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『地元に戻ると、俺がストーカーになっていた』  作者: こうた


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18/20

第18話 全部、お前だった



「余計なことを調べるな」


スマートフォンに表示された文字を見つめながら、たくやは動けなかった。


その日の夜。


たくやは一人で公園のベンチに座っていた。


何度も周囲を見る。


誰もいない。


なのに。


誰かに見られている気がする。


「……誰なんだよ」


スマートフォンを握る。


もう一度、メッセージを開く。


――しげるを信じるな。


たくやは眉をひそめた。


「逆だろ……」


しげるが犯人なら。


なぜ、わざわざ自分たちにこんなメッセージを送る?


調べられて困る人間がいる。


それは――。


「犯人……」


たくやが呟いた。


---


翌朝。


俺は、みさきの病院へ向かった。


昨日の手紙について、もう一度話をするためだった。


病院の入口に着くと。


なおきが立っていた。


「なおき?」


「待ってた」


「俺を?」


「ああ」


なおきは周囲を確認した。


「ここじゃ話せない」


「何や?」


「場所を変えよう」


俺はなおきについていった。


近くの公園。


人の少ないベンチに座る。


「しげる」


「うん」


「俺は、お前を信じる」


いきなりだった。


「……なんで?」


「証拠がないからだ」


「それだけ?」


「いや」


なおきは少し考えた。


「昨日の手紙を見て、分かった」


「何が?」


「犯人は、お前を知りすぎてる」


俺は黙った。


「でも」


なおきが続ける。


「同時に、お前が知らないことも知ってる」


「……」


「つまり、昔からお前たちを見ていた人間だ」


俺の背筋が冷たくなる。


「昔から?」


「ああ」


「誰や?」


なおきは首を振った。


「まだ分からない」


「じゃあ、何で俺に?」


「一つだけ聞きたい」


「何?」


「十二年前」


なおきは俺を見る。


「お前がみさきに送ったとされていたメッセージ」


「……」


「本当に送ってないんだな?」


「送ってない」


「分かった」


なおきは頷いた。


「じゃあ、調べる」


「何を?」


「そのメッセージが、どこから送られたのか」


俺は目を見開いた。


「そんなこと分かるんか?」


「当時の端末は無理かもしれない」


「じゃあ……」


「でも、みさきが持っていた記録が残っている可能性はある」


俺は立ち上がった。


「俺も行く」


「いや」


なおきが止める。


「お前は動かない方がいい」


「なんで?」


「今のお前は、動けば動くほど疑われる」


その言葉に納得するしかなかった。


---


その日の午後。


親衛隊の八人が集まった。


ひろき。


たかし。


ゆたか。


けんじ。


まさる。


こうじ。


なおき。


たくや。


そして。


その中央に、みさきがいた。


「みんなに話したいことがある」


みさきが言った。


ひろきが心配そうに見る。


「何だ?」


「しげるくんは、ストーカーじゃないと思う」


空気が止まった。


「みさき!」


ひろきが声を上げる。


「落ち着いて」


ゆたかが止めた。


「理由を聞こう」


「手紙」


みさきは封筒を出した。


「しげるくんが佐渡に帰ってくる前から届いてた」


「……」


「だから、少なくとも今の事件は、しげるくんだけでは説明できない」


ひろきは黙った。


「俺もそう思ってる」


なおきが言った。


たくやも頷く。


「俺も」


「お前ら……」


ひろきが二人を見る。


「じゃあ、誰なんだよ?」


誰も答えられない。


そのとき。


たかしが言った。


「俺は、しげるだと思う」


「たかし」


ゆたかが見る。


「なぜ?」


「昔のことがある」


「それは理由にならない」


「じゃあ何が理由になる?」


「証拠だ」


「証拠ならある」


たかしがスマートフォンを取り出した。


「これ」


画面には写真。


みさきの家の近くに立つ男の姿。


暗くて顔は見えない。


しかし。


服装が、俺に似ていた。


「これを撮ったのは誰?」


たくやが聞く。


「俺だ」


「いつ?」


「三日前」


なおきが写真を見る。


「三日前……?」


「そうだ」


たかしは俺を睨んだ。


「しげるが島に来た翌日だ」


「俺はその時間、家にいた」


「証拠は?」


「親がいる」


「それだけか?」


たかしが笑った。


「結局、お前には証明できない」


俺は言葉を失った。


確かに。


自分がやっていないことを証明するのは難しい。


「たかし」


みさきが言った。


「その写真、どこから撮ったの?」


「……」


「場所」


たかしの表情が変わった。


「病院の近く」


「違う」


みさきが言う。


「そこからじゃ、この角度では撮れない」


たかしが黙った。


ゆたかが写真を拡大する。


「……確かに」


なおきも見る。


「撮影場所が違う」


たくやが呟く。


「たかし」


「何だよ」


「これ、どこで撮った?」


たかしは答えなかった。


その沈黙だけで。


何かがおかしい。


---


その夜。


たかしは一人で歩いていた。


「……くそ」


スマートフォンを握る。


そのとき。


後ろから声がした。


「たかし」


振り返る。


「……ゆたか」


「話がある」


「何だよ」


「十二年前のことだ」


たかしの顔が固まる。


「もう、やめよう」


「何を?」


「しげるを犯人にするのを」


「俺は――」


「嘘はいい」


ゆたかは一枚の紙を見せた。


「これ」


たかしの顔色が変わった。


「……どこで?」


「みさきの家に残ってた」


「それが何だ?」


「筆跡」


ゆたかが言った。


「十二年前のメッセージを書いた紙と、お前が昔使っていたノート」


「……」


「文字が似てる」


「偶然だ」


「そうかもしれない」


ゆたかは静かに言った。


「だから確認する」


たかしが一歩下がる。


「何を?」


「お前のスマートフォン」


「は?」


「見せてくれ」


「嫌だ」


「なぜ?」


「プライバシーだ」


「だったら、警察に相談する」


たかしの顔が歪んだ。


「やめろ」


「何で?」


「……」


「たかし」


ゆたかが言った。


「お前、何を隠してる?」


長い沈黙。


やがて。


たかしが笑った。


「……全部だよ」


「え?」


「全部、俺だ」


ゆたかの顔が凍った。


たかしは俯いた。


「十二年前」


「……」


「しげるに嫌がらせをしたのも」


「……」


「みさきに嘘を吹き込んだのも」


「……」


「偽のメッセージを送ったのも」


「……」


「最近、みさきを追いかけてるのも」


たかしは顔を上げた。


「全部、俺だ」


ゆたかは言葉を失った。


「……どうして」


たかしは苦しそうに笑った。


「好きだったんだよ」


「みさきを?」


「ずっと」


拳を握る。


「でも、みさきは俺を見なかった」


「だから、しげるを?」


「しげるがいなくなれば、俺にも可能性があると思った」


「馬鹿なことを……」


「分かってる」


たかしは呟いた。


「でも、あの頃の俺は、それしか考えられなかった」


ゆたかは怒りに震えた。


「お前のせいで、しげるは島を出たんだぞ」


「知ってる」


「みさきだって苦しんだ」


「知ってる」


「じゃあ、なぜ今まで――」


「怖かったんだよ!」


たかしが叫んだ。


「全部ばれたら、俺の人生が終わる!」


静寂。


その声が夜の公園に響いた。


そして。


たかしは小さく呟いた。


「だから……もう一度、しげるを悪者にするしかなかった」


ゆたかはたかしを見つめた。


「……お前、一人でやったのか?」


たかしは答えなかった。


その沈黙が。


ゆたかには、何よりも不気味だった。


---


翌朝。


俺のスマートフォンが鳴った。


ゆたかからだった。


「もしもし?」


『しげる』


「なんや?」


『今から会えるか?』


「何か分かったんか?」


電話の向こうで。


ゆたかが息を吸った。


そして。


震える声で言った。


『……十二年前の犯人が分かった』


俺は立ち上がった。


「誰や?」


しばらく沈黙。


そして。


ゆたかが名前を口にした。


『たかしだ』


俺は何も言えなかった。


十二年前。


俺の人生を壊した嘘。


現在。


みさきを苦しめているストーカー。


その二つが。


一人の男につながった。

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