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『地元に戻ると、俺がストーカーになっていた』  作者: こうた


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14/20

第14話 俺しか知らないはずのこと


「二人で話したい」


みさきがそう言った。


けれど、俺たちの周りには八人の男がいる。


ひろき。


たかし。


ゆたか。


けんじ。


まさる。


こうじ。


なおき。


たくや。


誰も動こうとしない。


「……みさき」


ひろきが口を開く。


「俺たちは、お前を心配してるんだ」


「分かってる」


「だったら――」


「でも、私が聞きたいの」


みさきは俺を見た。


「本人にしか聞けないことがあるから」


ひろきは黙った。


そして、ゆっくりと俺を見る。


「……十分だけだ」


「ひろき!」


「十分だけ」


ひろきはそう言って、少し離れた。


他の七人も、それに従った。


ただし、完全に離れたわけではない。


いつでもこちらへ来られる距離。


「……監視されてるみたいやな」


俺が言うと、みさきは苦笑した。


「ごめん」


「みさきが謝ることちゃうやろ」


「でも……」


みさきは俯いた。


「私も、怖かったから」


「俺が?」


「……最初は」


胸が痛んだ。


「でも、今は違う」


「どう違うんや?」


「分からない」


みさきはバッグから封筒を取り出した。


「これ」


「手紙?」


「うん」


俺は受け取った。


白い封筒。


差出人はない。


中には一枚の紙。


そこには短い文章が書かれていた。


――昨日、病院の裏口から帰ったね。


俺は眉をひそめた。


「昨日?」


「そう」


「俺、昨日は実家や」


「分かってる」


「じゃあ、誰が……」


みさきは別の紙を取り出した。


――高校のときと同じだね。


俺の手が止まった。


「……これ」


「怖い?」


「そういう問題ちゃう」


さらに次の手紙。


――体育館裏で話したこと、覚えてる?


息が詰まった。


体育館裏。


十二年前。


俺とみさきが初めて、お互いの気持ちを伝えた場所。


それを知っている人間は多くない。


「これ……誰かに話したんか?」


「話してない」


「親にも?」


「言ってない」


「親衛隊は?」


みさきは首を横に振った。


「昔のことは、あまり話したくなかったから」


俺は紙を握った。


「じゃあ、なんで……」


みさきは黙っていた。


そして、もう一枚。


「これが一番怖かった」


そう言って渡してきた。


紙には――。


――あの日、しげるは「俺も好きや」って言った。


俺は言葉を失った。


「……」


「これ」


みさきの声が震えた。


「私としげるくんしか知らないと思ってた」


俺は紙を見つめた。


確かに。


あの言葉を言ったのは俺だけだ。


みさきも覚えている。


他の誰にも話していない。


少なくとも俺は。


「……俺ちゃう」


「うん」


「信じてくれるんか?」


みさきは少し考えた。


「分からない」


正直な答えだった。


「でも、しげるくんが佐渡に帰ってきたのは昨日なんだよね?」


「そうや」


「この手紙は、一週間前に届いた」


「……」


俺は黙った。


それなら俺には書けない。


理屈ではそうなる。


だが。


別の疑問が生まれた。


「みさき」


「なに?」


「誰かに話してへんか?」


「だから、話してない」


「本当に?」


「うん」


みさきは真っ直ぐ俺を見る。


「私も知りたい」


---


少し離れた場所で、八人がこちらを見ていた。


ひろきは腕を組んでいる。


けんじは苛立ったように地面を蹴っていた。


まさるはスマートフォンを見ている。


こうじは腕を組んだまま無言。


なおきは俺たちではなく、周囲を見ていた。


そして。


たくやだけが、何度も俺と手紙を交互に見ていた。


「なあ」


たくやが言った。


「なんだ?」


ゆたかが振り返る。


「これ、変じゃね?」


「何が?」


「しげるが犯人なら」


たくやは声を落とした。


「一週間前の手紙は説明できないだろ」


「……」


ゆたかが黙った。


たくやは続けた。


「それに、体育館裏の話まで知ってる」


ひろきが割って入った。


「昔の話を調べたんだろ」


「どうやって?」


「同級生から聞いたとか」


「誰から?」


ひろきは答えなかった。


「それにさ」


たくやが続けた。


「俺たちだって知らないんだぞ」


その場が静かになった。


確かに。


八人の中でさえ、知らない情報だった。


「……誰かが調べたんだよ」


ひろきが言った。


「それで終わりだ」


たくやは納得していなかった。


---


俺はみさきに手紙を返した。


「これ、全部見せてもらえるか?」


「全部?」


「うん」


「何に使うの?」


「犯人探す」


みさきは驚いた。


「犯人を?」


「俺がやってないなら、誰かがやってる」


「……」


「俺は、自分の無実を証明したい」


みさきはしばらく黙った。


「分かった」


そのときだった。


後ろから声がした。


「みさき!」


ひろきだった。


「もう十分だ」


「まだ話してる」


「帰るぞ」


「ひろき――」


「危ない」


ひろきが俺を見る。


「お前と二人で話す必要なんてない」


俺は立ち上がった。


「お前らは、何をそんなに怖がってるんや?」


ひろきの表情が固まった。


「俺がみさきに何かすることを?」


「……」


「それとも」


俺は八人を見回した。


「別の何かを恐れてるんか?」


誰も答えなかった。


その沈黙が、妙に気になった。


すると。


たかしが近づいてきた。


「しげる」


「なんや?」


「お前は知らない方がいい」


「何を?」


「昔のことだよ」


「俺の昔やぞ」


「だからだ」


たかしは低い声で言った。


「知れば、また傷つく」


「……」


その言葉だけが、妙に引っかかった。


なぜだ。


なぜ、たかしはそんなことを言う?


まるで――。


十二年前のことを、俺以上に知っているようだった。


「たかし」


「なんだ?」


「お前、あの頃のこと……何か知ってるんか?」


たかしは笑った。


「何も知らない」


「ほんまに?」


「ああ」


そう言って、俺の肩を軽く叩いた。


「もう忘れろよ」


そして離れていった。


俺は、その背中を見つめた。


忘れろ。


その言葉を、十二年前にも聞いた。


――諦めろよ。


あのとき、たかしが俺に言った言葉。


偶然なのか。


それとも――。


---


その夜。


実家の部屋で、俺は一人、机に向かっていた。


みさきから預かった手紙を、スマートフォンで撮影していた。


一枚。


二枚。


三枚。


全部、内容を確認する。


日付。


文章。


筆跡。


封筒。


そして――。


俺は、一枚の手紙で手を止めた。


そこには、


――君は、今でも甘いものが好きなんだね。


そう書いてあった。


「……なんや、これ」


俺は眉をひそめた。


俺が菓子職人になったことは、島でも知られている。


だが。


その次の一文を読んで、背筋が冷たくなった。


――昔、体育館裏で食べたシュークリームみたいに。


「……」


シュークリーム。


あの日。


体育館裏で、俺はみさきに手作りのシュークリームを渡した。


「美味しい」


そう言って、みさきは笑った。


そのことを――。


俺たちは誰にも話していない。


俺は椅子から立ち上がった。


「……誰や」


部屋の中に、自分の声だけが響く。


その瞬間。


スマートフォンが震えた。


知らない番号からメッセージが届いた。


一枚の写真。


開く。


そこには――。


高校時代の俺と、みさきが写っていた。


体育館の裏。


二人きりで笑っている写真。


「……なんで、こんな写真が……」


そして写真の下に、一行。


――次は、あの頃の続きを始めよう。


俺は画面を見つめた。


十二年前に終わったはずの話が。


今、もう一度――。


動き始めていた。

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