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九龍の華 ―死んだはずの大学生、平安の世で天下を読む―』  作者: あめのひくもり


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4/21

第四話 都への道

刺客に襲われた翌朝。


華は宿の天井を見ながら、一つの結論に達した。


「痛い」


左腕が痛い。


昨夜までは大した傷ではないと思っていた。


実際、傷は浅い。


だが一晩寝ると痛みが増している。


身体を起こす。


「痛っ」


もう一度言った。


「うるさい」


隣から声がした。


五条だ。


「怪我人に冷たくない?」


「怪我人は黙って寝ていろ」


「昨日は歩けって言っただろ」


「昨日と今日は違う」


「都合いいな」


「生きるとはそういうことだ」


何だその理屈。


華は左腕を見る。


布が巻かれている。


血は止まっていた。


「傷、腫れてない?」


「少しな」


「熱は?」


五条が華の額へ手を当てる。


「ない」


「なら大丈夫か」


「何が」


「感染」


五条の手が止まった。


「かんせん?」


まただ。


華はしまったと思った。


「傷が腐ること」


「それならそう言え」


「高野山では感染って言う」


「嘘をつけ」


「最近の若者は言う」


「お前以外から聞いたことがない」


五条は妙に勘がいい。


説庵と同じ種類だ。


面倒くさい。


「傷は洗った?」


「昨日な」


「何で?」


「水」


華は眉を寄せた。


「煮た?」


「なぜ水を煮る」


「……五条」


「何だ」


「今すぐ水を沸かして」


「飲むのか」


「傷を洗う」


五条の目が細くなった。


「昨日洗った」


「もう一回」


「必要ない」


「ある」


「なぜだ」


華は説明しようとして止まった。


細菌。


感染症。


消毒。


この時代にどう説明する。


「水には目に見えない小さな生き物がいる」


「…………」


五条が華を見る。


完全に変なものを見る目だ。


「本当だから」


「熱でもあるのか」


「ないって自分で言っただろ!」


五条はため息をついた。


それでも水を沸かしに行った。


何だかんだ言って、頼めばやる。


悪い人ではない。


     ◇


宿を出たのは昼前だった。


華の提案で街道を外した。


「本当にこちらへ行くのか」


五条が聞く。


「うん」


「都へ行くなら遠回りだ」


「だから行く」


華は歩きながら答える。


「昨日襲った人たちは、俺たちが都へ向かうことを知ってた」


「当然だ」


「出発日も知ってた」


「そうだな」


「なら次に待つ場所は?」


五条が黙る。


「街道」


「可能性は高い」


「だから外れる」


「だが山道なら襲撃されたとき逃げにくい」


「逆」


華は答えた。


「十二人とか二十人で来られたら、広い場所の方が不利だろ」


五条が華を見る。


「狭い場所なら同時に戦える人数が減る」


「そう」


「どこで覚えた」


「オジィ」


嘘ではない。


説庵からも似たようなことは教わった。


ただし華が最初に思い出したのは、前世で読んだ兵法書だった。


「もう一つ」


華が言う。


「何だ」


「俺たちが予定と違う道を通ったことを、相手がどれくらい早く知るか確認したい」


五条が止まった。


華も止まる。


「もし今日か明日、また襲われたら?」


華が言った。


五条の目が鋭くなる。


「我々の位置を追っている者がいる」


「そういうこと」


「襲われなければ」


「最初の情報だけで動いてる可能性が高い」


五条はしばらく黙っていた。


「十四歳の考えることではないな」


「またそれ?」


「普通は刺客に襲われた翌日に、敵の情報伝達速度を測ろうとは考えない」


華は歩き出した。


「殺されるよりいい」


五条も歩く。


「一つ間違っている」


「何?」


「お前は自分を囮にしている」


華は答えなかった。


「危険だ」


「五条がいる」


五条が足を止めた。


華は数歩進んでから振り返る。


「何?」


「いや」


五条は再び歩き始めた。


「勝手に死ぬな」


「護衛だから?」


「仕事が増える」


「死んだら減るだろ」


「説庵様に殺される」


それは確かに。


二人は歩き続けた。


     ◇


九龍国の都。


平安京を思わせる碁盤目状の大路の中心に、巨大な皇宮がある。


その北東。


雅山大公主の邸宅。


皇帝の妹という身分にふさわしく、広大な屋敷だった。


しかし華美ではない。


庭も建物も整然としている。


無駄なものがほとんどない。


その奥。


女主人の私室に、一人の若い男がいた。


平司。


十九歳。


関白・平岳の次男。


参議。


英姫より半年年長。


若くして公卿の列に加わった男である。


「失敗したそうね」


女が言った。


御簾の向こう。


姿は完全には見えない。


だが声には妙な艶がある。


雅山大公主。


皇帝・大和武尊の妹。


司は杯を置いた。


「十二人程度では足りなかったようです」


「程度?」


雅山が笑う。


「あなたが選んだ十二人でしょう」


「五条が予想以上でした」


「橘華は?」


「二人を倒したとの報告です」


「二人?」


「少なくとも」


御簾の向こうから衣擦れの音。


雅山が姿を現した。


三十代半ば。


皇帝と同じ血を引くだけあって整った容貌。


だが兄とは違う。


大和武尊が人を圧するなら、この女は人を引き込む。


雅山は司の前に座った。


距離が近い。


「十四歳でしょう?」


「高野山で説庵大僧正に育てられています」


「だから?」


「普通の十四歳ではありません」


雅山が司の頬に指を触れた。


「怖いの?」


司はその手を取った。


「まさか」


「そう」


二人の距離がさらに縮まる。


これは皇族と臣下の距離ではない。


「兄上のときも」


雅山が囁く。


「あなたはそう言ったわね」


司の目が僅かに動いた。


「藤宮兄上の話は関係ありません」


「あるでしょう?」


雅山が笑う。


「あなたは、あの人が怖かった」


「…………」


「何をしても勝てなかった」


司の手に力が入る。


「学問でも」


雅山が続ける。


「武でも」


「おやめください」


「父親からの信頼も」


「大公主様」


「皇帝からの評価も」


司が雅山の腕を掴んだ。


強く。


普通なら無礼では済まない。


雅山は怒らない。


むしろ楽しそうだった。


「その顔」


「…………」


「好きよ」


司が手を離す。


雅山は自分の腕を見る。


赤く跡が残っている。


「安心なさい」


雅山が言った。


「藤宮はもう立てない」


司は答えない。


「あなたがそうしたのだから」


静寂。


司が低い声で言った。


「死ぬ予定でした」


「それは残念だったわね」


「英姫が余計なことをした」


「妹を恨むものではないわ」


「恨んでいません」


「なら?」


「兄を治そうとしているのが気に入らないだけです」


雅山は笑った。


「同じでしょう」


司は杯を取った。


「華への二度目の襲撃は中止します」


雅山の笑みが消えた。


「なぜ?」


「一度失敗した直後です。蔵人頭も動いている」


「源義弘」


「はい」


「厄介ね」


「それに」


司が雅山を見る。


「最初の刺客に大公主家の印を持たせたのは、やりすぎです」


雅山は微笑んだ。


「何の話?」


「私には必要ありません」


「だから何の話?」


司はしばらく雅山を見た。


「……そういうことにしておきましょう」


「賢い子ね」


雅山が司の肩に手を置く。


「だから好きよ」


司は動かない。


「約束は」


突然言った。


雅山の目が細くなる。


「何の?」


「手形です」


「持っているでしょう」


「確認しているだけです」


雅山は立ち上がった。


「兄上が死ぬ」


一歩。


「橘華も死ぬ」


もう一歩。


「あなたの父も、関白の座から退く」


司は黙って聞く。


「その後」


雅山が振り返った。


「平家を継ぐのはあなた」


司の目が光る。


「そして――」


雅山は微笑んだ。


「次の関白も、あなたよ」


平司は深く頭を下げた。


しかし。


頭を下げながら、その表情には笑みが浮かんでいた。


     ◇


関白邸。


同じ頃。


平藤宮は庭を眺めていた。


いつもの輿椅子。


膝には掛物。


傍から見れば、下半身の自由を完全に失った青年。


「兄上」


声。


藤宮が振り返る。


平司だった。


「戻ったのか」


「はい」


司が近づく。


「今日は随分遅かったな」


「参議の仕事が立て込んでおりまして」


「そうか」


「兄上は?」


「見ての通りだ」


藤宮は自分の脚を見る。


「暇なものだ」


司が笑う。


「そのような言い方は」


「事実だろう」


「英姫も必ず治すと言っております」


藤宮の目が僅かに細くなる。


「そうだな」


「何か?」


「いや」


藤宮は庭へ目を戻した。


司が背後に立つ。


「そういえば」


藤宮が何気なく言った。


「高野山から太政大臣の息子が戻るらしいな」


司の呼吸。


変化なし。


「橘華ですね」


「知っているのか」


「都では噂になっています」


「十四歳だったか」


「そのようです」


「昨日、襲われたそうだ」


ほんの僅か。


本当に僅か。


司の右手の人差し指が動いた。


藤宮は庭を見ている。


「物騒ですね」


司が言った。


「まったくだ」


「犯人は?」


「大公主家の印が出たらしい」


今度も司は動かなかった。


「それは……」


「分かりやすすぎると思わないか」


藤宮が振り返る。


兄弟の目が合う。


「私には分かりません」


司は微笑んだ。


「政治の裏を読むことでは、兄上にはかないませんから」


「そうか」


「はい」


「ならば」


藤宮も微笑んだ。


「お前は幸せだな」


司の笑みが僅かに固まる。


「どういう意味でしょう」


「知らぬ方が幸せなこともある」


「……そうですね」


司は頭を下げた。


「失礼いたします」


去っていく。


藤宮はその背中を見ていた。


足音が完全に消える。


「出てこい」


庭の奥から男が現れた。


「どうだった」


藤宮が聞く。


「参議様は今朝、登朝されました」


「その後」


「午前中に皇宮を退出」


「どこへ」


男は躊躇した。


「雅山大公主邸へ」


藤宮は目を閉じた。


「滞在は」


「二刻ほど」


長い。


政治的な面会にしては長すぎる。


「二人きりか」


「奥へ通されております」


藤宮の顔から表情が消えた。


「そうか」


「若様」


「何だ」


「やはり、参議様が……」


「まだ決めるな」


藤宮は鋭く言った。


「証拠がない」


「しかし」


「疑いと事実を混ぜるな」


男が頭を下げる。


「申し訳ございません」


藤宮は輿椅子の肘掛けを握った。


弟を疑いたいわけではない。


だが。


一年前。


自分が崖から落ちた日。


なぜか護衛の配置が変えられていた。


変更を命じた文書には父・平岳の印があった。


偽物だった。


そして、その文書を運んだ役人が三日後に死んだ。


偶然。


そう片づけるには、出来すぎている。


「橘華を見ておけ」


「はっ」


「ただし手を出すな」


「守らなくてもよろしいので?」


藤宮は少し考えた。


「五条がいる」


「はい」


「源義弘も動いている」


「はい」


「ならば」


藤宮が庭を見る。


「今は、どう生き延びるかを見る」


「試すのでございますか」


「違う」


藤宮の声が低くなる。


「見極める」


「何を」


藤宮は答えた。


「橘優希が、この世に何を残したのかを」


     ◇


華と五条は、街道から大きく外れた山道を進んでいた。


夕方。


「五条」


「何だ」


「腹減った」


「我慢しろ」


「昼も食べてない」


「お前が道を変えたから宿がない」


「そこまで考えてなかった」


「十四歳だな」


「そういう時だけ年齢使うのやめて」


五条が立ち止まった。


前方。


小さな集落が見える。


十数軒。


「村だ」


華の顔が明るくなる。


「飯!」


「先に宿だ」


「飯!」


「子供か」


「十四歳」


「都合よく使うな」


二人は村へ入った。


小さな農村だった。


田畑。


家。


井戸。


だが。


妙だ。


人が少ない。


「五条」


「ああ」


気づいている。


村人はいる。


しかし皆、こちらを警戒している。


そして。


一軒の家の前に人が集まっていた。


泣き声。


華が足を止める。


「何だろ」


「関わるな」


「まだ何も言ってない」


「顔に書いてある」


華は人だかりを見る。


子供の泣き声。


女の声。


「お願いです! 誰か!」


華の足が動いた。


五条が腕を掴む。


「華」


「見るだけ」


「お前の『見るだけ』は信用できない」


「本当に見るだけ」


「昨日も刺客を逃がして『見る』と言った」


「関係ないだろ」


華は五条の手を外した。


人だかりへ向かう。


五条がため息をついて後を追う。


家の前。


母親らしき女性が泣いている。


「どうしたんですか」


華が聞く。


村人が警戒しながら答えた。


「子供が……」


家の中。


十歳ほどの男児が寝かされている。


顔が赤い。


息が荒い。


「熱?」


「三日前から」


母親が泣きながら言う。


「昨日から息ができなくなって……」


華が近づこうとする。


村人が止める。


「触るな!」


「どうして?」


「移る病かもしれん!」


華は止まった。


感染症。


あり得る。


「医者は?」


「こんな山村には来ない」


「近くにいない?」


村人たちが顔を見合わせる。


一人の老人が言った。


「一人だけ……」


「いるの?」


「だが、変わった医者だ」


「変わった?」


「若い女だ」


華の眉が動く。


「女医?」


老人には意味が通じなかったらしい。


「女の医者だ。京から時々この辺りまで来る」


「呼べない?」


「今朝、隣村へ入ったと聞いた」


華が五条を見る。


五条は嫌そうな顔をしている。


「行く気か」


「近い?」


老人が答える。


「山を越えて半刻ほど」


華は母親を見る。


子供。


呼吸が苦しそうだ。


「五条」


「断る」


「まだ何も言ってない」


「顔に書いてある」


「子供が死ぬかもしれない」


「我々には関係ない」


正しい。


冷たいが、正しい。


華自身が狙われている。


寄り道をするべきではない。


頭では分かる。


だが。


「行こう」


「華」


「半刻だろ」


「往復で一刻」


「走ればもっと早い」


五条が華を見る。


「お前は本当に面倒だな」


「よく言われる」


「誰に」


「オジィ」


「だろうな」


五条は空を見る。


日没までまだ時間はある。


「場所を聞け」


「行ってくれる?」


「お前一人で行かせる方が危険だ」


「ありがとう」


「礼はいらん」


「何で?」


「後で説庵様に請求する」


「金取るのかよ」


二人は走り出した。


     ◇


隣村。


村外れの小さな家。


その前に人が並んでいた。


「ここ?」


華が息を整える。


「らしい」


五条は息一つ乱れていない。


腹が立つ。


家の入口。


粗末な布が掛けられている。


薬草の匂い。


華は中を覗いた。


若い女がいた。


地味。


とにかく地味だった。


くすんだ色の衣。


髪も簡単にまとめているだけ。


化粧気はない。


顔にはそばかす。


都の姫君や貴族の娘とは正反対。


どう見ても田舎の娘だ。


その女が老人の腕を触っていた。


「ここは?」


「痛い」


「では、こちらは」


「そこは大丈夫じゃ」


女は頷く。


「骨ではありません。筋を痛めています」


声は落ち着いている。


「三日は重いものを持たないでください」


「畑がある」


「持ったら治るのに十日かかります」


「しかし」


「三日休むか、十日働けなくなるか。好きな方を選んでください」


老人が黙った。


華は思った。


言い方が妙に合理的だ。


女が顔を上げた。


華と目が合う。


一瞬。


華は何か違和感を覚えた。


何だ?


見た目ではない。


目。


田舎の町医者とは思えない。


観察する目だ。


こちらの服。


刀。


左腕の傷。


五条。


全部を一瞬で見た。


「次の方」


女が言う。


華が入る。


「患者は俺じゃない」


「左腕」


女が指した。


「化膿しかけています」


華は自分の腕を見る。


「これ?」


「誰が処置しました?」


「五条」


「水で洗った?」


「はい」


「煮沸した水?」


華が固まった。


女も止まった。


数秒。


二人が見つめ合う。


五条だけが意味を分かっていない。


華が聞いた。


「今、何て言った?」


女の目が僅かに細くなる。


「水を一度煮立たせてから冷ましたものです」


「どうして?」


試す。


華はわざと聞いた。


女は少し考えた。


「傷が腐りにくくなるから」


「なぜ?」


「…………」


女が華を見る。


今度は明らかに警戒している。


「質問の多い方ですね」


「よく言われる」


「誰に?」


「オジィ」


女の口元が僅かに緩んだ。


「変わったお祖父様ですね」


「祖父じゃないけど」


華は一歩近づいた。


「患者がいる」


「どんな?」


「十歳くらいの男の子。三日前から高熱。昨日から呼吸が苦しい」


女の表情が変わった。


町医者の顔になった。


「咳は?」


「分からない」


「痰は?」


「分からない」


「胸の痛み」


「聞いてない」


女が立ち上がった。


「場所は?」


「隣村」


「案内してください」


即答。


道具をまとめ始める。


奥からもう一人の女性が出てきた。


二十代半ば。


こちらも地味な衣装。


しかし五条の目が変わった。


華は気づいた。


この女性。


歩き方が違う。


普通の侍女ではない。


「先生」


女性が言った。


「今日はもう」


「子供です」


それだけ。


女性は何も言わなくなった。


「分かりました」


薬箱を持つ。


華が聞く。


「あなたは?」


「すみれです」


「助手?」


すみれは少し考えた。


「そのようなものです」


町医者の女が華を見る。


「あなたは?」


「橘華」


すみれの手が止まった。


ほんの一瞬。


町医者の女も。


だが。


すぐに元へ戻る。


華は見逃さなかった。


「知ってる?」


「いいえ」


女が答えた。


「珍しいお名前なので」


嘘だ。


華には分かった。


だが追及しなかった。


「先生の名前は?」


華が聞く。


女は薬箱を持った。


そして答えた。


「英と申します」


「英先生?」


「皆、そう呼びます」


華は頷いた。


このとき。


橘華は知らなかった。


目の前にいる、そばかすだらけの野暮ったい町医者。


その女が。


関白・平岳の一人娘――


平英姫


その人であることを。


そして英姫もまた。


自分の前に突然現れた少年が、


自らの出生に関わる最大の秘密へつながる人物であることを。


まだ知らなかった。


     ◇


「行きましょう」


英先生が言った。


五条が華の横へ来る。


小声。


「華」


「何?」


「気をつけろ」


「先生に?」


「違う」


五条の視線は、すみれへ向いていた。


「あの女」


「すみれさん?」


「強い」


「どれくらい?」


「分からん」


「五条より?」


「それはない」


即答。


妙なところで自信がある。


「でも普通じゃない?」


「ああ」


華は前を歩く二人を見る。


地味な町医者。


その助手。


どう見ても普通。


なのに。


何かがおかしい。


華は少し笑った。


都へ近づくほど。


普通の人間が減っている気がする。


その予感は――。


残念ながら。


完全に正しかった。


第四話 都への道 了

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