第十六話 死なせないための戦
第十六話 死なせないための戦
鳳国軍、一万二千。
大亀国艦隊、上陸開始。
海陸国反乱軍、停戦交渉中。
九龍軍先鋒、三千。
数字だけ見れば。
どう考えても。
九龍国側が不利だった。
◇
「本隊は?」
華が聞く。
景親が答える。
「明日には一部が到着する」
「全部じゃない?」
「無理だ」
「何人」
「四千」
華は地図を見る。
先鋒三千。
増援四千。
計七千。
鳳国軍だけで一万二千。
さらに大亀国。
上陸兵力は不明。
海陸国軍も。
完全に味方ではない。
「正面からやったら」
華が言う。
「負ける?」
部屋が静かになる。
武将の一人が顔をしかめた。
景親は答えた。
「普通にやればな」
華はその言葉を聞いて。
少しだけ安心した。
強がらない。
この人は。
戦場で。
数字を誤魔化さない。
「じゃあ」
華は言った。
「普通にやらなければいい」
何人かの武将が華を見る。
もう。
誰も笑わない。
少なくとも。
前ほどは。
◇
「まず」
華は海陸国軍の位置を指す。
「ここ」
景親が見る。
「停戦交渉中だ」
「味方にできない?」
「無理だろう」
「完全な味方じゃなくていい」
「では」
「動かないでいてもらう」
景親が少し考える。
「鳳国と大亀国に加わらせない」
「はい」
「どうする」
華は言う。
「今まで通り」
「何が」
「本当のことを見せる」
景親の目が動く。
「鳳国は」
華が言う。
「海陸国のために戦ってない」
一つ。
「大亀国も」
二つ。
「九龍国を削りたいだけ」
三つ。
「だから」
「海陸国軍には」
一拍。
「自分たちの国を守るなら、どちらにも付くなって」
景親は腕を組む。
「中立を求める?」
「今だけ」
華は答えた。
「戦争が終わった後」
少し。
「海陸国との関係は」
「やり直せばいい」
景親の眉が動く。
「属国だぞ」
「だから」
華は言う。
「反乱された」
部屋。
静か。
かなり危ない発言だ。
九龍国の支配そのものを。
疑っている。
景親が華を見る。
怒らない。
ただ。
「お前」
「はい」
「それを皇帝の前でも言うか」
華は少し考えた。
「内容によります」
景親。
口元が。
僅かに緩む。
「少しは都を覚えたな」
「命大事なので」
「結構」
◇
次に。
華は南。
大亀国軍。
「大亀国は」
景親が言う。
「海から来る」
「海軍強い?」
「六国でも上位」
「九龍国は」
「陸ほどではない」
華は考える。
海。
船。
港。
補給。
上陸。
前世。
歴史。
いくつも。
浮かぶ。
「上陸したら」
「うん」
「船に戻らないと困る?」
景親が華を見る。
「何が言いたい」
「物資」
華は言う。
「全部船から来るでしょ」
「当然だ」
「なら」
指。
海岸。
「船を沈めるんじゃなくて」
一拍。
「陸との間を切る」
「どうやって」
「夜」
華が言う。
「小舟」
「火」
武将の一人が言う。
「火攻めか」
「半分違う」
華は答える。
「船じゃなくて」
「桟橋」
「荷揚げ場」
「倉」
「小舟」
「大型船は残す」
景親。
目。
変わる。
「なぜ」
「帰れるようにするため」
部屋。
少し静か。
「追い詰めたら」
華は言う。
「死ぬまで戦う」
一拍。
「逃げ道を残せば」
「逃げる?」
「少なくとも」
華は少し考える。
「死ぬ以外の選択肢がある」
景親が。
長く。
華を見る。
「お前は」
「はい」
「敵を殺したいのか」
華の目が。
少し下がる。
「殺したくないです」
「でも」
「必要なら」
一拍。
「殺す」
華は答えた。
「ただ」
「うん」
「必要じゃないのに殺すのは」
華は言う。
「嫌です」
景親は。
何も言わなかった。
ただ。
「分かった」
一言。
◇
最後。
鳳国。
一万二千。
陸軍。
強い。
正面。
これが。
一番厄介。
「こっちは」
華が地図を見る。
「補給路切るだけじゃ止まらない?」
「鳳国軍は山岳戦に強い」
「兵站も」
「固い」
「なら」
華は考える。
「戦う場所を選ぶ」
景親が頷く。
「どこだ」
華は。
地図。
川。
湿地。
細い道。
「ここ」
「平野ではないな」
「狭い」
「うむ」
「でも」
華は言う。
「海陸国側に抜けるには便利」
景親。
理解する。
「誘う?」
「はい」
「囮は」
華が黙る。
景親が見る。
「まさか」
華が。
少し笑う。
「俺」
五条が。
即座に。
「却下」
部屋中。
一瞬。
静か。
華が五条を見る。
「まだ全部言ってない」
「言わなくても分かる」
「でも」
「却下」
「軍監」
「護衛対象」
「勅命」
「知ったことか」
景親が。
珍しく。
笑った。
「五条」
「何だ」
「今回は私も同意だ」
華が。
不満そう。
「何で」
景親が答える。
「敵が」
一拍。
「お前を殺したがっているからだ」
華の顔。
変わる。
「だから囮になるんじゃ」
「逆だ」
景親は言う。
「お前を囮にした瞬間」
一拍。
「敵が何をするか読めなくなる」
華は黙る。
確かに。
鳳国。
大亀国。
海陸国。
さらに。
平司。
皇宮内部。
華を狙う者は。
多い。
しかも。
理由が違う。
「囮は」
景親が言う。
「私がやる」
華が見る。
「大将軍が?」
「ああ」
「危険」
「お前に言われたくない」
また。
これだ。
◇
その日の午後。
海陸国軍から。
使者。
「停戦を継続したい」
景親が聞く。
「条件は」
使者が答える。
「鳳国・大亀国いずれにも与しない」
華の目が。
少し。
明るくなる。
「その代わり」
使者。
続ける。
「九龍国軍も」
一拍。
「海陸国民へ攻撃を加えないこと」
景親が。
華を見る。
華も。
景親を見る。
「いいんじゃない?」
武将の一人。
「勝手な」
華が言う。
「民衆を攻撃する予定あった?」
男。
止まる。
「ないなら」
華は言う。
「問題ない」
景親。
少し笑う。
「受ける」
使者。
頭を下げる。
海陸国軍。
少なくとも。
今。
敵ではなくなった。
◇
夜。
南岸。
大亀国軍。
上陸。
兵。
三千。
さらに。
後続。
船。
多数。
九龍国側。
小舟。
十数隻。
闇。
火。
だが。
大型船へは。
行かない。
狙うのは。
荷揚げ用の小舟。
桟橋。
陸上倉。
松明。
一斉。
火。
「敵襲!」
「九龍軍!」
「船を守れ!」
混乱。
だが。
船は。
無傷。
上陸兵。
陸。
残される。
食料。
少ない。
矢。
少ない。
翌朝。
大亀国軍は。
海岸線から。
動けなくなった。
「追撃しますか」
武将が景親へ聞く。
景親は。
華を見る。
華は。
首を振る。
「しない」
景親も。
「しない」
「しかし」
「船は残した」
景親が言う。
「帰るなら」
一拍。
「帰らせろ」
大亀国軍。
一部。
その日のうちに。
船へ戻った。
◇
鳳国軍。
一万二千。
動く。
九龍軍。
景親。
本隊。
見せる。
兵。
少ない。
逃げる。
ように。
見せる。
鳳国軍。
追う。
一日。
二日。
徐々に。
道。
狭く。
湿地。
川。
そして。
夜。
雨。
「来た」
華が言う。
遠く。
鳳国軍の火。
景親。
地図。
「この位置なら」
「はい」
華。
頷く。
「明日の朝」
一拍。
「渡河中」
景親が。
立つ。
「叩く」
華は。
少し。
黙る。
「どうした」
「人」
「何」
「死にますよね」
景親が。
華を見る。
「死ぬ」
即答。
「どれくらい」
「分からん」
「でも」
「華」
景親の声。
重い。
「ここで止めなければ」
一拍。
「もっと死ぬ」
華。
黙る。
それも。
分かる。
華は。
目を閉じる。
「分かりました」
◇
翌朝。
鳳国軍。
渡河開始。
前衛。
千。
中軍。
続く。
後軍。
まだ。
向こう岸。
合図。
九龍軍。
矢。
上から。
一斉。
鳳国軍。
混乱。
川。
足。
取られる。
さらに。
上流。
小さな堰。
壊す。
水量。
増える。
馬。
倒れる。
「今!」
景親が叫ぶ。
九龍軍。
突撃。
だが。
華の案。
一つ。
景親が。
最後に。
加えていた。
敵の退路。
残す。
片側。
完全包囲。
しない。
その結果。
鳳国軍。
前衛。
崩れた。
だが。
全滅ではない。
退く。
戻る。
逃げる。
景親は。
追撃。
途中で。
止めた。
「追えば勝てます!」
武将。
叫ぶ。
景親。
首を振る。
「十分だ」
「しかし」
「兵を戻せ」
九龍軍。
追わない。
鳳国軍。
後退。
死者。
出た。
でも。
想定より。
少ない。
華は。
川岸。
立っていた。
水。
赤い。
「華」
五条。
横。
「見るな」
「見る」
「何で」
華は。
赤い水。
見る。
「俺が」
一拍。
「考えたから」
五条。
何も言わない。
「地図の上だと」
華は言う。
「簡単だった」
橋。
壊す。
道。
止める。
補給。
切る。
敵。
誘う。
「でも」
水。
赤い。
「人が死ぬ」
五条が。
静かに言う。
「覚えておけ」
華。
「うん」
「忘れた時」
一拍。
「お前は本当に危なくなる」
華。
ゆっくり。
頷いた。
◇
その日の夕方。
英は。
軍医所で。
ほとんど休んでいなかった。
敵。
味方。
区別なく。
運ばれる。
英。
手。
止まらない。
「次」
すみれ。
「はい」
鳳国兵。
腹。
深い。
九龍国軍医。
少し。
躊躇。
「敵兵です」
英が顔を上げる。
「だから?」
軍医。
黙る。
「患者です」
英は言う。
「そこへ」
「でも」
「次の患者が死にます」
軍医。
すぐ。
動く。
華は。
入口。
それを見る。
「先生」
「華様」
「何かできる?」
「邪魔をしないでください」
「分かった」
華は。
即答。
英が。
少しだけ。
華を見る。
「……水」
「何?」
「煮沸した水が足りません」
華。
振り返る。
「五条!」
「何だ」
「人集めて水沸かす!」
「俺は護衛だ」
「今は人手!」
五条。
少し。
ため息。
「分かった」
華も。
走る。
負傷兵。
泥。
血。
熱。
傷。
死。
前世。
華。
知っている。
完全ではない。
医学部でもない。
でも。
衛生。
煮沸。
手洗い。
隔離。
水。
記録。
できること。
ある。
華は。
兵たちへ。
「汚れた布と清潔な布分けて!」
「水は!」
「一度沸かして!」
「傷口触る前に手を洗う!」
最初。
誰も。
まともに聞かない。
だから。
華。
言い方。
変える。
「やらない人」
一拍。
「大将軍に報告します」
全員。
動いた。
五条が。
華を見る。
「卑怯」
「権力は使える時に使う」
「都に染まったな」
「成長した」
◇
深夜。
英。
まだ。
手当て。
華。
横。
座っている。
「華様」
「何」
「寝てください」
「先生も」
「私は医者です」
「俺は軍監」
「便利ですね」
「先生も」
二人。
少し。
笑う。
英が。
手を動かしながら言う。
「今日」
「うん」
「華様の策で」
華の顔。
少し。
硬くなる。
「人が死んだ」
英の手。
止まる。
「はい」
「いっぱい」
「はい」
「俺」
一拍。
「正しかったのかな」
英は。
すぐに答えない。
患者の布。
直す。
「分かりません」
華が。
英を見る。
「先生でも?」
「医者でも」
英。
答える。
「分からないことはあります」
少し。
「ただ」
華を見る。
「今日」
一拍。
「ここへ運ばれた九龍国兵は」
「うん」
「予想より少なかった」
華。
黙る。
「鳳国兵も」
英。
続ける。
「完全包囲されていたら」
一拍。
「もっと多かったでしょう」
華の目。
少し。
下がる。
「だから正しい?」
「違います」
英が答える。
「正しかったことにして」
一拍。
「忘れないでください」
華が。
英を見る。
「何を」
「ここに」
英は。
周囲。
負傷者。
見る。
「人がいたことを」
華は。
長く。
黙った。
「うん」
それだけ。
◇
翌朝。
急報。
鳳国軍。
後退。
大亀国軍。
上陸中止。
海陸国反乱軍。
停戦継続。
九龍軍。
勝利。
少なくとも。
戦況上は。
景親。
地図。
見る。
「第一段階は終わった」
華が。
「第一?」
「戦争が終わったとは言っていない」
華。
嫌な顔。
「まだ?」
「当然だ」
その時。
伝令。
「大将軍!」
「何だ」
「東昇国より」
部屋。
空気。
変わる。
「使節団!」
華が。
顔を上げる。
「目的は」
伝令。
少し。
戸惑う。
「停戦調停ではございません」
「では」
「橘華様との」
全員。
華を見る。
「面会を求めております」
華。
固まる。
「俺?」
景親。
華を見る。
「六国の頭脳が」
一拍。
「お前に興味を持ったようだな」
華。
本気で。
嫌そうな顔。
「何で」
五条。
後ろから。
「自覚がないから厄介なんだ」
英も。
軍医所の入口。
「同感です」
華。
二人を見る。
「何で先生まで!」
だが。
華は。
まだ知らない。
東昇国が。
華に会いたい理由。
その中には。
橘優希。
AI。
人格情報。
そして。
この世界が。
なぜ。
平安の姿をしているのか。
その答えに。
近づくものが。
含まれていた。
第十六話 死なせないための戦 了




