたのか聞き出さないといけません」

 と俺は言いながら、持っている二本の分子ブレードを三人に見せた。すると、朝井翔太が近づいてきて俺に聞いてくる。

「もう一本はどうしたんだ?」

 人数と武器の数が一致していないことに気がついたらしい。さすが裏の人間だけある。

「何の事ですか?」

 と俺は誤魔化そうとしたが、朝井翔太は俺のブレザーの袖を指でつっついてきた。分子ブレードの入っている方の袖だ。そうやら、誤魔化しは利かないらしい。

「すみません。俺の知り合いに、こういう物に詳しい人がいるんです。だから、勝手に持ち帰ろうかと思ったんです」

 朝井翔太は考えるそぶりを見せ、沢口智也の方を見た。すると、沢口智也は頷く。朝井翔太は溜め息をついて俺の方を見た。

「……いいだろう。持ち出しを許可する。ただし、何か分かったら報告するように」

 と許可をだし、俺の横を通り過ぎて行った。俺が後を振り向くと、すでに俺が手錠をかけた男子生徒の一人を掴んでいる。

「それじゃ、風間君。残りの二人を連行するから、君は巡回を続けて」

 と沢口智也は言いながら俺の横を通り過ぎ、二人の男子生徒を掴んだ。

「搭屋君、手に持っているそれ、私が持って行くから。はい」

 と言って日野沙織は俺に手を開いて差し出してくる。俺は日野沙織に二本の分子ブレードを渡した。

「できるだけ早く報告してね。神谷も黙ってないだろうから。待って二人ともー」

 と俺に言って、日野沙織は二人のあとを追いかけて行った。俺はブレザーの袖に隠している分子ブレードを取り出し、電源を入れずに振り回してみた。ヒュンッ、ヒュンッと分子ブレードの刃が空を切る音がする。

(使い勝手はいいな…)

 と俺はなんとなく思った。おそらく、過去の記憶で戦争を経験しているからだろう。俺は分子ブレードをブレザーの袖に入れ、巡回を再開した。

(これからの十日間は忙しくなるな……)

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