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『地元に戻ると、俺がストーカーになっていた』  作者: こうた


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第11話 佐渡に帰ってきて



佐渡へ帰る。


そう決めてから。


俺は三日間、悩み続けた。


店をどうするか。


スタッフには何と説明するか。


エレーヌにはどう話すか。


何より。


本当に帰っていいのか。


それが分からなかった。


「行ってきて」


エレーヌは、あっさり言った。


「……ええの?」


「うん」


「俺、一週間くらい店を離れるかもしれんで」


「大丈夫」


「迷惑かけるかもしれへん」


「それでも行ったほうがいい」


エレーヌは俺の手を握った。


「あなた、ずっと佐渡の話をすると苦しそうな顔をする」


「……」


「だから、一度ちゃんと向き合ったほうがいいと思う」


「怖くないん?」


「怖いよ」


「何で?」


「あなたが帰ってこなくなったら困るから」


そう言って笑った。


「でも、あなたなら帰ってくる」


「……なんで?」


「私の婚約者だから」


俺は笑ってしまった。


「それ、理由になってへんやろ」


「私にとっては十分」


その言葉に。


少しだけ気持ちが軽くなった。


そして。


俺は佐渡へ向かった。


フェリーの甲板。


海風が強い。


遠くに島が見える。


十二年前。


俺は反対方向へ向かう船に乗っていた。


あの日は。


二度と戻らないつもりだった。


そして今。


自分から戻ろうとしている。


「……変な気分やな」


俺は一人で呟いた。


港に着く。


父さんが車で迎えに来ていた。


「久しぶりだな」


「……うん」


それだけだった。


車に乗る。


会話がない。


昔なら。


何でも話したはずなのに。


今は。


何を話せばいいのか分からなかった。


しばらく走ると。


見慣れた道が現れた。


「ここ……」


「覚えてるか?」


「覚えてる」


学校へ続く道。


昔通っていた商店。


海沿いの道。


全部。


十二年前のままだった。


いや。


正確には。


少しずつ変わっている。


店がなくなっていたり。


新しい建物ができていたり。


でも。


俺の記憶に残っている景色は。


確かにそこにあった。


家に着く。


母さんが玄関で待っていた。


「しげる……」


「ただいま」


その言葉を口にした瞬間。


自分でも驚いた。


十二年ぶりに。


自然に出た。


母さんは泣いた。


「大きくなったね」


「もう三十歳やで」


「母親からしたら、いつまでも子供だよ」


俺は苦笑した。


家の中に入る。


懐かしい匂いがした。


でも。


落ち着かなかった。


夕食のあと。


俺は父さんに聞いた。


「それで」


「ん?」


「何で俺を呼んだん?」


父さんは箸を置いた。


「みさきちゃんのことだ」


やっぱり。


「ストーカーの件?」


「ああ」


「俺はやってへん」


「分かってる」


その言葉に。


俺は父さんを見る。


「……本当に?」


「ああ」


「じゃあ、何でみんな俺だって言ってるん?」


父さんは答えなかった。


代わりに。


「明日、みさきちゃん本人から聞いたほうがいい」


「本人から?」


「そうだ」


「どこで?」


「病院だ」


「病院?」


「みさきちゃん、看護師やってるだろ」


「ああ」


「明日、仕事が終わったら会うことになってる」


俺は頷いた。


その夜。


布団に入った。


眠れない。


天井を見つめる。


十二年前。


みさきに告白された。


俺も好きだと言った。


それから。


すべてが壊れた。


もし。


あのとき。


誰かに相談していたら。


もし。


もっと強く否定していたら。


もし。


みさきを信じていたら。


人生は変わっていたのだろうか。


考えても。


答えは出ない。


翌日。


俺は一人で町を歩いた。


昔の学校まで行ってみた。


校舎は建て替えられていた。


でも。


体育館は残っていた。


俺がみさきに告白された場所。


俺が最後に彼女を見た場所。


足が止まった。


「……ここか」


そのとき。


後ろから声がした。


「お前……」


振り返る。


男が立っていた。


三十歳くらい。


見覚えがある。


「……ひろき?」


ひろきだった。


十二年前と比べて。


顔つきが変わっていた。


でも。


俺を見る目だけは。


あの頃と同じだった。


敵を見る目。


「久しぶりだな」


「……ああ」


ひろきが近づいてくる。


「よく帰ってこられたな」


「親に呼ばれたからや」


「そうか」


「何や?」


ひろきは答えなかった。


しばらく俺を見て。


言った。


「みさきには近づくな」


「……またそれか」


「お前が何を言おうと、俺たちは信じない」


「俺たち?」


ひろきが振り返った。


その向こうから。


男が何人も歩いてくる。


一人。


二人。


三人。


次々と。


その中に。


見覚えのある顔があった。


「……たかし」


たかしは。


何も言わなかった。


ただ。


俺をじっと見ていた。


ひろきが言う。


「俺たちは、みさきを守ってる」


「……十年以上も?」


「そうだ」


「お前ら、何やねん」


ひろきの表情が険しくなる。


「お前に関係ない」


「関係あるやろ」


「ない」


「俺は何もしてへん」


「それを決めるのは、お前じゃない」


その言葉に。


俺は拳を握った。


すると。


たかしが初めて口を開いた。


「しげる」


「……何や?」


「お前、本当に何もしてないんだな?」


「してへん」


たかしは。


俺の目を見た。


そして。


小さく笑った。


「……そうか」


「何やねん」


「いや」


たかしは首を振った。


「だったら、これから分かるよ」


「何が?」


たかしは答えなかった。


男たちは。


そのまま去っていった。


俺はその背中を見つめた。


そして思った。


十二年前。


俺を孤立させたのも。


今。


みさきの周りにいるのも。


同じ男たち。


偶然とは。


とても思えなかった。


俺が佐渡を離れて十二年。


なのに。


あいつらは。


まだ同じ場所にいる。


そして。


みさきを守っていると言う。


一体。


何から?


俺から?


それとも――


俺がまだ知らない。


別の何かから。

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