①③②
キャンディスが目を覚ますと、いつの間にかベッドの上にいた。
飛び起きるようにして辺りを見渡す。
(お、お母様は……!?)
心臓がありえないほどに脈を打ってドクドクと音を立てている。
キャンディスは眠ってしまったらしい。
慌ててベッドから降りようとして近くにあった椅子まで巻き込んでゴロゴロと転げ落ちてしまった。
「いたた……」
すぐにモンファが姿を現した。
キャンディスの上半身を起こして、怪我の確認をしている。
「大丈夫ですか?」
「えぇ、平気よ……」
大きな音を聞きつけたのかエヴァとローズが慌ててやってくる。
「キャンディス皇女様!?」
「お怪我はありませんかっ?」
しかしキャンディスの頭の中はリナのことでいっぱいだった。
「エヴァ、ローズ……ッ、お母様は……?」
エヴァとローズは顔を見合わせた後にそっとキャンディスを抱きしめた。
「大丈夫ですわ。今は絶対安静とのことで、お部屋におられますわ」
「…………っ」
安心するのと同時に体から力が抜けていく。
声が出ることはなかったが、母が生きてくれていたことが信じられない気分だった。
(お母様と会えるの……? 本当に? わたくしがお母様に……っ)
けれど体調が安定するまで時間はかかるそうだ。
キャンディスはエヴァとローズ、モンファに抱きつきながらギュッと瞼を閉じた。
それからキャンディスの願いを叶えてくれたであろうペンダントに感謝していた。
あの時、ペンダントが光ったのは気のせいだろうか。
(確かお父様に首を斬られた時にも、このペンダントが光ったような……気のせいよね)
キャンディスがギュッとペンダントを握って感謝していた。
「それとラジヴィー公爵からこれが……」
「……これは?」
「リナ様が……今までキャンディス皇女様にあてていた手紙だそうです」
「え…………?」
キャンディスはエヴァの言葉の意味が理解できなかった。
何故ならリナからの手紙がキャンディスに届いたことなどないからだ。
それが箱五個分にぎっしり詰まっているではないか。
「五年間分、あるそうですわ。キャンディス皇女様に毎日お手紙を書いていたそうで……それでっ」
ローズはそう言いかけて口元を抑えてしまった。
真っ赤に腫れた目元からはポロポロと涙が落ちていく。
それにつられるようにしてキャンディスも涙が頬に伝う。
モンファがハンカチでキャンディスの涙をそっと拭ってくれた。
エヴァとローズの話によれば、リナからどんなに具合が悪くともキャンディスに毎日手紙を書いていて、それをラジヴィー公爵にまとめてキャンディスに渡してもらっていると思い込んでいたそうだ。
ラジヴィー公爵はキャンディスは忙しいからなかなか返事が書けないと言い訳したり、口頭でキャンディスの言葉を伝えたりして誤魔化していたようだ。
リナ自身も自分の体調のことでキャンディスに会いに行けないことを心苦しく思っていた。
けれどキャンディスに会えることをずっとずっと夢見ていた。
ラジヴィー公爵はキャンディスに『頑張り自分を磨けばリナに会える』と言っていたように『元気になればキャンディスに会えるから』と言われていたようだ。
キャンディスに込み上げてくるのはラジヴィー公爵に対する激しい怒りだった。
(全部……ぜんぶお祖父様のせい。わたくしとお母様の気持ちを踏み躙り続けたのよ!)
ここに武器があったのなら、キャンディスは手に取りラジヴィー公爵の元へ向かっただろう。
怒りに支配されていると、キャンディスの前に置かれた手紙が視界に入る。
キャンディスは一枚の封筒を手に取る。
恐らく日付順に並んでいて、箱は年数でわけられているのだろう。
震える手で手紙を読んでいく。
そこにはリナのキャンディスへの想いがたくさん書かれていた。
それは愛に溢れていて、キャンディスは号泣しながらも手紙を読み続けていた。
(お母様は、こんなにもわたくしのことを考えてくれていたのね……)
それだけでキャンディスの今まで抱えていた苦しみやつらさがスッと消えていく。
このことを知っていたらあんな凄惨な未来を迎えずに済んだろうか。
けれどあのことを経験したからこそ、キャンディスは人に優しくなれたような気がした。
キャンディスは手紙を箱にそっとしまった。
今はとても読みきれなさそうもないのと、これ以上は泣きすぎてアルチュールを心配させてしまうためだ。
逆にリナの元には今まで書いたキャンディスの気持ちが書き綴られた手紙が届けられているのだろうか。
(あの時のわたくしはお母様に会いたくて会いたくてたまらなかったわ……)
けれどリナもキャンディスに会いたいと思っていてくれた。
それだけでもキャンディスは報われるような気がした。
その後、心配そうにキャンディスの部屋を覗き込んでいる三兄弟を前にキャンディスはいつも通りに接していた。
(これ以上、泣いている顔なんて見せるもんですか……!)
外見は子どもだが、中身は人生二周目だ。己のプライドが許さない。
キャンディスは涙を拭ってから朝食を食べ、三人と部屋でゆっくりと過ごしていた。




