↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『地元に戻ると、俺がストーカーになっていた』  作者: こうた


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/20

第16話 みさきも、騙されていた



「しげる、いる?」


玄関の向こうから聞こえた声。


俺は写真を持ったまま、固まっていた。


みさき。


十二年ぶりに再会した初恋の女が、今、実家の前にいる。


「……出るわ」


俺が玄関へ向かう。


ドアを開ける。


そこに、みさきが立っていた。


昨日とは少し違う。


怯えているようには見えなかった。


ただ、緊張している。


「おはよう」


「……おはよう」


「突然、ごめんね」


「いや」


みさきは俺の父親に頭を下げた。


「お父さん、お久しぶりです」


「みさきちゃんか」


父親は複雑そうな顔をした。


「大きくなったな」


「もう三十ですから」


二人とも少し笑った。


でも。


俺は笑えなかった。


昨日見た手紙。


写真。


そして、十二年前の記憶。


全部が頭の中で絡まっていた。


「……中、入る?」


「うん」


みさきが家に入る。


俺たちは居間に座った。


しばらく誰も喋らなかった。


やがて。


みさきが口を開いた。


「昨日の手紙」


「うん」


「全部持ってきた」


テーブルの上に封筒を置いた。


「ありがとう」


俺は一枚ずつ並べる。


「これ、いつから?」


「三か月くらい前」


「三か月……」


「最初は、ただの嫌がらせだと思ってた」


「それが、だんだん変わった?」


「うん」


みさきは頷いた。


「私しか知らないことが書かれるようになった」


「体育館裏のことも?」


「……うん」


「シュークリームのことも?」


みさきの顔が固まった。


「それも……」


「誰かに話した?」


「話してない」


「昔の友達にも?」


「話してない」


俺は手紙を見つめた。


「じゃあ、誰が知ってる?」


みさきは答えなかった。


そして。


小さな声で言った。


「……一人だけ」


「誰?」


「私」


俺は顔を上げた。


「私の記憶を知ってるのは、私しかいないと思ってた」


「……」


「でも」


みさきは苦しそうに目を伏せた。


「違った」


---


十二年前。


高校三年。


放課後。


みさきは体育館裏にいた。


手には、小さな箱。


中にはシュークリームが入っていた。


「みさき」


振り返る。


しげるが立っている。


「来てくれたんだ」


「うん」


「これ……」


しげるが箱を渡す。


「俺、作ってみた」


「シュークリーム?」


「そう」


みさきは笑った。


「ありがとう」


一つ食べる。


「……美味しい」


「ほんま?」


「うん」


しげるが嬉しそうに笑った。


その顔が好きだった。


優しくて。


少し不器用で。


でも、誰より一生懸命だった。


「しげる」


「ん?」


「私ね」


胸がドキドキする。


「しげるのこと、好き」


しげるが目を見開く。


そして。


照れくさそうに笑った。


「俺も、みさきのこと好きや」


その瞬間。


みさきは幸せだった。


本当に。


この人と付き合えると思っていた。


卒業して。


いつか結婚して。


そんな未来まで、少しだけ想像していた。


――あの日までは。


---


翌日。


教室に入ると。


何人かの男子が、こちらを見ていた。


「みさき」


ひろきだった。


「何?」


「しげると付き合うの?」


「……え?」


「昨日、二人でいたよな」


みさきは顔を赤くした。


「なんで知ってるの?」


ひろきは笑った。


「見たから」


「……」


その日の昼休み。


たかしが来た。


「みさき」


「何?」


「しげるから、連絡来てない?」


「来てないよ」


「本当に?」


「うん」


たかしは少し考える。


「そうか」


その日の夜。


スマートフォンにメッセージが届いた。


送信者は――しげる。


『今日、どこにいた?』


みさきは少し驚いた。


でも。


返事をする。


『学校にいたよ』


しばらくして。


『誰と帰った?』


「……?」


少し嫌な感じがした。


でも、恋人になったばかりだから。


心配しているのかな。


そう思った。


次の日。


またメッセージが来た。


『俺以外の男と話すな』


みさきは画面を見つめた。


胸がざわついた。


「……しげる?」


昨日までの優しい彼と。


この文章が、どうしても結びつかなかった。


そして。


誰かが言った。


「みさき、見た?」


「何を?」


「しげるのメッセージ」


「……うん」


「やっぱり、ちょっと怖いよな」


「……」


その日から。


周りの人間が、少しずつ変わった。


「しげる、最近みさきのことばっかり見てる」


「家の近くでも見たって」


「帰り道もついてきてるらしい」


最初は信じなかった。


でも。


証拠のようなものが、次々と出てきた。


知らない番号から電話が来た。


『しげるに気をつけろ』


写真が送られてきた。


遠くから撮影された自分の写真。


そして。


『あいつはお前を監視している』


というメッセージ。


みさきは怖くなった。


それでも。


心のどこかでは、信じたかった。


「しげるは、そんな人じゃない」


そう思っていた。


だから。


本人に聞いた。


「これ、送った?」


しげるは否定した。


「送ってへん」


「本当に?」


「ほんまや」


みさきは迷った。


「じゃあ、なんで……」


「俺にも分からん」


そのとき。


後ろから、ひろきが言った。


「みさき」


振り返る。


「俺たちがいるから」


「……」


「怖かったら、俺たちが守る」


その言葉に。


みさきは救われた。


一人では怖かった。


だから。


彼らを信じた。


そして。


しげるから離れた。


「ごめんね」


そう言った。


しげるは泣きそうな顔をしていた。


「俺、ほんまに何もしてへん」


その言葉を聞いて。


胸が痛かった。


でも。


周囲の証拠を見れば見るほど。


「しげるがやった」


そう思うしかなくなっていった。


---


そして卒業の日。


しげるは、誰にも何も言わずに島を出た。


みさきは知らなかった。


その日の朝。


彼が何度も、自分の家の前まで行こうとして。


結局、行けなかったことを。


知らなかった。


---


現在。


みさきは俯いていた。


「私……」


「うん」


「ずっと、しげるくんがやったと思ってた」


「……」


「だって、証拠があったから」


「どんな証拠?」


「メッセージ」


「それだけ?」


「写真も」


「他には?」


みさきは黙った。


「……なかった」


「え?」


「今考えると」


みさきは顔を上げた。


「直接見たことは、一度もなかった」


俺は黙った。


「全部、人から聞いたことだった」


「……」


「誰かが見た」


「誰かが言ってた」


「誰かが証拠を見せてくれた」


みさきの目に涙が浮かぶ。


「私は、それを信じた」


俺は何も言えなかった。


みさきは涙を拭った。


「だから……」


「何?」


「今度は、自分で確かめたい」


その瞬間。


玄関の外から声がした。


「みさき!」


ひろきだった。


「もう帰る時間だ」


みさきは立ち上がった。


「うん」


そして玄関へ向かう。


だが。


俺は一つだけ聞いた。


「みさき」


「なに?」


「十二年前」


みさきが振り返る。


「俺を好きだったこと」


「……」


「本当やった?」


みさきは少しだけ笑った。


そして。


「うん」


小さく頷いた。


「本当に好きだった」


その言葉が。


胸の奥に刺さった。


嬉しいはずなのに。


苦しかった。


十二年前なら。


どれだけ嬉しかっただろう。


でも。


今は違う。


俺にはエレーヌがいる。


俺がこれから生きていく未来がある。


みさきにも。


きっと未来がある。


だから俺は、何も言わなかった。


みさきも、それ以上何も言わなかった。


玄関を出る。


外には八人の男たちが待っていた。


その中で。


たかしだけが、俺を見ていた。


その目は――。


昨日までとは違っていた。


まるで。


俺が何を知ったのかを、確かめるような目だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。