02
そう、あくまでも始まりに過ぎなかったのだ。
不安になりながら、さらに視線を「勇者」と「巫女」のすぐそばにいる次兄へと移す。
次兄のクロヴィス、20歳。リュミエールの国教ゼネラル教の高等神官。
長い黒髪と濃い緑の瞳。長兄よりもやや細身の美形。
年が近いことと、母親は違えど同じ側室腹ということで幼いころから彼とは仲が良かった。
頭も良く、私の前世の知識から出した意見を女の浅知恵、夢話とせずにきちんとまとめ、父に最初に提出してくれたのもこの兄だった。
彼が、無駄な王太子指名争いを避けるために教会の神官になると聞いた時は、どんなに泣いた事か。
王位継承権は結局、いろいろなしがらみで放棄できずに神官として働いているが、私にとって大切な人であることに代わりはない。
しかし……
ブルータス、お前もか!
思わずカエサルの最期の言葉を呟きたくなる光景がそこにあった。
次兄すらも、謁見の場であるというにもかかわらず、チラチラと「巫女」を見ているのである。
そして「巫女」もその視線に気がついているのか、時折微笑を彼の視線に返していた。
さすが、異世界召喚者特典の溺愛補正。
あの聡明な次兄までこんなことになるとは。
しかし、次兄の視線には微笑で返している所を見ると、この「巫女」は次兄に惚れているのだろうか?
それとも、慣れない場所で最初の保護者である彼を頼っているのか?
判断につきかねる。
次兄に惚れているのであれば、さっさと二人でまとまってくれればいいのだが。
彼女が主人公の物語ではどうなっているのだろうか。
そういえば、「勇者」と「巫女」……
この二人の事について、何も話していなかった気がする。
改めて、紹介しておこう。
兄の「勇者」、九重 将人、21歳。
妹の「巫女」、九重 花音、16歳。
ネット小説などでよくあるDQNネーム……失礼、キラキラしい名前は妹くらいで、兄の方の名前は意外と普通だった。
二人は、最近復活した魔王を倒し再度封印するために、ゼネラル神が召喚したそうだ。
特に裏が何かあるわけではなく、魔王を倒したあかつきには、ゼネラル教が威信をかけて地球に返す手はずになっているらしい。
兄は大学生、妹は高校生というところだろう。
兄は色素が薄い髪と端正な顔立ちで、長兄とイメージが若干かぶる。
瞳の色が黒いため、おそらく髪はカラーリングと思われる。
妹はカラスの濡れ羽のような漆黒の長い髪と同じ黒い瞳。そして、何よりも目立つ巨乳。
とても体の線を際立たせるようなデザインの制服(まるでエロゲの胸を誇張した謎デザイン)のせいで扇情的だ。
……兄はシスコンだったりしないだろうか?
妹もブラコンだったりしたら、今後が非常に頭が痛い。
ともかく、これ以上テンプレの被害者を増やさないで欲しい所だが、きっと無理なんだろう。
彼らの行動を生暖かく見守らなければならないことに、私はひっそりとため息をついた。