①②②
「ユ、ユーゴ……!?」
「今から話すのは私個人の気持ちです。キャンディス皇女様、彼女たちを、我ら一族を受け入れてくれたこと……心から感謝しております」
「……!」
「本当に、本当にありがとうございます……!」
彼はキャンディスにしか聞こえない小さな声でそう言った。
ユーゴが深々と頭を下げているのを信じられない気持ちで見つめていた。
その後ろにいるタオやマオ、モンファも同じようにキャンディスに頭を下げているではないか。
ユーゴの震える手や行動から気持ちが伝わってくるような気がした。
一族に居場所を……。
そう強く望んでいるのはユーゴなのかもしれない。
ヴァロンタンと医師の話が終わったタイミングでユーゴが立ち上がり、何事もなかったかのようにモンファたちも元の位置へ。
タオとマオは医師たちを送り出すように部屋を出た。
そしてキャンディスの前に覆い被さる影。
顔を上げると、そこには恐ろしい顔をしたヴァロンタンの姿があった。
「聞きたいことは山ほどあるが……どうして勝手に王宮を出た?」
「…………」
キャンディスはチラリとヴァロンタンを見た後に俯いた。
左手が不自由なせいで、焦ってはいるもののいつものようにドレスの裾は掴めそうにない。
(こ、怖い……わたくしは一体、どうなってしまうのかしら)
この不安をどうしたらいいだろう。
だけどこの怪我では昨日のように逃げられることはない。
キャンディスは視線に耐えかねて、正直な気持ちを口にする。
「お父様に……大嫌いって言ってしまったので、こっ、こ、殺されるかと……思いまして」
「殺す、だと?」
「…………っ」
キャンディスがプルプルと震えつつ、言葉を待っていると「はぁ……」というため息が聞こえた。
ソファの上に座るヴァロンタンにキャンディスは無意識に一歩後退する。
しかし次に聞こえた言葉は予想もしないものだった。
「そんなことで殺したりしない」
「…………え?」
「ただそう言った理由は知りたい。わかるか?」
諭すような優しい言い方に頷いた。
強張っていた体の力が徐々に抜けていく。
王宮脱出する経緯について自分の気持ちを話していくと、怒ることなく黙って最後まで話を聞いてくれた。
「気持ちはわかった。だからもうこんなことをするな」
「…………はい」
ヴァロンタンはキャンディスの頭を優しく撫でた。
怒るどころか、優しい態度に驚いてしまう。
(わたくしは……お父様に殺されないのかしら)
キャンディスは未来が変わりつつあると実感できた瞬間だった。
「お父様……勝手なことをして、その……ごめんなさいっ」
「……ああ」
「それでどこで武器を扱いを習った?」
「げっ……!」
キャンディスはわかりやすく反応をしてしまう。
どう誤魔化そうかと思ったがこの状況ではどうすることもできない。
「こ、子どもたちや神父様は大丈夫でしょうか……!」
苦しい言い訳であるが、今はこれしかない。
キャンディスが何を言われたとしても頑なにこの返事を繰り返していた。
暫く続く睨み合い。
ヴァロンタンは代わりに説明しろと言わんばかりに視線を送る。
「……ユーゴ」
「かしこまりました」
先に折れたこはヴァロンタンだった。
ユーゴがどこからか出した紙をめくりながら口を開く。
子どもたちの中に怪我人はいなかった。
ギーグ神父もマクソンスやキャンディスに怪我があったことや、報告を怠ったことで責任を追及されるなけととなったが、なんとマクソンスが断固阻止したそうだ。
彼を守るためにトップレデロ大将と大喧嘩したらしい。
前々から彼のやり方には不満を感じていたマクソンス。
『強さこそすべて』
彼の言う通りに従ってきたが、なんでも力で押し潰して壊しながら進むトップレデロ大将のやり方に我慢ならずにいたようだ。
初めてマクソンスが反発したことにより、トップレデロ大将は大激怒。
『お前には失望したぞ……!』
マクソンスの顔がボコボコだったのはトップレデロ大将に殴られたからだそう。
帝国側もならずものたちの報告があったのにもかかわらはじ対応が遅くなったこともあり、ギーグ神父はそのままになるそうだ。
何より彼の後任がなかなか見つからないこともあった。
孤児院の子どもたちのことが優先だそうだ。
(……みんな元気なのね。よかったわ)
今まで傷つけるためにレイピアを振るってきたキャンディスだったが、今回は守るために剣を振るったのだ。
それも誰も殺さずに子どもたちを守りきったのだ。
こうして怪我はしてしまったが、感じたことのない高揚感にキャンディスは興奮していた。
「ミュリエル、という少女がキャンディス皇女様……というよりは皇帝陛下から離れずに大変だったのですよ」
「……!」




