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――科学技術の発達した遥かな未来。西暦四八五三年。
一〇〇年前に建国された北ウェスリーという国が、アメリカに軍事訓練と称して攻撃し
た。そして、それは第三次世界大戦の幕開けとなるできごととなる。そして、当然のよう
に、その大戦に日本も巻き込まれることとなった。
諸外国は連合軍を結成して対抗するものの、北ウェスリーは最先端の科学技術を駆使し
て新兵器を作り出し、次々と諸外国を制圧して行った。そして、その侵攻は日本へと向か
っていた。
この物語の始まりは、四八五七年のモンゴルの戦線。
ここは戦場だ。いくつもの死体が地面に転がっている。地平線は煙で見えなくなり、地面に流れた血が染み付いていた。鉄くさい臭いが鼻をつき、吐き気がする。
「……くそったれ」
と俺は一言を吐き捨てて、小銃を構えた。もう一度言うが、ここは戦場だ。俺は去年の夏に徴兵され、今年の夏にモンゴルの戦場に派遣された。目的は北ウェスリーの日本への侵攻を防ぐためだ。
(ったく、俺たちの世代で戦争が起こるなんてな……。最悪だ。元はと言えば、北ウェスリーがアメリカに攻撃したのが始まりだろ。だったら、日本を巻き込むんじゃねーよ)
と俺は思ってから溜め息をつき、小銃で人影に照準を合わせた。そして、迷うことなく引き金を二度引く。小さい爆発音が二度し、人影が倒れた。
「……よし、倒れたな」
と呟いて、すぐに目を反らした。俺は死体を見るのが苦手だ。死体を見たその日に夢の中に出てきて、俺にすがりついてくるからだ。
(死体を見んのは、もうウンザリだ。……政府のヤツら、国を守る兵が少ないからって、徴兵年齢を下げやがって)
と思っていると、微量の電気が流れるような感覚で危険を感じ取った。背後に弾丸を撃ちこんでから、横に跳躍する。すると、さっきまで俺のいた場所がデカイ音を立てて爆発した。
「あー、砲撃か」
と俺は戦場に相応しくない言い方で言いつつ、近くに転がっている死体に向かって走り出す。例の感覚で感じ取って砲撃を回避しつつ、死体から長銃を奪い取って走り続ける。
そして、立ち止まって戦車に照準を合わせた。陸軍学校で教えられた通りに戦車の車体と砲身の接合部分に弾丸を撃ち込む。鈍い音を立てて戦車の車体が凹んだ。
「二発か…?」
と俺は呟き、再び引き金を引いて二発目の弾丸を撃った。すると、車体から砲身がガキンッと高い音を立てて外れる。
「さすがアメリカ製の長銃だな。威力が段違いだ。……あんまり使いたくない代物だな」
と言って俺は長銃の弾丸を全て撃ち込み、腰に装備していた最新型の手榴弾を投げた。
(この距離だと伏せたほうがいいな)
と俺は判断し、手榴弾が戦車の車体にぶつかって爆発する前に伏せた。少ししてから、デカイ爆発音がして爆風が俺を襲った。爆風が収まって戦車の方を見てみると、そこには
クレーターがある。
「……話には聞いていたが、あんまり使いたくない代物だな。武器ってのは」
俺は呟いてから、自分自身を嘲り笑ってしまう。
(俺って、こんなに喋るやつだったか? …きっと、戦争のせいでおかしくなっちまったんだ。さっさと戦争が終わらねーかな……)
不意にヴンッという音がした。俺は驚き、腰の辺りに目をやる。すると、そこには支給品の通信機があった。通信機に手を取って通信ボタンを押し、耳に当てる。
『こちら、チーム弐だ。チーム壱、誰か応答してくれ』
という声が聞こえてきたので、俺はスイッチをONにして話す。
「こちらチーム壱の風間少尉。チーム壱は壊滅状態にあります。生き残っているのは俺一人だと思います」
すると、向こうから息を呑む音が聞こえてきた。
『…風間。風間というと、あの風間か?』
「〈あの〉は分かりませんが、俺は風間少尉です。遠方に戦車が三台見えたので、通信を切ります」
と言ってすぐにスイッチをOFFにし、俺は近くに転がっていたグレネードランチャーと長銃を拾う。
(恨みは無いが、チビ達との約束を守るためだ。……恨むなよ)
照準を合わせ、グレネードランチャーの引き金を引いた。手榴弾が発射される。手榴弾は放物線を描いて、戦車に向かって飛んで行った。爆発が起こる。
「残り二台……」
長銃を構えて引き金を引く。戦車の近くに転がっていた手榴弾に銃弾が当たり、爆発する。爆発に巻き込まれた戦車が横転した。
「残り一台……」
長銃の弾丸を撃ち尽くし、戦車のキャタピラが吹っ飛ぶ。戦車の動きが止まった。
「これで最後だ」
グレネードランチャーに手榴弾を装填し、照準を合わせて引き金を引いた。放物線を描いて手榴弾が飛んで行く。そして、それが戦車に当たった瞬間、大きな爆発が起こって戦車が消し飛んだ。
(疲れた……。とりあえず、今回も生き残れたな)
俺は溜め息をつき、通信機のスイッチをONにして話す。
「こちら、チーム壱の風間少尉。戦車三台を撃破しました。どうぞ」
すると、どこからか通信が入ってきた。
『こちらチーム弐の篠田大尉だ。さすが、あの風間だな。壊滅状態にありながら、たった一人で敵を全て撃破するとは』
俺はウンザリとしながら答える。
「別に大したことじゃないですよ。ただ単純に勘がいいだけですから」
すると、篠田大尉は苦笑しながら言う。
『そんなに謙遜する必要は無い。〈戦鬼〉の二つ名に相応しい実力だ。それに、その年齢で二つ名を持つのは名誉ある事だ』
俺は今日何度目かの溜め息をつく。
「それはどうも。それと、謙遜なんてしてませんよ。事実ですから」
と言うだけ言って、俺はスイッチをOFFにした。
「さてと、この後の作戦は……、この近くにある主要施設の破壊だったな」
と俺は言いながら周囲を見回した。しかし、生きている人間は一人もいないようだ。
(やっぱり俺以外の隊員は生きてないか……。これじゃ、作戦は続行不可能だな)
無造作に手に持った武器を投げ捨てた。そして、俺は軍服のポケットから箱を取り出し、箱からタバコを一本だけ引き抜き、口にくわえる。箱をポケットに戻し、別のポケットからライターを出して火をつけた。少し咳き込む。タバコは嫌いだが、こういう時に気を紛らすのには丁度いい小道具だ。
「いつになったら帰れるんだ。俺は……」
と呟きつつ、煙を吐いて空を見上げた。空を見上げていると日本にいた頃を思い出す。
(あれから三年か……。チビ達も成長しているだろうな…。まだ約束を覚えてるだろうか? …忘れてるかもな…)
と思いながら俺は、吸い始めて間も無い吸殻を捨てた。
「とりあえず撤退命令が出るまで、ここで待機だな」
と口に出して今後の動きを確認し、座り込んで空を見上げた。しばらくして、背中を何かが這い上がるような感覚に襲われる。
「何だか嫌な予感がするな……。一応、警戒するか」
俺は空を見上げたまま立ち上がった。風が吹いて煙と雲が流れる。そして、鉄臭い嫌な臭いが鼻をついて吐き気がした。
(気持ちが悪い。さっさと撤退命令が出ねーかな)
俺は軍服のポケットに手を突っ込み、タバコの箱を取り出そうとする。そこでさっきの感覚を強く感じた。空を凝視する。僅かに光の反射を確認することができた。
「あれは……」
と呟きながら支給品のスコープを取り出し、右目に当てて空を確認した。すると、銀色に輝く機体が見える。
「爆撃機…? 北ウェスリーのやつらが、爆撃機を持ってるなんて、聞いてないぞ……!」
俺は通信機のスイッチをONにし、慌てて話す。
「こちら風間少尉! 北ウェスリーの爆撃機を確認! 撤退命令を要求します! どうぞ!!」
すると、すぐに返答があった。
『北ウェスリーが爆撃機を所有しているだと! 分かった。撤退を許可する!!」
俺はスイッチをOFFにして走り出す。すると、さっきまで俺がいた場所が爆発した。爆風で俺は百メートルぐらい吹っ飛ぶ。どうやら爆撃機で砲撃を行ってきたらしい。
(今回は、本当に死ぬかもな……)
と思いながら俺は立ち上がり、再び走り出した。しかしミサイルが飛んで来るのを感じ、すぐに伏せる。近くで爆撃が起き爆風が吹いた。それが二度三度と続く。
「煙で上からは見えなくなった。今がチャンスだな…」
と俺は言いながら立ち上がって走り出した。しかし、予想は外れ、再び爆発が起きて俺は地面に叩きつけられる。そして、爆撃が何度も続いて俺の意識は闇に沈み始めた。まるで、俺に世界との別れを告げるように。
(くそっ……。約束、守れなかったな…。ごめんな………)
という俺自身の言葉が脳裏を横切り、俺の意識は完全に深い闇の中に沈んで動けなくなった。これが最初で最後の死だろう。俺は何も疑うことなく、その死を受け入れた。




