第十二話 母の研究
第十二話 母の研究室
翌朝。
華は。
東寺の南門へ向かっていた。
一人ではない。
当然。
五条がいる。
「一人で来いって書いてあった」
華が言う。
「知らん」
「条件無視してる」
「知ったことか」
「相手、出てこないかも」
「それなら罠にかからず済む」
「何のために来たの」
五条は答えない。
華はため息をついた。
昨日の夜。
窓から投げ込まれた包み。
金属片。
K-01
そして。
紙。
――橘優希の研究室を知りたければ、明日、東寺の南門へ一人で来い。
五条は。
当然のように全部見ていた。
その結果。
「行くな」
と止められた。
華は。
「行く」
と答えた。
そこから。
半刻。
揉めた。
最終的に。
五条が言った。
「なら俺も行く」
華は反対した。
五条は無視した。
今に至る。
◇
「華」
「何」
「昨日から」
五条が言う。
「落ち着きがない」
「そう?」
「歩く速度がいつもより速い」
華は足を止めた。
また。
見られている。
「だって」
華は金属片を取り出す。
小さい。
黒っぽい。
この時代の加工技術では。
作れない。
少なくとも。
華の知る限り。
表面に刻まれた文字。
K-01
英字。
数字。
自分が前世で使っていた。
文字。
「これ」
華が言う。
「俺の記憶にある文字なんだ」
五条は何も言わない。
「しかも」
「しかも?」
「高野山で見つけた板と」
華は続ける。
「素材が似てる」
「分かるのか」
「触った感じ」
「それだけか」
「重さも」
華は金属片を五条へ渡す。
五条は手に取る。
「鉄ではないな」
「多分」
「何だ」
「分からない」
華は答える。
「でも」
一拍。
「俺がいた時代なら」
「これくらいは普通にある」
五条の目が。
僅かに変わる。
「華」
「何」
「いた時代という言い方を」
華が止まる。
しまった。
五条は続ける。
「最近よくするな」
華は笑って誤魔化す。
「言い間違い」
「そうか」
「うん」
五条はそれ以上聞かない。
その方が。
逆に怖い。
「五条」
「何だ」
「聞かないの?」
「お前が言いたくなったら言え」
華は少しだけ。
五条を見る。
「優しいね」
「気持ち悪いことを言うな」
やっぱり。
五条だった。
◇
東寺。
南門。
朝から人が多い。
僧。
商人。
旅人。
物乞い。
役人。
華と五条は少し離れた場所に立った。
「誰が来ると思う」
華が聞く。
「知らん」
「予想」
「男」
「広すぎる」
「女」
「さらに増えた」
五条が周囲を見る。
華も見る。
怪しい人間。
多い。
というより。
都では。
誰もが怪しく見えてくる。
五条が小声で言った。
「三人」
「何が」
「こちらを見ている」
華も探す。
一人。
門近く。
僧に見える。
二人目。
茶売り。
三人目。
分からない。
「二人しか分からない」
「十分だ」
「どれ?」
「聞くな」
華は不満。
その時。
子供が一人。
華へ近づいてきた。
十歳くらい。
汚れた衣。
裸足。
「橘華様?」
五条の手が刀へ。
華が止める。
「そうだけど」
子供が紙を差し出す。
「これ」
「誰から?」
「知らないおじさん」
「どこ?」
子供が指す。
人混み。
誰もいない。
華が紙を取る。
一行。
――五条を置いて来い。西の井戸。
華が五条を見る。
「嫌だ」
「まだ何も」
「置いていかない」
「じゃあ」
華が少し考える。
「距離取ってついてきて」
「それも嫌だ」
「条件通りじゃないと」
「罠だ」
「分かってる」
「なら」
「罠でも」
華が紙を見る。
「母上の研究室に繋がるなら行く」
五条が黙る。
「五条」
「何だ」
「お願い」
五条の目。
仮面の上から。
華を見る。
長い。
「五十歩」
「何が」
「それ以上離れない」
華は笑った。
「分かった」
「何かあったら」
「走る」
「違う」
五条の声。
低い。
「叫べ」
華は少し止まる。
「分かった」
◇
西の井戸。
人は少ない。
古い。
井戸の横に。
一人の老人。
座っている。
僧でも。
役人でもない。
普通の老人。
「橘華」
「はい」
老人が華を見る。
「一人か」
「見れば分かる」
五十歩先。
五条。
建物の陰。
見えない。
多分。
相手には。
「ついてこい」
老人が歩き出す。
華も。
細い路地。
さらに。
裏道。
華は記憶する。
右。
左。
橋。
小路。
古い倉。
「どこへ行くの」
老人は答えない。
「母上を知ってる?」
答えない。
「研究室は?」
答えない。
「無口なの?」
老人が言った。
「喋れば死ぬ」
華は黙った。
それ。
冗談に聞こえない。
◇
しばらく歩く。
都の中心から。
離れていく。
古い屋敷。
人の気配。
少ない。
老人が一軒の廃屋へ入る。
華も続く。
中。
何もない。
床。
壁。
埃。
「ここ?」
老人は床板を外す。
下。
階段。
華の目が変わった。
地下。
「都にこんな場所が」
老人が振り返る。
「ここから先」
一拍。
「戻れなくなるかもしれん」
華は答える。
「戻るために来たんじゃない」
老人が。
ほんの僅か。
笑った。
「優希様と同じことを言う」
華の心臓が。
跳ねる。
「母上を知ってる?」
老人は答えない。
階段を下りる。
華も。
暗い。
蝋燭。
一段。
二段。
三段。
かなり深い。
地下。
そして。
華は。
見た。
扉。
金属。
黒。
高野山の板と。
同じような素材。
「……嘘だろ」
華は近づく。
表面。
文字。
日本語。
古い。
でも読める。
第一区画 生体情報研究室
華の呼吸が。
止まる。
「生体情報」
老人が鍵を出す。
鍵。
ではない。
小さな板。
扉の横へ近づける。
小さな音。
――ピッ。
華が固まった。
電子音。
間違いない。
電気。
この世界に。
存在するはずがない。
扉が。
ゆっくり開く。
中。
暗い。
老人が壁に触れる。
光。
天井。
白い光。
華は。
動けなかった。
◇
白い壁。
金属。
机。
透明な容器。
棚。
一部は壊れている。
埃もある。
だが。
どう見ても。
平安時代ではない。
華が知っている。
研究施設。
「ここ」
声。
掠れる。
「何年前のもの?」
老人が答える。
「分からん」
「母上が使ってた?」
「ああ」
「母上は」
華が老人を見る。
「何者だったの」
老人は。
初めて。
華の目を見る。
「私には」
一拍。
「分からない」
「またそれ」
「本当だ」
老人が言う。
「優希様は」
周囲を見る。
「ここにあるものを」
一拍。
「自分で作ったわけではない」
華の顔が変わる。
「どういう意味」
「見つけた」
「これを?」
「ああ」
「どこで」
老人は床を指す。
「この下」
華が止まる。
「さらに地下?」
「そうだ」
「誰が作った」
「知らん」
「いつ」
「知らん」
「何のため」
「知らん」
老人が。
少し困った顔。
「私は」
一拍。
「ただの管理人だ」
華は。
その言葉を聞いて。
少し冷静になる。
「名前は」
「言えない」
「母上との関係は」
「恩がある」
また。
優希に恩がある人間。
多すぎる。
「母上」
華が周囲を見る。
「ここで何してた?」
老人は奥へ歩く。
「来い」
華も。
◇
部屋。
一番奥。
大きな机。
その上。
黒い箱。
華は。
見た瞬間に。
分かった。
コンピュータ。
形は。
自分が知っているものとは違う。
でも。
操作盤。
表示装置。
似ている。
老人が。
何かを押す。
何も起きない。
「壊れてる?」
「電力が足りない」
「電力」
その単語。
老人が普通に言った。
華は驚く。
「知ってるの?」
「優希様から教わった」
「電気も?」
「少しだけ」
「発電は」
「できない」
老人が答える。
「優希様は」
「うん」
「一部だけ動かしていた」
華は机を見る。
紙。
大量。
手書き。
母の文字。
華には。
分からない。
でも。
日本語も混ざっている。
英字。
数字。
数式。
そして。
一冊。
題名。
人格情報継承実験 第一世代
華の指が。
止まる。
「第一世代」
開く。
最初の頁。
大量の記号。
読めない。
次。
日本語。
被験体E-01
華の心臓が。
強く鳴る。
E。
英。
偶然?
さらに。
人格情報源:外科医師
華の目。
大きく開く。
――手術室。
英先生。
煮沸。
外科医。
「まさか」
頁をめくる。
一部。
破れている。
定着率――
読めない。
記憶再現率――不完全
技能領域の保持率は高値
華は。
動かない。
頭の中。
英姫。
町医者。
医学。
夢。
手術室。
全部。
繋がる。
「英先生」
老人が華を見る。
「何」
「何でもない」
華は。
次をめくる。
そこには。
別の題名。
第二世代人格統合計画
華の呼吸。
止まる。
頁。
被験体H-01
H。
華。
いや。
ひかる。
偶然。
ではない。
華は。
震える手で。
読み進める。
基礎人格情報――
そこから先。
黒く塗り潰されている。
「何で」
華が言う。
「何で消してある」
老人は答えない。
「母上が?」
「ああ」
「どうして」
「知らん」
華は次をめくる。
今度は。
読める。
人格情報の完全転写は不可能。
一行。
記憶とは人格そのものではない。
二行。
思考傾向・判断特性・知識・技能を統合しても、再現された存在は原個体と同一ではない。
華の身体。
冷たくなる。
次。
それでも、私は――
文章。
途中で切れている。
華は。
声が出ない。
自分。
前世。
大学生。
手術。
冷凍保存。
AI。
もし。
もし。
あの大学生の。
記憶。
知識。
思考。
それを。
この身体へ。
「俺」
華が。
小さく言う。
「転生じゃない?」
老人は。
何も答えない。
分からないのだ。
華は机に手をつく。
頭。
痛い。
記憶。
手術室。
母。
赤子。
全部。
俺は誰だ。
前の俺?
橘華?
作られたもの?
「華様」
老人が言う。
「大丈夫ですか」
華は答えない。
その時。
施設の奥。
音。
――ピッ。
華が顔を上げる。
何か。
起動。
小さな表示装置。
光。
老人が驚く。
「これは」
画面。
文字。
生体認証確認
華の目が止まる。
次。
H-01
そして。
認証完了
老人が華を見る。
「優希様は」
声が震える。
「これを一度も動かせなかった」
「え」
機械。
さらに起動。
部屋の奥。
扉。
開く。
華は。
動けない。
自分に反応した。
H-01。
間違いない。
これは。
俺。
◇
その瞬間。
地上。
五条。
建物の陰。
時間。
長い。
遅い。
約束。
かなり過ぎている。
「華」
返事なし。
五条が動く。
路地。
廃屋。
扉。
開く。
誰もいない。
だが。
足跡。
床。
五条が気づく。
「地下か」
板を外す。
階段。
降りる。
その瞬間。
背後。
殺気。
五条が振り返る。
刃。
受ける。
一人。
二人。
三人。
黒装束。
五条の目が。
鋭くなる。
「誰だ」
答えない。
攻撃。
五条。
刀を抜く。
一閃。
一人の腕。
二人目。
喉。
三人目が下がる。
「華を」
五条が言う。
声。
冷たい。
「狙っているのか」
男は答えない。
口。
噛む。
毒。
五条が顎を掴む。
間に合わない。
男。
倒れる。
「くそ」
その時。
さらに。
外。
足音。
多い。
五条が階段を見る。
華。
地下。
そして。
敵。
「華!」
五条が叫ぶ。
◇
地下。
華にも聞こえた。
五条。
遠い。
「老人」
「はい」
「他に出口は」
「あります」
「どこ」
老人が奥を指す。
「しかし」
「何」
「そこは」
一拍。
「第二研究区画を通ります」
「行く」
「華様」
「今は」
華が資料を見る。
持っていきたい。
全部。
無理。
一冊。
第二世代人格統合計画
華が取る。
老人が驚く。
「それは」
「母上の」
「持ち出しては」
外。
音。
戦闘。
華が言う。
「あとで返す」
「しかし」
「生きてたら」
老人が。
何も言えなくなる。
華は。
起動した奥の扉を見る。
「行こう」
二人。
奥へ。
◇
第二研究区画。
華は。
また。
言葉を失う。
透明な。
大きな筒。
いくつも。
空。
一部。
破損。
液体の跡。
医療機器。
そして。
壁。
文字。
人工生体培養
華の足が止まる。
「……冗談だろ」
老人は。
何も言わない。
ここ。
人を。
作る場所。
だった?
華は。
ゆっくり。
歩く。
一つの筒。
番号。
E-01
空。
隣。
H-01
華の身体。
完全に止まる。
「俺」
指。
触れる。
冷たい。
この中で。
生まれた?
いや。
作られた?
頭。
くらくらする。
その時。
奥。
小さな箱。
赤い布。
老人が言う。
「それは」
「何」
「優希様が」
一拍。
「最後まで隠していたものです」
華が近づく。
箱。
開く。
中。
一枚の。
写真。
華は。
目を見開く。
写真。
この時代には。
存在しない。
そこに。
女性。
橘優希。
若い。
そして。
隣。
一人の少女。
十六歳くらい?
いや。
もっと幼い。
顔。
華は。
知らない。
でも。
目。
どこか。
英姫に。
似ている。
裏。
文字。
英姫 三歳
華の指。
震える。
「英先生」
やはり。
第一世代。
優希の。
実験体。
そして。
写真の隅。
もう一枚。
赤子。
母に抱かれている。
文字。
華 生後七日
華は。
息を呑む。
母。
笑っている。
自分を抱いて。
普通の。
母親の顔。
華は。
しばらく。
動かなかった。
研究者。
天才。
国を変えた女。
ではない。
ただ。
赤子を。
大切そうに抱いている。
「母上」
声。
小さく。
写真。
指。
触れる。
その瞬間。
後方。
音。
老人が振り返る。
「誰だ!」
人影。
一人。
黒装束。
すでに。
入っている。
刀。
華。
資料を置く。
自分の刀へ。
間に合わない。
老人が前へ。
「逃げろ!」
刃。
老人の胸。
刺さる。
「――!」
華の目。
大きく開く。
黒装束が刀を抜く。
老人。
倒れる。
「お前!」
華が抜刀。
男。
来る。
速い。
華が受ける。
重い。
一撃。
二撃。
強い。
普通の刺客ではない。
華。
後退。
「誰だ!」
答えない。
男。
さらに。
華の首。
狙う。
華。
横へ。
刃。
頬を掠める。
血。
華。
懐。
入る。
腹。
蹴る。
男。
少し下がる。
その瞬間。
別の音。
上。
足。
五条。
飛び降りる。
刀。
男が受ける。
「五条!」
「下がれ!」
五条。
速い。
男。
強い。
三合。
四合。
五条が。
押している。
男。
逃げようとする。
五条。
追う。
華が叫ぶ。
「殺すな!」
五条の刀。
止まる。
その一瞬。
男が。
懐から。
何か。
投げる。
煙。
「くそ!」
視界。
白。
五条。
追えない。
煙。
晴れる。
男。
いない。
◇
華は。
老人へ走る。
「大丈夫!」
胸。
深い。
血。
華が押さえる。
「五条!」
五条も見る。
顔。
厳しい。
「無理だ」
「まだ生きてる!」
「華」
「止血!」
老人が。
華の腕を掴む。
「いい」
「喋らないで」
「華様」
「黙って!」
老人が。
笑った。
「優希様と」
一拍。
「同じだ」
華の手。
血。
また。
雅山。
同じ。
「誰が」
華が聞く。
「誰が来た」
老人。
息。
浅い。
「皇宮」
華の顔が変わる。
「皇宮?」
「印」
老人が。
震える指で。
自分の懐。
華が探す。
小さな布。
紋。
皇宮内部で使われる。
印。
「誰」
老人。
もう。
焦点。
合っていない。
「優希様は」
声。
小さい。
「皇帝を」
一拍。
「恐れていた」
華が止まる。
「何で」
「でも」
老人。
微笑む。
「最後まで」
「何」
「信じても」
息。
「いた」
意味。
分からない。
「母上が皇帝を?」
老人の手。
落ちる。
「待って!」
返事。
ない。
また。
一人。
死んだ。
華は。
血まみれの手。
見る。
雅山。
老人。
真実へ。
近づくたび。
人が死ぬ。
岳の言葉。
――お前の周囲では、これから人が死ぬ。
華は。
初めて。
その意味を。
本当に理解した。
◇
その夜。
橘家。
華は。
誰とも話さなかった。
秀逸。
義弘。
岳。
誰にも。
研究室の場所は。
言わない。
五条だけ。
知っている。
部屋。
華。
一人。
机。
持ち出した。
研究記録。
写真。
開く。
第二世代人格統合計画
頁。
読める部分。
第一世代E-01の結果を踏まえ、第二世代では記憶情報だけでなく、思考モデルの統合率を高める。
次。
原人格への同一化を目的としない。
華の指。
止まる。
新しい人格として生きる権利を保障する。
華は。
長く。
その一行を見る。
母。
俺を。
昔の大学生。
そのまま復活させようとは。
していない。
新しい。
人間として。
「橘華」
華が。
自分の名前を。
呟く。
さらに。
頁。
H-01は――
その先。
破れている。
次。
別紙。
華が広げる。
手書き。
優希の文字。
華へ。
華の心臓。
止まりそうになる。
母から。
自分へ。
手紙。
読む。
もし、あなたがこれを読んでいるなら、私はもうあなたのそばにはいないのでしょう。
華の手。
震える。
続き。
あなたが誰なのかを、他人に決めさせてはいけません。
華は。
呼吸。
止める。
過去の記憶を持っていても、誰かの思考を引き継いでいても、それだけであなたがその人になるわけではありません。
一行。
一行。
読む。
あなたは橘華です。
華の目。
熱くなる。
私が生み出した実験体ではありません。
次。
私の息子です。
華は。
そこで。
読むのを。
止めた。
声が。
出ない。
ずっと。
疑問だった。
自分。
人間なのか。
作られたものなのか。
母は。
答えている。
息子。
華は。
写真を見る。
母。
赤子の自分。
笑顔。
「母上」
声。
震える。
その時。
最後。
一文。
華は。
見る。
そして、あなたにはもう一人、私が守れなかった子がいます。
華の目が。
止まる。
英姫。
そう思う。
だが。
次の行。
そこには。
こう書いてあった。
ただし、その子とあなたを同じものだと思ってはいけません。
華は。
眉を寄せる。
さらに。
あなたたち二人は、私の研究の結果ではありますが――
そこで。
紙が。
破れている。
「何で!」
華が思わず叫ぶ。
五条が外から。
「どうした!」
「何でもない!」
机。
華は頭を抱える。
肝心なところ。
いつも。
ない。
その時。
裏。
紙。
何か。
透けている。
華が。
蝋燭へ。
近づける。
薄い文字。
炙り出し。
ゆっくり。
出る。
源義弘を信じなさい。
華の目が。
大きくなる。
次。
ただし、すべてを話してはいけません。
華は。
固まる。
何だ。
それ。
信じろ。
でも。
全部は話すな。
母。
最後まで。
面倒だ。
華は。
涙を拭った。
「ほんと」
小さく。
笑う。
「みんなが言う通りだ」
そして。
最後の一行。
文字。
ゆっくり。
浮かぶ。
皇帝があなたを自分の子だと言い出した時こそ、最も警戒しなさい。
華の笑みが。
消えた。
第十二話 母の研究室 了




