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『地元に戻ると、俺がストーカーになっていた』  作者: こうた


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第4話 俺は、みんなから嫌われた



あの日から。


俺の高校生活は、完全に変わった。


教室に入るだけで、空気が重くなる。


俺が席に座る。


それだけで、誰かが小さく笑う。


「……あいつだよ」


「みさきにしつこくしてた奴」


「ストーカーみたいなことしてたって」


聞こえてくる。


でも。


俺には、何のことなのか分からない。


俺はスマートフォンを確認した。


みさきに送った覚えのないメッセージ。


確かに、俺の名前で送られている。


それが何より怖かった。


「俺、送ってへんのに……」


何度言っても。


信じてもらえなかった。


ある日の昼休み。


俺が一人で弁当を食べていると、ひろきが近づいてきた。


「しげる」


「……何や?」


「もう、みさきに関わるなよ」


「だから、俺は何もしてへん」


「まだ言うのか?」


「ほんまに知らん」


ひろきは机に手をついた。


「みさき、泣いてたぞ」


「……」


「お前が怖いって」


その言葉だけは。


胸に刺さった。


俺はみさきを泣かせたいわけじゃない。


好きだった。


だからこそ。


「俺が何したっていうねん」


「自分で分からないのか?」


「分からん」


ひろきはため息をついた。


「だったら、もう近づくな」


そう言って去っていった。


俺は弁当を食べる気になれなかった。


その日の放課後。


靴箱を開けると。


一枚の紙が入っていた。


『みさきに近づくな』


ただ、それだけ。


俺は紙を握りつぶした。


誰が入れたのか。


考えても分からない。


でも。


その日から、似たようなことが続いた。


机の中に入れられる紙。


ロッカーに貼られた悪口。


廊下ですれ違うときの舌打ち。


俺が何かをしているわけじゃない。


それでも。


周囲では、俺が悪いことになっていた。


そして。


決定的な出来事が起きた。


ある日の朝。


学校に一本の電話が入った。


みさきの母親からだった。


担任が俺を呼び出した。


「しげる」


「はい」


「みさきから相談を受けている」


「……何をですか?」


担任は少し言いにくそうにした。


「家の近くで、お前を見かけたそうだ」


「俺が?」


「夜だったらしい」


「行ってません」


「みさきは、お前だと言っている」


「でも、俺は行ってません」


担任は黙った。


そして。


「しげる。正直に話してくれ」


その瞬間。


俺は理解した。


先生も。


俺を疑っている。


「本当に、俺じゃありません」


「……分かった」


そう言った先生の顔には。


信じている人間の表情はなかった。


その日の帰り道。


俺は一人で歩いていた。


海沿いの道。


風が強かった。


「何でや……」


誰に言うでもなく呟いた。


俺はみさきが好きだった。


それは本当だ。


でも。


だからといって。


みさきを追いかけ回したことなんて、一度もない。


なのに。


誰も信じてくれない。


家に帰ると。


母親が待っていた。


「しげる」


「何?」


「今日、学校から電話があったよ」


「……うん」


「みさきちゃんのこと?」


俺は黙った。


母親は心配そうに俺を見た。


「本当に、何もしてないの?」


その一言で。


胸が締め付けられた。


「……してへん」


「そう……」


「母さんまで、俺を疑うん?」


「違うよ」


母親は慌てて首を振った。


「ただ……」


言葉が止まる。


俺には、それだけで十分だった。


母親も。


完全には信じていない。


俺は部屋に戻った。


ベッドに倒れ込む。


天井を見つめる。


涙が出そうになった。


でも。


泣くのが嫌だった。


十八歳にもなって。


誰にも信じてもらえない。


そのことが悔しかった。


数日後。


俺はみさきを呼び止めた。


「みさき」


彼女は足を止めた。


「何?」


「一つだけ聞きたい」


「……何?」


「俺が本当に、みさきを追いかけてると思ってる?」


みさきは黙った。


長い沈黙のあと。


「……分からない」


その答えが。


一番辛かった。


「分からないって……」


「だって、証拠があるから」


「俺は何もしてへん」


「でも、メッセージもある」


「それは偽物や」


「どうやって?」


「分からん」


みさきの目に、涙が浮かんだ。


「じゃあ、どうすればいいの?」


俺も答えられなかった。


みさきは俯いた。


「私だって……こんなことしたくない」


「……」


「本当は、しげると普通に話したかった」


その言葉に。


俺の胸が痛んだ。


「俺もや」


思わず口にした。


みさきが顔を上げる。


「俺は、今でも――」


そこで言葉を止めた。


好きだ。


そう言いたかった。


でも。


もう言えなかった。


今の俺が何を言っても。


「ストーカーが言い訳している」


そう思われるだけだ。


だから。


俺は何も言わなかった。


それから数日。


俺は学校でも一人になった。


そして。


ある日。


教室で、たかしが俺の横を通り過ぎた。


小さな声で。


「……諦めろよ」


俺は振り返った。


「何を?」


たかしは答えない。


そのまま歩いていった。


俺は拳を握った。


怒りよりも。


疲れが勝っていた。


もう。


ここにいたくない。


そんな気持ちが。


少しずつ大きくなっていった。


そして、高校卒業まで残り数か月となった頃。


俺は進路を決めた。


東京へ行く。


菓子職人になる。


誰も俺を知らない場所で。


誰にも過去を決めつけられない場所で。


一からやり直す。


それだけが。


俺に残された道だった。


卒業式の日。


俺は、最後に一度だけ。


みさきを見た。


彼女は友達と笑っていた。


俺とは目を合わせなかった。


俺も。


声をかけなかった。


ただ心の中で。


「幸せになれ」


そう思った。


そして。


卒業式の帰り。


俺は一人で海を見た。


十八年間過ごした故郷。


大好きだった場所。


大切だった人。


全部。


ここに置いていく。


そう決めた。


――もう二度と。


佐渡には帰らない。


その決意だけを胸に。


俺は故郷を出た。


けれど。


俺はまだ知らなかった。


十二年後。


自分を追い出したはずの過去が。


再び俺の目の前に現れることを。


そして。


あの日の「嘘」が。


まだ終わっていなかったことを。

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