09
部活勧誘期間七日目、私は生徒会室でオペレーターをしていました。
「風間君、B館三階でトラブルが発生、急いで」
と私はマイクの電源を入れ、風間君に通信を入れました。
『分かった。すぐに向かう』
と風間君の答えが返ってきました。私はモニターを見ながら、トラブルの起こった状況を見続けます。すると、トラブルを起こしていた生徒たちが、逃げるように走って行きました。私は急いで風間君に再び通信を入れます。
「風間君! トラブル消失!」
『……例のか? とりあえず、現場を確認しに行く。場所を詳しく教えてくれ』
私は、風間君に教えるかどうか戸惑ってしまいます。
「B館三階の東階段付近だよー」
と鈴原さんが私の代わりに、風間君に答えました。
『了解。B館三階に到着』
風間君が画面の端に現れました。そして、トラブルの起こっていた場所を、スライディングで一気に通り抜けます。
「風間君!?」
と伊藤先輩が驚き、大きな声を出しまた。
『……音だ』
「「えっ?」」
風間君の言葉に、私たち三人は聞き返してしまいました。
『マイクでは拾えない音。おそらく、脳に直接的に作用するものだな』
「と、トーヤ君。もしかして……」
「それが、金岡先輩と村瀬先輩が倒れた原因?」
鈴原さんと私は風間君に聞き返しました。
『そういう事になるな……』
と風間君は疲労の混じった声で答えてくれました。
「で、でも、どうやって調べたの?」
と伊藤先輩が風間君に質問しました。
『簡単ですよ。原因が何か見当をつけて、片方の耳に耳栓をしてスライディングで通過する。その時に、耳栓をしていない方の耳に違和感があったんです』
風間君の説明を聞いて私も納得しました。
「そっ、そう」
伊藤先輩の顔が気のせいか青ざめているような気がします。
『音を聞いてしまったので、俺はここで少し休みます。天堂と鈴原は皆に連絡を頼む』
風間君との通信が切れました。私と鈴原さんはキーボードを叩き、全部の通信端末と通信を行います。
「小田先輩と朝井先輩、原因がわかりました」
「さっちゃん先輩、原因がわかりましたー」
連絡はすぐに回すことができました。これで、もう誰かが倒れることはありません。
「……早急に回収して」
伊藤先輩が何か呟きましたが、何を呟いたのかは聞き取れませんでした。でも、伊藤先輩はなんだか慌てているみたいです。
「伊藤先輩、どうかしたんですか?」
と私が聞くと、伊藤先輩の肩がビクンと震えました。
「なっ、何でも無いわ。ただ、手口が分かったから嬉しいの。これで、神谷先輩たちを捕まえることが、できるかもしないでしょ? それだけだから…」
そして、伊藤先輩はキーボードを叩き始めました。私もキーボードを叩き、カメラの映像を切り替えます。
「音を聞いてしまったので、俺はここで少し休みます。天堂と鈴原は皆に連絡を頼む」
と俺は言って通信を切り、壁にもたれて座りこんだ(音を聞いた平衡感覚が狂って、立ってることができない)。ここは階段の前だ。廊下を歩いている人間からは死角になる。俺は座ったまま廊下を覗き込んだ。
(小さいが見えないことは無いな。けど、立っている人間には見えないな)
小さい機械が廊下の隅に置いてある。目線を低くしなければ見えない大きさだ。コンタクトディスプレイが起動し、音声が聞こえてくる。
『空気の振動を探知します』
音は空気の振動で聞こえる。なら、空気の振動を探知すれば、機械の場所と性質、個数を知ることができるはずだ。
『探知しました。観測モードに変更します』
音声が聞こえ、徐々に校舎の色が白黒に変わっていった。そして、コンタクトディスプレイに水色の波紋が浮かび上がる。
(一、二、三、四個か……)
機械は全部で四個あった。正方形になるように設置されている。
(事前に設置しておくタイプのトラップか…)
事前にトラップを設置しておき、逃げ道を確保してからトラブルを起こす。自分たちがトラップにかかる訳にはいかないから、おそらくリモコンか何かで起動させたんだろう。
(……問題は、どのタイミングで、どこから起動させたかだな)
俺は疑問を浮かべる。まず、タイミングだ。風紀委員以外の生徒がトラップにかかっていないことと、朝井翔太から聞いた話から考えると、風紀委員が現場についてすぐか着く直前のはずだ。
(だとしたら、どこから起動させたんだ?)
ここから隠れて覗いていたとしても、すぐに見つかってしまう。それに、宮塚源と沢口智也は挟み撃ちをしようとし、トラップにかかったらしい。それに、カメラの設置されている場所の近くにいる可能性は、ほとんど無いと言ってもいい。正直、八方詰まりだ。
(……カメラのある場所でトラブルを起こし、逃走する。……カメラ?)
俺は引っ掛かりを感じ、設置されているカメラを見た。
(何で、わざわざカメラのある場所でトラブルを起こしたんだ。それに、確実にカメラの映像を生徒会室の人間が見るタイミングで)
カメラのある場所でトラブルを起こしたのは、風紀委員をトラップに引っ掛けるためだというのは理解できる。だが、生徒会室の人間がカメラの映像を見るタイミングは分からないはずだ。
(どうやって、そのタイミングを知ったんだ?見ている三人にしか分からないはず……。まさかな…)
『電波を探知します。探知しました。観測モードに切り替えます』
コンタクトディスプレイの表示が変わり、俺の推測が確信へと変わった。
(やっぱり、そういうことか……)
白黒の風景に、紫色の波紋が浮かび上がっている。波紋はカメラと重なっていた。カメラが電波の発信装置らしい。ここから確信できるのは、生徒会室に、神谷裕一の協力者がいるということだ。
まず、風紀委員が来るタイミングと周囲の生徒がいないことを知り、機械を起動させる。そして、三人が見ている映像を知ることができるのは、やはり生徒会室にいる三人だけだ。
(生徒会室にいるのは三人、天堂真衣は省くから二人だな。この二人のどっちかが神谷裕一の協力者だ。……どっちだ)
そんなことを考えていると、カメラから発せられていた電波が急に途切れた。目に映る情景が白黒からカラーへと戻る。
(何だ…?)
俺は不思議に思ってカメラを見ていると、背後から何かが来ることを、例の微量の電気が流れるような感覚で感じた。とっさに俺は横に転がる。遅れてギンッという金属音が響いた。
俺は起き上がり、さっきまで自分がいた場所を見てみると、分子ブレードが防火扉に突き刺さっていた。分子ブレードを持っているのは、うちの生徒ではなくヘルメットを着けた大人だ。
――ピーッ、ピーッ
『通信が入りました。通信回線を開きます』
と音声が聞こえ、通信回線が開いた。
『風間特尉、聞こえるか?』
大佐の声だ。俺は男の斬撃を避けながら答える。
「すみません大佐、後にしてもらえませんか? 今、敵と交戦中なんです」
正直、大佐と話しながら戦闘を行うのは無理がある。
『緊急の用件だ』
と大佐に言われ、俺は斬撃を避けて溜め息をついてから言う。
「…分かりました。10秒、待って、ください」
男は斬撃を連続で放ってくる。それを全てギリギリで避けながら、俺は心意コマンドを出した。
(偽装解除。起動)
心意コマンドに応じて光を放って両腕のカモフラージュが解け、兵器が姿を現した。手の甲にあるクリスタルに光が灯った。
『稼働状況を確認。全て正常です。エネルギー充填を開始します』
音声が聞こえたと同時に、クリスタルに灯る光の輝きが増した。
『エネルギー充填率100パーセント。出力10パーセント』
俺は斬りかかってくる男に、タイミングを合わせて右手の掌底を打ち込んだ。掌底が打ち込まれるのと同時に、床が僅かに揺れたのを感じる。
「ん、うーん」
私は唸り声を上げながら目を覚ましました。でも、目の前は暗くてよく見えません。
「あら、気がついたみたいね」
と女の人の声が聞こえてきました。聞き覚えのある声です。
「天堂さん。あなたには悪いけど、人質になってもらったわ」
だんだん暗闇に目が慣れてきて、輪郭が浮かび上がりました。
「待て。そこからは僕が話そう。お前は邪魔だ。どけ」
と男の人の声が聞こえてきました。こちらの声も聴き覚えがあります。誰かが近づいてきて、私の前で立ち止まりました。ガシャンと音を立て光が射し込みます。急に明るくなり、私は暗闇に慣れかけていた目を細めてしまいます。
「さてと、どこから話そうか」
ようやく眩しさに目が慣れ、周囲を見ることができるようになりました。
「か、神谷先輩! それに、伊藤先輩!」
目の前にいた人物が神谷先輩で、そこから少し離れた場所に伊藤先輩が立っていました。
「伊藤先輩、どうして……?」
私は、まだ伊藤先輩が神谷先輩の仲間だということが信じられません。
「〈どうして?〉ね……。まあ、簡単な話なの。私の家が神谷財団の傘下にあるからよ」
それを聞いた私は、神谷先輩を見ます。そして、次に周囲を見回しました。ここは、どこかの建物みたいです。少なくとも学校ではありません。
「天堂さん。だいたい十日ぶりぐらいかな? 久しぶりだね」
私は逃げようとしました。でも、動けません。手首がロープで縛られ、柱にくくりつけられているからです。
「…私に、何をするつもりですか?」
と私が強気を装って聞くと、神谷先輩は笑いながら答えてくれます。
「いや、君に用は無いんだよ。用があるのは、君を助けた彼の方でね。確か、名前は風間塔屋だったかな?」
神谷先輩は私に近づき、私の顔を覗き込んできました。先日と同じように、私の顎に手をやって自分の方を向かせます。
「まあ、君の相手をするは、その用が終わってからだ」
と言いながら目を細め、神谷は笑みを深めました。それを見た瞬間、私の背中に寒気に似た何かが走ります。
「……あの風間塔屋という男子生徒、そこらの風紀委員とは何かが違う。だから、僕たちは彼が欲しくなったんだ。彼がいれば僕は政府を動かせる。そうすれば、何もかもが思いのままだ」
と神谷先輩は言って、私の顎から手を放しました。
「神谷。その前に、やるべき事があるでしょう? あの高校に隠された機密文書の回収」
と伊藤先輩が、神谷を注意しました。神谷はつまらなさそうな顔をし、伊藤先輩を見て機嫌の悪い声で言います。
「…分かっているさ。君は、補佐官の分際で口うるさいぞ。僕を誰だと思っているんだ? 神谷財団の後継者だぞ」
伊藤先輩は肩をすくめます。神谷先輩は鼻で笑って右手を上げました。
「周りを見てみるといい」
神谷先輩に言われた通り、私は周りを見てみます。すると、周りには数十人の人間がいました。いるのは、うちの男子生徒だけではなく大人もいます。
「ここにいるのは全て僕の手下たちだ。全員、例の軍事用兵器を持っている。逃げようと思っても無駄だよ」
私は周囲を見回した後、再び目の前に立っている神谷先輩を見ました。そして、恐怖を感じながら神谷先輩に聞きます。
「……何を、するつもりですか?」
「うん。いい顔だ。ただの歓迎会だよ。彼は賓客だから、それなりの対応をしないとダメだろ?」
言い終えた後、神谷先輩の表情が急に険しくなりました。
「……それに、この僕に手を上げた。彼は僕の部下になるんだ。僕に手を上げると、どうなるかを教えないとね。……八つ裂きにしないと気が済まないんだよ!」
神谷先輩の怒気に気圧され、私は動けなくなってしまいました。
「君は、ここで彼が八つ裂きになるのを見ているといい。観客がいた方が盛り上がるだろ?」
と言って伊藤先輩の方へと歩いて行きました。伊藤先輩が黒い物体を取り出し、触り始めます。
「…あら、やっぱり勝っちゃったのね。………場所を教えて欲しいの?どうしようかしら
伊藤先輩が、笑顔で誰かと話すように喋っています。
(……無線か何かなの? だとしたら、伊藤先輩は誰と話してるの?)
通信を終えたらしい伊藤先輩は、生徒会室では見たことのない笑顔を見せました。
「今、風間君と話していたの。……風間君、あなたを助けに来るって」
私の動かなかった体が、風間君の名前を聞いて動くようになりました。
「やめて! 何で風間君を狙うの!?」
と私が大声で聞くと、伊藤先輩は首を傾げて答えます。
「「何で」? 言ったでしょ。優秀な彼が私たちは欲しいの」
伊藤先輩の声と表情に、私は口を閉じそうになってしまいます。でも、なんとか大声を出しました。
「助けて! 監禁されてるんです! 誰か!!」
もしかしたら、私の声を聞いた誰かが助けに来てくれるかもしれない。そんな希望を持ち、私は大声で助けを呼びます。伊藤先輩の顔から表情が消えました。
「…うるさいわね。誰か、黙らせて」
伊藤先輩の命令を聞き、一人の男の人が私に近づいてきました。男の人は、私の口を片手で塞ぎます。
「んー! んんー!!」
私が口を塞がれても大声を出し続けていると、いきなり体に衝撃が走りました。そして、意識が沈んでいきます。
「しばらく眠っていなさい。王子様が来たら起こしてあげるわ」
その言葉を聞いたのを最後に、私の意識は深い闇の中に完全に沈みきました。
(……風間君、来ないで…)
俺は男に掌底で一撃を与えて気絶させた。その気絶させた男は、階段の踊り場に転がっている。ちなみに、両腕の兵器は再びカモフラージュしてある。
「終わりました。どうぞ」
『…10秒ジャストか。さすがだな』
と大佐は俺を褒めたが、俺は何も言わずに大佐が話すのを聞く。
『実は、相手の組織名が判明した。〈レジスト・ジャック〉だ。神谷という男子生徒は、そこに財布として利用されているだけのようだな。それと、神谷とは別に組織の協力者がいた。名前は――』
大佐が言う前に、その人物の名前を言う。
「伊藤志穂、ですか?」
『そうだ。…知っていたのか?』
と大佐がコンタクトディスプレイ越しに聞いてきたので、俺は説明する。
「半分は勘で、残りは情報を統合して推測したものです。リモコン操作とトラップ起動のタイミング。……カメラの映像を見ている人間にしかできません。そして、カメラの映像を見れるのは生徒会室だけ。だとすると、生徒会室にいた三人の中の誰かになります。そう考えると、天堂真衣を除外した二人のどちらかになる。まあ、最終的に選んだのは勘ですけど」
すると、大佐は黙り込んでしまった。
「それより、〈レジスト・ジャック〉が潜伏場所は?」
『分かっていない。……とりあえず、護衛対象の保護に向かってくれ』
と大佐は俺に命令し、通信を切った。大佐の姿がコンタクトディスプレイから消える。俺は命令通り、天堂真衣を保護するために生徒会室に向かう。
(生徒会室に連絡を取ってから十分は経っている。……何も無ければいいんだが)
生徒会の前に到着し、腕章を外して機械に翳した。ロックが解除され、ドアを開けて中に入る。生徒会室には誰もいなかった。
(……やっぱりな)
と俺は思いながら生徒会室を見回しながら歩いた。何か痕跡が無いか探していると、何かに足が当たった。足元を見てみる。
「……ん、んー」
足元に鈴原葉菜がいた。どうやら気絶させられたらしい。俺はしゃがみこみ、外傷が無いかを確認する。
(目立った外傷が無いから、放っておいても大丈夫だな)
と俺は考えながら、鈴原葉菜の手に目を留めた。手に何かを握っている。鈴原葉菜の手首を掴み、顔の高さまで持ち上げる。
『スキャンします』
と音声が聞こえ、コンタクトディスプレイに情報が表示された。
「小型の通信機か…。こんな物を握らせるってことは、通信を入れるはずだな」
鈴原葉菜の手を開き、自分のブレザーのポケットに通信機を入れて立ち上がった。生徒会室を、見回して痕跡が無いかを確認する。
(さてと、特に痕跡は無いな……。となると、残るのは当事者の証言だけだな)
と俺は考え、鈴原葉菜を起こしにかかった。
「おい、鈴原。起きろ」
体を揺すっても、頬を叩いても鈴原葉菜は目を覚まさない。俺は溜め息をついた。
(起きないな……。よっぽど相手の腕がよかったんだな。…仕方が無い)
俺は通信端末を取り出し、ブザーツールを呼び出した。通信端末を鈴原葉菜の耳元まで持って行き、ブザーツールを起動させる。
――ビィイイイッ
「きゃっ!? 何ー!? 何なのー!?」
鈴原葉菜が間延びした悲鳴を上げ、目を覚ました。ブザーツールの効果は、そこらの目覚まし時計よりも絶大だ。俺はブザーを停止させる。
「あれ、マーちゃんは? それに、伊藤先輩とヘルメットを被った男の人たちは?」
と鈴原葉菜は言いながら、キョロキョロと周囲を見回した。
「…鈴原、おはよう」
「あっ、トーヤ君。オハヨー」
とマイペースに挨拶を返してきた鈴原に、俺は質問する。
「……何があったんだ?」
答えは期待していないが、何か情報が掴めるかもしれない。鈴原葉菜は後頭部をさすりながら悩み始めた。
「うーん、伊藤先輩の様子が変だったから、マーちゃんが伊藤先輩に話しかけたのー」
私が気絶する少し前なんだけど、頭が痛くて思い出しづらいから時間がかかるよー。いい? それじゃ、話し始めるねー。
トーヤ君との通信の後、伊藤先輩の顔色が悪かったんだー。それで、ブツブツ何か言ってるから、マーちゃんが心配して伊藤先輩に話しかけたのー。
「伊藤先輩、顔色が悪いですけど大丈夫ですか?」
そしたら、伊藤先輩がいきなり大声を出したんだー。
「いいから、すぐにここに来なさい! すぐよ! いい!?」
私もマーちゃんも、驚いて固まっちゃった。伊藤先輩が怒鳴るなんて初めてだったし、何を言ってるのかわからなかったから。
「い、伊藤先輩? どうしたんですかー?」
って私が聞くと、伊藤先輩はハッとした顔で私とマーちゃんの方を見たのー。
「……何でも無いわ。心配しないで」
って言って笑ったけど、伊藤先輩の大丈夫には思えなかったんだー。でも、言われた通りに気にしないようにしたのー。
それからパソコンでカメラの映像をチェックしてると、カメラに見慣れない格好をした人たちが映ったの。それで、皆に連絡しようとしたら、いきなりパソコンの電源が切れちゃった。それで、再起動させようとしたんだけど、できなくて伊藤先輩にヘルプを出したんだー。
「伊藤先輩、パソコンの電源が切れちゃいましたー。再起動できませんー。どうしたらいいですかー?」
でも、伊藤先輩は何もいってくれなかったんだー。それから少しして、マーちゃんの方のパソコンも電源が切れちゃったの。
「あっ……、こっちも電源が切れちゃいました」
それで、マーちゃんも伊藤先輩にヘルプを出したんだけど、やっぱり伊藤先輩は何も言ってくれなかったんだー。さすがにマイペースな私も不思議に思って、伊藤先輩に近づいて行って、パソコンの画面を覗こうとしたのー。
「見たらダメよ。鈴原さん」
って伊藤先輩に注意されて私が覗き込むのをやめたら、ドアがノックされたのー。
「あら、業者の人が来てくれたみたいね。天堂さん、ドアを開けてあげて」
伊藤先輩にお願いされて、マーちゃんがドアを開けに行ったのー。そしたら、ドアを開けた瞬間に、マーちゃんが生徒会室の外に引っ張り出されちゃったんだー。
「きゃっ! 何するの!? 放して! うっ……」
「マーちゃん!?」
マーちゃんの悲鳴が聞こえたから、ドアの方へ行こうとしたら誰かにブレザーの袖を掴まれたのー。
「あら、ダメよ。鈴原さん。あなたはここでお留守番してて」
伊藤先輩の声が聞こえたと思ったら、首にガンッて何かが当たって気絶しちゃったー。
「……なるほどな」
と鈴原から話を聞いた俺は頷いた。どうやら当身で気絶させられたらしい。外傷が無いのも納得できた。
「…トーヤ君、マーちゃんはどこに行ったの? 私、マーちゃんが心配だよー」
と鈴原葉菜が涙目で聞いてきたので、俺は肩をすくめるジェスチャーで返事をする。
(…パソコンが制圧されているとなると、通信端末も制圧されて使用は不可能だな)
と俺は迷うことなく判断した。こういう時は、感情が施行を邪魔しないので、感情が削り取られている方が都合がいい。
「……となると、全員に連絡を取る方法は一つだな。鈴原、頼みがある」
「えっ? 何?」
と俯いていた鈴原葉菜は、聞きながら俺の方を見た。
「放送室に行って、校内放送を流してくれ。委員長たちをここに集めるんだ」
と俺が言うと、鈴原は頷いて立ち上がった。
「分かったー。行ってくるー」
小走りで生徒会室を出て行く鈴原葉菜を見送り、俺は大佐に通信を行う。
『風間特尉か?護衛対象は保護できたのか?』
と通信が繋がって、すぐに大佐は俺に質問してきた。
「生徒会室は、もぬけの殻でした。小型の通信機が残されていたので、これを使って探し出します」
と俺が報告すると、大佐は顔をしかめた。大佐の眉間に深いしわが刻まれる。
『…有効な手段だが、相手が残したということは罠の可能性が高い。他の方法を――』
俺は大佐の言葉を遮って言う。
「分かってます。それでも敢えて罠にかかりに行き、組織を解体させます」
大佐はしばらく黙って考え込んだ。リスクの高い方法を実行し、俺を失うのが惜しいんだろう。俺は何も言わず、壁にもたれて大佐の命令を待った。
『……分かった。君の考えた通りに実行してくれ。こちらからできるだけサポートする』
大佐から命令が下った。俺は壁から離れて生徒会室から出た。
「それじゃ、ヘリを用意してください。場所は、ここの屋上で」
『分かった。電波の発信源をサーチする場合は、こちらに繋いでくれ。君の持っている機械では、人工衛星とリンクすることができないからな』
「了解」
俺は大佐とのやりとりを終え、通信を切って廊下を走り出した。向かうのは屋上だ。
――ピーンポーン、パーンポーン
『緊急連絡、緊急連絡、巡回している風紀委員は生徒会室に集まってください。繰り返します。巡回している風紀委員は――』
鈴原葉菜が放送室に到着し、校内放送を流しているようだ。これで朝井翔太たちが生徒会室に集まる。そうすれば、鈴原葉菜から話を聞き、生徒会室に神谷裕一の協力者がいたことが伝わるはずだ。
(……とりあえず、俺のいないことは後でどうにかすればいい)
階段を駆け上がって屋上へと出ると、いきなり映像が流れだした。これは、夢の続きらしい。俺の隣にいる女子が、もう一人の俺に話しかける。
「搭屋は、私のこと好き?」
「……前から言っているけど、俺はお前の事が好きだ」
ともう一人の俺は答えた。女子の表情が明るくなる。
「チビたちも好きだ。だから、俺が戦争に行くのは勝ち負けのためでも、国のためでもない。お前らを守るためだ」
すると、俺の隣にいる女子が唇を尖らせ、もう一人の俺の肩にもたれかかった。
「搭屋のバカ……。誰が戦争の話をしたのよ」
俺も女子の言葉に賛成だ。もう一人の俺は女子の頭を左手で押しのけた。
「……別にいいけど、ちゃんと戻って来てね」
と女子が、もう1人の俺を見て言った。そこで映像は途切れる。
(…過去の記憶か。こんな時に、出て来るなんて間が悪いな)
と俺は思いながら深呼吸し、過去の記憶を見て乱れた思考を元に戻した。
――ピーッ、ピーッ
突然、音が鳴り始めた。俺はブレザーのポケットに手を突っ込み、通信機を取り出す。すると、音が途切れて通信回線が開いた。
『電波の受信を確認、衛星にリンクできません。軍のサーバーにアクセスします』
音声がイヤホンから聞こえ、コンタクトディスプレイが軍のサーバーにアクセスする。
「神谷裕一か? それとも、伊藤志穂か?」
と俺は通信機の向こう側にいる相手に話しかけた。
『あら、やっぱり勝っちゃったの?』
伊藤志穂の声だ。向こうは、なぜか俺が勝ったことを喜んでいるみたいだ。
『衛星にリンクしました。電波のサーチを開始します』
コンタクトディスプレイが衛星とリンクし、衛星からの画像がコンタクトディスプレイに送られてくる。
「聞きたいことは山ほどあるが、一つだけにしておく。お前たちはどこにいるんだ?」
と俺は伊藤志穂に聞いた。相手は笑いを含んだ声で答える。
『場所を教えて欲しいの? どうしようかしら?』
どうやら正直に答える気は無いらしい。まあ、俺としては会話を引き伸ばした方が都合がいい。もう少しで相手の潜入場所が分かる。
「……〈レジスト・ジャック〉。それが、お前たちの所属している組織名だ。違うか?」
すると、伊藤志穂のクスッという笑い声が聞こえてきた。
『じゃあ、ヒントだけ教えてあげるわ。ヒントは工場よ。待ってるわ』
それを最後に通信が切れた。コンタクトディスプレイに潜伏場所が映し出される。場所は使われなくなった廃工場だ。
(……嘘は言っていないみたいだな。……港の近くか)
俺がマップを確認していると、上からバババと騒音が聞こえてきた。軍のヘリだ。ヘリからワイヤーが降りてくる。
「…じゃあ、行くか。〈レジスト・ジャック〉の本拠地へ」
俺はワイヤーの先端に着いた器具に足を引っ掛け、ワイヤを握った。すると、自動的にワイヤーが巻き取られて俺は蒼い空に向かって上昇していく。




