①③①
自分やユーゴが動いたことで、リナは帝都外へ。
侍女の母親からキャンディスのことを聞いたのだ。
母親からの手紙やプレゼントが一切、届いていないことも。
もう母からの愛情を受けることを諦めたことも……。
今までキャンディスに自分の愛が届いていると信じて疑わなかったリナにとっては衝撃的だったのだろう。
真実を知り動揺したに違いない。
だからこそこんな無茶をしてでもキャンディスに会いにこようとした。
自分の命を投げ打ってでも愛しているのだと伝えようとしたのだろう。
ラジヴィー公爵はそのことを深く悔いているようだ。
結果的に自分の行動でリナを追い詰めてしまった。
何よりリナに反発されたことにショックを受けている。
ヴァロンタンも一カ月前にキャンディスに大嫌いだと拒絶されて衝撃を受けたばかりだ。
彼の気持ちはわからなくはないが、すべての行動が裏目に出てしまった。
王宮にいる医師を集めたが、できることはほとんどなかった。
むしろリナの体力次第だそう。
リナに同席してここまで来た医師もかなり無理をしたのだと語った。
それでも彼女を止めることはできなかったのだという。
どうしてもキャンディスに会って言葉を伝えたいと……。
かなり衰弱していたらしいが、夜になり奇跡的に持ち直したと聞いて驚いた。
ラジヴィー公爵は、従者に寝る前にキャンディスとリナの手紙を持ちにいくように指示したのだという。
これから彼は彼女たちの前から姿を消すつもりだそうだ。
『ワシは大きな間違いを犯した。これからリナとキャンディスはワシを恨み嫌うだろう……許されることではない』
それがせめてもの贖罪だと語った。
それと自分の代わりにリナとキャンディスを守って欲しいと告げた。
彼はキャンディスを王位に押し上げようと躍起になっていたが、それも諦めるそうだ。
周囲の帝国貴族たちにもどうなるかはわからないが、なんとかラジヴィー公爵が抑えるという。
『皇帝陛下……申し訳ありませんでした』
深々と頭を下げるラジヴィー公爵は震える瞼を閉じた。
リナが目を覚ましたことを確認した後、ラジヴィー公爵は公爵邸に帰るそうだ。
あとは彼女たちの好きにしていいという。
今までの分まで一緒の時間をとらせてあげて欲しい、と。
そこでユーゴがここぞとばかりにキャンディスの状況を説明する。
ロンの一族がキャンディスを護衛して、侍女として世話をしていること。
彼女が怪我をしてしまったことを手早く説明したのだ。
判断力が鈍っていたのか、はたまたリナのことで頭がいっぱいだったからだろうか。
ラジヴィー公爵は不快感を示したが、キャンディスの好きにしていいと言ったばかりだ。
こちらの責任を追求されることはなかった。
普段の彼ならば間違いなく激高して、ヴァロンタンやユーゴを責め立てていたに違いない。
ユーゴはうまくいったと言わんばかりにウインクをしている。
ヴァロンタンは小さく息を吐き出してから頷いた。
「皇帝陛下、ラジヴィー公爵のことどうされるのですか?」
「キャンディスとリナに任せる」
「リナ様は後宮で?」
「いや……落ち着くまではバイオレット宮殿でいい」
「かしこまりました」
リナとキャンディスは今までの分も一緒にいる時間が必要だろう。
ラジヴィー公爵がこんなにもあっさりと引いたのは予想外だった。
「反帝国組織の動きが活発になりそうです。お気をつけて……」
「……!」
反帝国組織、つまりヴァロンタンを皇帝の座から引き摺り落とそうとしている。
これだけヴァロンタンが警戒しているのも、彼らが何をしてくるかわからないからだ。
心休まる日々はない緊張状態の中、キャンディスたちと過ごしていると平和を実感できる。
彼らの笑い声や甘いものを頬張る姿、無垢な姿や寝顔がヴァロンタンの心を癒していたのは事実だ。
(少し気を緩めすぎたか……)
どんなやり方で入り込んでくるかはわからない。
懐に入れたら最後、内部から崩してくる。
「警戒を強めろ」
「……かしこまりました」
「それとミュリエルという少女ですが、調べていると気になることが……」
ユーゴの言葉にヴァロンタンは彼に視線を向けた。
* * *
こちらに本来はジョルジュとヴァロンタンのやりとりがありますが、そちらは書籍版のみとなります。
今後、辻褄が合わない会話などが出てくるかと思います。
大変、申し訳ありませんがご理解の程よろしくお願いいたします。




