第17話 親衛隊の中の違和感
みさきが帰ったあと。
俺は玄関先に立ったまま、八人を見ていた。
誰も帰ろうとしない。
まるで、俺を監視しているようだった。
「……まだ何か用なん?」
ひろきが答える。
「別に」
「じゃあ帰れや」
「お前に言われる筋合いはない」
相変わらずだ。
十二年前と何も変わらない。
俺がため息をついたときだった。
「帰ろう」
なおきが言った。
「もう十分だろ」
「なおき、お前……」
ひろきが睨む。
「何?」
「お前、最近どうした?」
「どうしたって?」
「しげるを庇ってるように見える」
なおきは少し黙った。
「庇ってない」
「じゃあ何だ?」
「事実を確認してるだけだ」
その言葉に、ゆたかも反応した。
「俺も、なおきと同じだ」
「ゆたかまで?」
ひろきの顔が険しくなる。
ゆたかは冷静だった。
「今のところ、しげるが犯人だという直接的な証拠はない」
「でも、昔のことがある」
「昔のことと今のことは別だ」
「同じだろ」
「違う」
ゆたかが言い切った。
「今回の手紙は、しげるが佐渡に来る前から届いてる」
ひろきが黙った。
「それだけじゃない」
ゆたかは続けた。
「手紙の内容には、しげるが帰ってくる前にしか知り得ない情報もある」
「……」
「だから、少なくとも全部をしげる一人のせいにはできない」
その瞬間。
たかしが口を挟んだ。
「調べれば分かることだろ」
ゆたかがたかしを見る。
「何を?」
「昔のことだよ」
「どうやって?」
「ネットとか」
「そんなものに載ってない」
たかしが黙った。
俺は二人を見ていた。
何かがおかしい。
昨日まで。
全員が俺を疑っていた。
なのに。
今日は、ゆたかとなおきが疑問を口にしている。
そして――。
たかしだけが、それを嫌がっている。
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その夜。
親衛隊の八人は、いつもの場所に集まっていた。
昔から使っている公園。
高校時代。
みさきを守るために集まった場所だった。
「俺たちは、何のために集まってるんだ?」
たくやが言った。
ひろきが答える。
「みさきを守るためだ」
「それは分かってる」
たくやはベンチに座った。
「でも、何から?」
誰も答えない。
「しげるから?」
たくやが続ける。
「それとも……」
言葉を止める。
「何だよ」
けんじが聞く。
「いや」
たくやは首を振った。
「最近、変だと思わないか?」
まさるがスマートフォンから顔を上げる。
「何が?」
「事件のタイミング」
「タイミング?」
「しげるが帰ってくる前から、手紙が届いてる」
「だから?」
「それなのに、俺たちは最初からしげるだと思ってた」
沈黙。
「誰が最初に言った?」
たくやが聞く。
全員が黙った。
「……」
「ひろき?」
ひろきは答えない。
「たかし?」
たかしが顔を上げる。
「俺が何だよ」
「最初に『しげるじゃないか』って言ったの、誰だった?」
たくやは問いかけた。
たかしの表情が変わる。
「覚えてない」
「俺は覚えてる」
ゆたかが言った。
「たかしだ」
「……」
たかしは笑った。
「俺だって、そう思っただけだよ」
「なんで?」
「昔のことがあるから」
「それだけ?」
ゆたかの声は冷静だった。
「それだけだ」
たかしが答える。
だが。
なおきは黙ったまま、たかしを見ていた。
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「一つ確認したい」
ゆたかが言った。
「手紙のこと」
「何だ?」
「みさきから聞いた話と、俺たちが知ってる内容が違う」
ひろきが眉をひそめる。
「どういう意味だ?」
「みさきが俺たちに見せた手紙は一部だけだった」
「そうだな」
「でも、しげるには全部見せている」
「……」
「なぜだ?」
誰も答えなかった。
たくやが呟く。
「みさきは、しげるに本当のことを調べてほしいんじゃないか?」
「そうかもな」
なおきが言う。
「だったら」
ゆたかが続けた。
「俺たちが邪魔をする理由はない」
ひろきが立ち上がった。
「お前ら、何を言ってる?」
「事実の話だ」
「しげるは危険だ」
「証拠は?」
ひろきが黙る。
「十二年前のことか?」
ゆたかが聞く。
「それとも、今回のことか?」
ひろきの顔が険しくなる。
「俺はみさきを守る」
「それは俺も同じだ」
「だったら俺の邪魔をするな」
「違う」
ゆたかが立ち上がった。
「俺たちは、みさきを守るためにいる」
「……」
「しげるを憎むためじゃない」
その言葉に、誰も反論できなかった。
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帰り道。
なおきとたくやは二人で歩いていた。
「なあ、なおき」
「ん?」
「お前も思ってる?」
「何を?」
「たかしのこと」
なおきは少し黙った。
「……何か隠してる」
「やっぱり?」
「でも、まだ分からない」
「俺もだ」
たくやは空を見上げた。
「ただ」
「うん」
「しげるが犯人なら、説明できないことが多すぎる」
なおきが頷いた。
「だから調べる」
「俺たちだけで?」
「そうだ」
二人は歩き続けた。
その少し後ろ。
誰かが二人を見ていた。
暗い道。
街灯の下に、一瞬だけ姿が浮かぶ。
そして。
すぐに消えた。
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翌朝。
俺は一人で町を歩いていた。
スマートフォンを見る。
エレーヌからメッセージが来ている。
『ちゃんと眠れた?』
俺は笑った。
『あんまり眠れてへん』
すぐに返信が来た。
『帰ってきたら、ケーキを作ろう』
その文章を見て。
少しだけ心が軽くなった。
俺には、帰る場所がある。
大阪。
店。
そして、エレーヌ。
もう俺は十二年前の俺じゃない。
そう思った。
そのとき。
背後から声がした。
「しげる」
振り返る。
たかしだった。
「……何や?」
「少し話そう」
「何を?」
「昔のことだ」
俺は警戒した。
たかしが近づいてくる。
「お前、昨日の写真を見たんだろ?」
「……」
「高校時代の写真」
俺は息を止めた。
なぜ。
たかしがその写真の存在を知っている?
「なんで知ってる?」
たかしは答えなかった。
ただ、俺を見て。
小さく笑った。
「お前は、知らなくていい」
「何を知ってる?」
「……全部だよ」
「全部?」
たかしは一歩近づいた。
「十二年前、何があったのか」
俺は睨みつけた。
「なら教えろや」
「まだ早い」
「何が早いねん!」
たかしは背を向けた。
そして。
歩きながら言った。
「もうすぐ、全部終わるから」
その背中を見ながら。
俺は思った。
たかしは――。
何かを知っている。
そして。
俺がまだ知らない「何か」を。
誰よりも恐れている。
その日の夜。
たくやのスマートフォンに、一通のメッセージが届いた。
差出人は――。
不明。
文章は一行だけだった。
――余計なことを調べるな。
たくやは画面を見つめた。
「……誰だよ」
その直後。
もう一通。
――お前たち八人は、みさきを守るために集まったんだろ?
たくやの顔から血の気が引いた。
「なんで……」
最後のメッセージが届く。
――だったら、しげるを信じるな。
たくやはスマートフォンを握りしめた。
その背後。
窓の外には。
人影が立っていた。




