01
「ん、ぅあっ……」
と俺は唸り声を上げ、目を覚ました。そして、周囲を見回す。すると、薄暗い金属製の壁に囲まれた部屋だということがわかった。
(ここはどこだ? そして、俺は誰だ?)
そんな疑問を持ちつつ、腕と脚を動かして起き上がろうとした。だが、腕も脚も動かない。俺は不思議に思って右腕を見てみた。すると、手首に鉄枷がついている。
(何だよコレ? 何で、こんなことになってるんだ?)
と俺は驚いた。それもそのはずだ。俺の腕は肘から先が金属になっている。俺はゆっくり首を動かして左腕の方も見た。すると、左腕も右腕と同じように肘から先が金属に変わっている。
「起きたのか? 小僧」
と声がしたので、俺は声のした方を向く。そこには、白衣を着た老人がいた。
「アンタ、誰だ?」
と俺が聞くと、そこに立っている白衣を着た老人は言う。
「わしか? わしは倉敷務じゃ。お前の体を改造した張本人じゃが?」
悪びれることなく、さらっと答えやがった。俺は目を細めて溜め息をつきつつ、少し考えてから倉敷老人に質問する。
「ここはどこだ? それと、俺は誰だ? どうして俺はここにいるんだ?」
すると、倉敷は右手の小指で耳をほじりながら答える。
「わしに聞くな。これからここに来る男に聞け」
俺は倉敷を睨みつけるが、すぐにやめて視線を周囲に這わせた。ミサイルや大型の長銃が壁にかけられている。
(……研究所か。おそらく、兵器を作っているんだろう。だとすると、俺もその兵器の一つというわけか……。笑えないな)
俺がそんな事を考えていると、空気が抜けるような音がした。俺は音のした方を向く。そこには開いた金属の自動ドアがあった。
「目を覚ましたというのは、本当なのか? 倉敷博士」
どうやら若い男らしい(〈らしい〉というのは、逆光で相手の姿が見えないので、声だけで判断したからだ)。
「さっき目を覚ましたばかりじゃよ。話すこともできるし、特に問題は無い」
と倉敷老人が言うと、人影は頷いて入って来た。自動ドアが閉まり、顔を見ることができるようになる。
「ここはどこだ? アンタは誰だ? そして、俺は誰だ? 俺は、どうしてここにいるんだ?」
と俺は質問を連ねた。すると、三十代かそこらの男は目を丸くして倉敷に聞く。
「倉敷博士。これは……?」
「二〇〇年も眠っていたんじゃ。記憶を失っていても不思議は無い」
と倉敷老人は答えてアクビをした。男は俺の方に向き直り、少し考えてから話し始める。
「ここは陸軍基地の兵器開発所だ。私は〈大佐〉とでも名乗っておこう。君の名前は〈風間塔屋〉だ。君は二〇〇年前に対戦で仮死状態になり、ここに運び込まれて冷凍睡眠させ、兵器に改造された。以上だ」
「だいたい状況は呑み込めた。それで?」
と俺は納得し、気の抜けた返事をした。
「君には、今日から私の下で働いてもらう」
と大佐に言われ、俺は興味が無さそうに聞いてみる。
「……アンタは、俺に何をさせたいんだ?」
すると、大佐は厳かな声で俺の質問に答える。
「ある任務を行ってもらう。その任務を終えれば、君は好きなようにしてくれていい」
「断った場合は?」
と俺が聞くと、大佐は鋭い眼光で俺を睨みつけて言う。
「ここで君を処分することになる」
俺はその答えを聞いて少し考え、声を抑えて笑った。
「何がおかしい?」
と大佐が聞いてきたので、俺は思う。
(〈何がおかしい〉って? 俺の思い付きがおかしいんだよ。自分がバカに思える)
「別に何もおかしくない。ただし、それなら条件がある」
思い付きを口に出してみた。すると、訝しげに大佐は俺に聞いてくる。
「条件? どういう条件だ?」
俺は頷いてから条件を言う。
「俺は人を殺すことが嫌いだ。もし可能なら、俺の感情を全て消してくれ」
すると、大佐は目を丸くした。だが、すぐに表情は元に戻って倉敷老人の方を向く。
「倉敷博士。できますか?」
「無理じゃよ。感情を完全に消すことなど、現代の科学技術ではできん」
そこで区切り、倉敷老人は俺の方見て続ける。
「じゃが、感情のレベルを低くし、感じにくくすることは可能じゃ」
それを聞いた俺は、すぐに倉敷老人に頼んだ。
「それで頼む。できれば今すぐに」
倉敷老人は同意を求め、大佐の方を向く。大佐は頷いた。
「やれやれ、面倒くさいのぅ。手間が一つ増えたわい」
と言いながら、倉敷老人は機材の方へ歩いて行った。そして、スイッチを押す。鍵が開くような音がし、俺を拘束していた鉄枷が外れる。
「ついて来い」
と言って、倉敷老人は自動ドアの方へと歩いて行った。俺は起き上がり、倉敷老人の後を追う。自動ドアが空気の抜けるような音がしてドアが開く。
「大佐は部屋に戻っておれ。わしが連れて行き、すぐに済ませて向かう」
そう言い残して俺と倉敷老人は部屋を出た。狭い廊下を移動してエレベーターに乗り、下に下りる。
「さっきの大佐の反応は何だったんだ? 俺が「人を殺すことが嫌いだ」と言った時の」
と俺が聞くと、倉敷老人は不気味に笑いながら答える。
「くくくっ、あの男が滅多に驚くことは無い。〈戦鬼〉と呼ばれた男が、「人を殺すこと
が嫌いだ」と言ったのじゃからな。くくくっ」
不気味な笑い声だ。俺は黙り込んでしまった。なんせ俺の記憶は無いからな。
「ほれ、着いたぞ」
と倉敷老人が言った次の瞬間、エレベーターのドアが開いた。すると、そこは円形の台が中央に置かれた部屋だった。俺と倉敷老人は部屋に入る。
「その台の上に乗れ」
と倉敷老人に言われたので、俺は部屋の中央に置いてある丸い台の上に乗った。
「乗ったな? では、始めるぞ」
と倉敷は言ってから、壁にあるレバーを勢いよく下げた。
『感情低下システムを起動します。台の上に人間を認識しました』
という機械の音声がし、前後左右に円筒形の機械が床から出現した。
『電磁波コイルを確認。異常はありません。エネルギーを充填開始』
機械の作動音がし、円筒形の機械が展開して中からコイルが現れた。機械のエネルギー充填状況が壁のパネルに表示される。
『10、20、30……』
と機会が音声で充填状況を教えてくれた。
『95、96、97、98、99、100。充填完了しました。感情低下装置を起動します。10、9、8……』
カウントダウンが始まり、俺は目を閉じた。
『3、2、1、0!』
電撃が走るような感覚が走り、俺の中にあった何かが消えていく。
「終わったぞ」
と倉敷老人の声がしたので、俺は目を開いた。
「そこに置いてある服に着替えろ」
俺は倉敷老人に従い、服を着替えた。どうやら軍服らしい。
「これはどこの軍服だ?」
と俺が聞くと、倉敷老人は機械を操作しながら答えてくれる。
「ヴェルタリアじゃよ。北ウェスリーに乗っ取られた、お前さんの時代の日本と呼ばれた国じゃよ」
倉敷老人は機械の操作を終え、立ち上がると円筒形の機械が収納された。
「…日本か……」
倉敷老人はエレベーターのドアを開け、俺の方を向いて言う。
「さっさと乗れ。いちいち言わんと分からんのか?いちいち面倒をかけさせるんじゃないわい」
倉敷老人はいかにも怠そうに言われ、俺は急いでエレベーターに乗った。エレベーターで俺が目を覚ました階に上がる。エレベーターを下り、狭い廊下を歩いて移動。そして、またエレベーターに乗って上に上がる。
「今のうちに、お前の両腕の機械について説明しておく。その腕は振動波を出すことのできる兵器じゃ。お前の体に嵌め込んだ半永久機関で、エネルギーは供給される。よって、お前が死ぬことはほぼ無い。そして、起動状況はコンタクトディスプレイとイヤホンから知ることができる。他にも色々あるが、残りは自分で見つけろ」
と倉敷老人が話を終えると同時に、エレベーターのドアが開いた。エレベータを降り、しばらく廊下を進むとドアがあった。倉敷老人はカードを取り出し、カードをドアに翳す。
『認識しました。入室を許可します』
機械の音声がし、ドアが開いたので俺と倉敷老人は部屋に入る。
「連れて来たぞ。大佐」
と倉敷が言うと、窓際に立っていた大佐が振り向いた。
「倉敷博士。ご苦労様です。さて、風間塔屋」
名前を呼ばれ、俺は気をつけと敬礼した。
「はい。大佐」
記憶は無くても無意識の行動だった。
「君の階級は〈特尉〉だ。これから、君には非公認の軍人として任務を行ってもらう」
俺はどう反応するか考えて返事をする。
「分かりました。大佐」
すると、大佐は頷いて話を続ける。
「任務の内容だが、ある人物の護衛と軍事機密文書の警備を行ってもらう」
「了解」
俺がそう言うと、大佐は鍵とアタッシュケースを渡してきた。
「任務遂行できることを祈る」
と大佐が言うと壁が開いた。そこにはヘリが用意されている。すでに操縦者は乗り込ん
でいるようだ。
「では、行ってきます」
俺は鍵とアタッシュケースを受け取り、ヘリへと向かう。ヘリのドアが自動で開き、俺はヘリに乗り込んだ。シートに座ってヘッドフォンを装着すると、操縦者がヘリを起動させて離陸した。俺はヘリで目的地へと向かう。
(……特に意味は無い。もう少し生きてみたかった。それだけだ)
と俺は窓から夕暮れの空を眺めながら思った。
「よし、がんばっていこう」
と私は言いながら校門の前に立ちました。私の名前は天堂真衣。今日から高校生になります。私は校門を通り抜け、学校の敷地に入りました。昇降口の前では、私と同じ新入生が集まっています。
「新入生の方はこちらへ!」
と生徒会のスタッフらしき生徒が、新入生を誘導していました。なので、私はそっちへ向かって歩きはじめました。すると、目の前にヒラリヒラリと桜の花びらが目の前を舞っていたので、私は立ち止まって上を見上げてみると、屋上に桜の木が一本あります。
「……綺麗な桜」
と私が桜の散る様子に見惚れていると、後ろから誰かにぶつかられました。
「きゃっ!」
と私は悲鳴を上げ、前のめりに倒れてしまいました。
「ボーッとしてんじゃねえよ」
と言って私にぶつかった男子生徒は、他の男子生徒たちと歩いて行ってしまいました。
(何なの、あの態度! ぶつかって来たのは、そっちじゃない!!)
と私が思いながら地面に手をついて立ち上がろうとすると、私の目の前に手が差し伸べられました。
「災難だな。掴まれ」
と声がしたので、私は迷わず手を掴みました。すると、私は手に引っ張られて立ち上がらせらてくれます。
「大丈夫か?」
と聞いてきた手の持ち主を私は見ます。そして、目を離せなくなってしまいました。眠たそうな瞳に少し乱れた黒髪。そして、大人びた雰囲に私は思ってしまいます。
(カッコイイ……)
私は自分の心臓の鼓動が、トクンと突然跳ね上がるのを感じます。
「……俺の顔に何かついてるか?」
と聞かれたので、私は慌てて激しく首を振って否定しました。
「……そうか。じゃあ、俺は行くから」
と言って彼は、生徒会のスタッフらしき生徒のいる方に歩いて行きました。私はしばらく彼の後姿を目で追っていました。
「……私も行かないと」
ハッと我に返って私は早足で生徒会のスタッフらしき生徒の方へ歩いて行きました。生徒の集団の中に入ると、私たちはクラスごとに分けられます。そして、体育館へと列を乱さないように移動して行きました。
(さっきの人に、お礼言わないと……。名前聞いとけばよかった……。って言うか、名前聞けるなら、お礼言ってるわよ……)
と私が考えていると、クラスごとに座ってすぐに入学式が始まりました。
(早く終わらないかな……)
と思いながら私は校長先生の話を聞いていました。校長先生の話はとても長くて退屈でした。それに、さっきの彼のことが気になります。やっと校長先生の話が終わり、プログラムが新入生代表の挨拶に移行しました。私はステージに上がった生徒を見て驚きます。
「僕たち新入生は、この国立ヴェルタリア高校に入学できたことを誇りに思います。慣れない高校生活に不安はありますが、これからの三年間を宝にできるように、励んでいくことをここに誓います。新入生代表、風間塔屋」
挨拶を終え、新入生代表がステージから自分の席に戻って行くのを見て私は確信します。
(やっぱり! 私の見間違いじゃない! でも、どこのクラスなんだろう……)
と私が思っていると、彼は私の一列前の席に彼が座りました。私の心臓の鼓動が、ドクンと大きく跳ね上がります。
(同じクラス! やったあ!)
私は入学式が終わるまで、ずっと彼の背中を見つめていました。自分でも単純だと思ってしまいます。昔、一目惚れをバカにしたことがありました。
「そんな事あるわけないじゃない。バカじゃないの?」
その時の自分が恥ずかしいです。……話が逸れたので戻します。入学式が終わった後、私たち新入生はクラスごとに教室に向かいました。
「えっと、あの、その、入学式で紹介があったと思いますけど、自己紹介します。このクラスの担任をさせてもらいます。わ、私の名前は、新橋美奈といいます。よろしくお願いします」
と担任の先生が入ってきて自己紹介すると、周りの生徒たちが騒ぎます。
「美奈先生。カワイイ!」
「新橋先生。俺が守ります!」
美奈先生は眼鏡をかけた弱気な先生です。
(確かに守りたくなるかもしれないけど、そこまで騒がなくても……)
と私は思いながら、左隣に座っている生徒の方を見ました。そこに座っているのは、風間君です。風間君は他の生徒が騒いでいても、肘枕をして興味が無さそうに美奈先生を見ていました。
「えっと、それでは、皆さんにも自己紹介をしてもらいます」
と美奈先生は言いながら、出席簿を開きました。
「出席番号一番。い、飯村君。自己紹介してくだしゃい」
と先生がかんだので、またクラスが騒がしくなりました。そんな調子で始まった自己紹介で四人が自己紹介し、風間君の番が来ました。
「出席番号五番。風間君。自己紹介してください」
と美奈先生に言われ、風間君は立ちました。
「風間塔屋です。よろしくお願いします」
風間君は自己紹介を短く済ませ、着席してしまいました。私は少し落ち込んでしまいます。
(せっかく、趣味とか好きな食べ物が何なのか聞くチャンスだったのに……。これじゃ、どうやって話しかけたらいいのか分からない。……どうしよう)
私が落ち込みながら風間君を見ている間に、自己紹介は進んでいきます。
(名前が分かってるなら、普通に話しかければいいかな……。でも、それだと会話にならないかも……)
「……さん。天堂さん。天堂さん!」
「きゃっ!」
と私は考え事をしていたので、いきなり耳に入ってきた声に驚いてしまいました。右を見てみると、美奈先生が立っています。
「大声出してごめんね。呼んでも返事が無かったから、私、不安になっちゃって……。それに、出席番号順で天堂さんの番なの。自己紹介してくれないかな? ダメかな?」
と美奈先生が不安そうに聞いてきたので、私は首をぶんぶんと横に振りながら美奈先生に言います。
「先生。大丈夫です。私、自己紹介しますから」
風間君に自分をアピールするチャンス、逃すわけにはいきません。
「良かったあ。私、今年度が初めての担任だから不安だったの」
と美奈先生は言いながら、私の両手を握ってきました。目には薄っすらと涙が浮かんでいる。
(うぅ、この先生は苦手かも……)
と私は思いながら周囲を見回しました。すると、私に皆の視線が集まっていることに気がつき、緊張して背筋がピンと伸びます。
「て、天堂真衣です。えっと、私の趣味は作詞です。よろしくお願いします」
なんとか自己紹介を終わらせて着席し、私は深く溜め息をつきました。そして、風間君の方を見ます。彼は無表情で自己紹介をしている生徒を見ていました。
(あんな自己紹介じゃ、やっぱり興味を持ってくれないよね……)
と私は再び落ち込み、自己嫌悪に襲われました。なので、風間君から視線を外して美奈先生の方を見ます。さっきの泣きかけた顔とは違い、美奈先生はニコニコと嬉しそうに笑っていました。
(あの笑顔が羨ましい……)
私は溜め息をつきます。なんだか溜め息をつく度に、思考がマイナスになってるような気がします。
(そういえば、「溜め息をつくと幸せが逃げる」って先輩が言ってたっけ……)
そんなことを考えている間にも自己紹介は進んでいき、生徒全員の自己紹介が終わると、美奈先生は教卓に戻って笑顔で私たちに言います。
「それでは皆さん。これから頑張っていきましょう!」
男子生徒の過半数と女子生徒の何人かが、美奈先生の笑顔に見惚れているのが分かります。私は気になって風間君の方を見ました。風間君は騒ぎもせず、興味が無さそうに窓の外を見ています。
(ふーん、美奈先生はタイプじゃないのね!)
と私は心の中でガッツポーズをしました。本当に我ながら単純だと思います。
「皆さん。今からプリントを何枚か配布します。捨てずに持って帰って読んでくださいね」
と言ってから、美奈先生はプリントを配り始めました。私たち生徒はプリントを受け取ると、バッグに入れるか読むかのどちらかをします。私はプリントを読むフリをし、風間君の方を盗み見ます。風間君はしばらくプリントを見ていましたけど、すぐにプリントを半分に折ってバッグに入れました。
「それでは皆さん。また明日、学校で会いましょう!」
と言って先生が笑顔で言うと、男子生徒(風間君を除く)が「はいっ!」と元気よく返事をしました。それを聞いた美奈先生は、顔を赤くして両手で頬をおさえて照れます。少ししてスキップをしながら教室を出て行きました。
風間君の方を見ると、彼がバッグを持って席を立ったところでした。私は慌ててバッグを持って席を立ちます。
(今日、話しかけておかないと、話せなくなるかも!)
風間君はスタスタと歩いて教室を出て行きました。それを私は慌てて後を追いかけます。
(でも、どうやって話しかければ……)
と私は思います。そう、彼に話しかける話題がありません。わかっているのは名前だけです。なので、追いかけるペースを少し遅くして歩くことにしました。階段を下りて昇降口で靴を履きかえ、彼は校門へと歩いて行きます。
(…なんだか悪いことをしてるような気がする……。〈気がする〉じゃなくて、これって間違いなく、ストーカーっていう立派な犯罪よね)
と思って少しだけ反省しました。それでも、私は話しかけるために風間君を追いかけ続けます。彼は校門を通って右に曲がったので、私も同じように校門を通って右に曲がりました。
「きゃっ」
と私は悲鳴を上げてしまいました。なぜかというと、目の前に風間君の顔があったからです。
「……俺に何か用か?」
と風間君に聞かれたけど、私は彼の顔が近いので固まってしまっています。
「入学式とホームルームの時間、俺のことを見ていただろ。それに、他の生徒が出て来ていないのに、お前だけ出て来ている」
と私は言われ、校舎の方を見ました。確かに風間君の言った通り、校舎からは誰も出て来ていません。
「で、俺に何の用だ?」
と聞かれ、私はたじろいでしまいます。声をかけようとは思っていたけど、こんな展開になるとは思っていなかったので、どうやって声をかけるかも決めていませんでした。それに、風間君の顔が目の前にあります。これでたじろがない方がおかしいです。
(か、顔が近い!)
私は頬が熱くなるのを感じ、脳みそが沸騰して融けてしまいそうです。
「用が無いなら、俺は帰るから」
と言って風間君は私の横を通り、歩いて行きます。
「ま、待って!」
と私が言うと、風間君は立ち止まりました。
「……用があるなら、さっさと言ってくれ。時間が無駄になる」
と風間君は迷惑そうに言ってきました。
「……無愛想なのね」
私は彼の対応に腹が立ち、文句を言いました。彼は淡々と私に聞いてきます。
「そうだな。だからどうした?」
「私のイメージと違う!」
と私は彼に怒鳴りつけました。
「自分のイメージだろ。それを俺に押し付けるな。それと会ったばかりの人間に、怒鳴りつけられる覚えは無い」
彼の言葉は刃のように突き刺さり、私を傷つけました。私の中でブチッと何かが切れました。
「あなた最低ね! 万年仏頂面!!」
と私は怒鳴りつけ、彼とは別方向へと走り出しました。
(どうして、あんなことが言い方ができるの!? 本当に最低!)
私は走り続けました。どこをどう走ったのかは覚えていません。気がついたら自分の家の前にいました。何も考えずに鍵を開け、逃げ込むように自分の部屋に入りました。バッグを床に落とします。
「……本当に最低」
と私は呟いてベッドに倒れこみました。その言葉が彼に向けてなのか、それと自分に向けてなのかは分かりません。ただ、今の私は何もせずに眠りたいんです。




