第18話 全部、お前だった
「余計なことを調べるな」
スマートフォンに表示された文字を見つめながら、たくやは動けなかった。
その日の夜。
たくやは一人で公園のベンチに座っていた。
何度も周囲を見る。
誰もいない。
なのに。
誰かに見られている気がする。
「……誰なんだよ」
スマートフォンを握る。
もう一度、メッセージを開く。
――しげるを信じるな。
たくやは眉をひそめた。
「逆だろ……」
しげるが犯人なら。
なぜ、わざわざ自分たちにこんなメッセージを送る?
調べられて困る人間がいる。
それは――。
「犯人……」
たくやが呟いた。
---
翌朝。
俺は、みさきの病院へ向かった。
昨日の手紙について、もう一度話をするためだった。
病院の入口に着くと。
なおきが立っていた。
「なおき?」
「待ってた」
「俺を?」
「ああ」
なおきは周囲を確認した。
「ここじゃ話せない」
「何や?」
「場所を変えよう」
俺はなおきについていった。
近くの公園。
人の少ないベンチに座る。
「しげる」
「うん」
「俺は、お前を信じる」
いきなりだった。
「……なんで?」
「証拠がないからだ」
「それだけ?」
「いや」
なおきは少し考えた。
「昨日の手紙を見て、分かった」
「何が?」
「犯人は、お前を知りすぎてる」
俺は黙った。
「でも」
なおきが続ける。
「同時に、お前が知らないことも知ってる」
「……」
「つまり、昔からお前たちを見ていた人間だ」
俺の背筋が冷たくなる。
「昔から?」
「ああ」
「誰や?」
なおきは首を振った。
「まだ分からない」
「じゃあ、何で俺に?」
「一つだけ聞きたい」
「何?」
「十二年前」
なおきは俺を見る。
「お前がみさきに送ったとされていたメッセージ」
「……」
「本当に送ってないんだな?」
「送ってない」
「分かった」
なおきは頷いた。
「じゃあ、調べる」
「何を?」
「そのメッセージが、どこから送られたのか」
俺は目を見開いた。
「そんなこと分かるんか?」
「当時の端末は無理かもしれない」
「じゃあ……」
「でも、みさきが持っていた記録が残っている可能性はある」
俺は立ち上がった。
「俺も行く」
「いや」
なおきが止める。
「お前は動かない方がいい」
「なんで?」
「今のお前は、動けば動くほど疑われる」
その言葉に納得するしかなかった。
---
その日の午後。
親衛隊の八人が集まった。
ひろき。
たかし。
ゆたか。
けんじ。
まさる。
こうじ。
なおき。
たくや。
そして。
その中央に、みさきがいた。
「みんなに話したいことがある」
みさきが言った。
ひろきが心配そうに見る。
「何だ?」
「しげるくんは、ストーカーじゃないと思う」
空気が止まった。
「みさき!」
ひろきが声を上げる。
「落ち着いて」
ゆたかが止めた。
「理由を聞こう」
「手紙」
みさきは封筒を出した。
「しげるくんが佐渡に帰ってくる前から届いてた」
「……」
「だから、少なくとも今の事件は、しげるくんだけでは説明できない」
ひろきは黙った。
「俺もそう思ってる」
なおきが言った。
たくやも頷く。
「俺も」
「お前ら……」
ひろきが二人を見る。
「じゃあ、誰なんだよ?」
誰も答えられない。
そのとき。
たかしが言った。
「俺は、しげるだと思う」
「たかし」
ゆたかが見る。
「なぜ?」
「昔のことがある」
「それは理由にならない」
「じゃあ何が理由になる?」
「証拠だ」
「証拠ならある」
たかしがスマートフォンを取り出した。
「これ」
画面には写真。
みさきの家の近くに立つ男の姿。
暗くて顔は見えない。
しかし。
服装が、俺に似ていた。
「これを撮ったのは誰?」
たくやが聞く。
「俺だ」
「いつ?」
「三日前」
なおきが写真を見る。
「三日前……?」
「そうだ」
たかしは俺を睨んだ。
「しげるが島に来た翌日だ」
「俺はその時間、家にいた」
「証拠は?」
「親がいる」
「それだけか?」
たかしが笑った。
「結局、お前には証明できない」
俺は言葉を失った。
確かに。
自分がやっていないことを証明するのは難しい。
「たかし」
みさきが言った。
「その写真、どこから撮ったの?」
「……」
「場所」
たかしの表情が変わった。
「病院の近く」
「違う」
みさきが言う。
「そこからじゃ、この角度では撮れない」
たかしが黙った。
ゆたかが写真を拡大する。
「……確かに」
なおきも見る。
「撮影場所が違う」
たくやが呟く。
「たかし」
「何だよ」
「これ、どこで撮った?」
たかしは答えなかった。
その沈黙だけで。
何かがおかしい。
---
その夜。
たかしは一人で歩いていた。
「……くそ」
スマートフォンを握る。
そのとき。
後ろから声がした。
「たかし」
振り返る。
「……ゆたか」
「話がある」
「何だよ」
「十二年前のことだ」
たかしの顔が固まる。
「もう、やめよう」
「何を?」
「しげるを犯人にするのを」
「俺は――」
「嘘はいい」
ゆたかは一枚の紙を見せた。
「これ」
たかしの顔色が変わった。
「……どこで?」
「みさきの家に残ってた」
「それが何だ?」
「筆跡」
ゆたかが言った。
「十二年前のメッセージを書いた紙と、お前が昔使っていたノート」
「……」
「文字が似てる」
「偶然だ」
「そうかもしれない」
ゆたかは静かに言った。
「だから確認する」
たかしが一歩下がる。
「何を?」
「お前のスマートフォン」
「は?」
「見せてくれ」
「嫌だ」
「なぜ?」
「プライバシーだ」
「だったら、警察に相談する」
たかしの顔が歪んだ。
「やめろ」
「何で?」
「……」
「たかし」
ゆたかが言った。
「お前、何を隠してる?」
長い沈黙。
やがて。
たかしが笑った。
「……全部だよ」
「え?」
「全部、俺だ」
ゆたかの顔が凍った。
たかしは俯いた。
「十二年前」
「……」
「しげるに嫌がらせをしたのも」
「……」
「みさきに嘘を吹き込んだのも」
「……」
「偽のメッセージを送ったのも」
「……」
「最近、みさきを追いかけてるのも」
たかしは顔を上げた。
「全部、俺だ」
ゆたかは言葉を失った。
「……どうして」
たかしは苦しそうに笑った。
「好きだったんだよ」
「みさきを?」
「ずっと」
拳を握る。
「でも、みさきは俺を見なかった」
「だから、しげるを?」
「しげるがいなくなれば、俺にも可能性があると思った」
「馬鹿なことを……」
「分かってる」
たかしは呟いた。
「でも、あの頃の俺は、それしか考えられなかった」
ゆたかは怒りに震えた。
「お前のせいで、しげるは島を出たんだぞ」
「知ってる」
「みさきだって苦しんだ」
「知ってる」
「じゃあ、なぜ今まで――」
「怖かったんだよ!」
たかしが叫んだ。
「全部ばれたら、俺の人生が終わる!」
静寂。
その声が夜の公園に響いた。
そして。
たかしは小さく呟いた。
「だから……もう一度、しげるを悪者にするしかなかった」
ゆたかはたかしを見つめた。
「……お前、一人でやったのか?」
たかしは答えなかった。
その沈黙が。
ゆたかには、何よりも不気味だった。
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翌朝。
俺のスマートフォンが鳴った。
ゆたかからだった。
「もしもし?」
『しげる』
「なんや?」
『今から会えるか?』
「何か分かったんか?」
電話の向こうで。
ゆたかが息を吸った。
そして。
震える声で言った。
『……十二年前の犯人が分かった』
俺は立ち上がった。
「誰や?」
しばらく沈黙。
そして。
ゆたかが名前を口にした。
『たかしだ』
俺は何も言えなかった。
十二年前。
俺の人生を壊した嘘。
現在。
みさきを苦しめているストーカー。
その二つが。
一人の男につながった。




