①②①
軽々と抱え上げられたキャンディスはゆっくりと瞼を上げた。
すぐ前にヴァロンタンの顔がある。
丁寧にキャンディスを抱き抱えられたことに驚いていた。
「今から医師の診察がある。お前たちは一旦、外に出ろ」
アルチュールとリュカ、マクソンスはヴァロンタンの言葉を聞いて大人しく部屋の外へ向かう。
ジャンヌやエヴァとローズもだ。
キャンディスはベッドへとゆっくりと下された。
モンファとユーゴの後ろからは医師が五人ほど現れる。
ヴァロンタンとユーゴも一旦部屋へと出たところで、キャンディスは左手の骨が折れていることやところどころ捻挫や打撲があることが伝えられた。
ダガーを握っていた手のひらも擦り切れていてひどい傷である。
骨折は一、二ヶ月で治るそうでそれまでは安静にしなければならないそうだ。
(……なんて貧弱な体なのかしら)
前は無抵抗な人たちを相手にしていたおかげで怪我などしたことなかったし、訓練中も辛かったがキャンディスはかなり気を使われていたことがわかる。
孤児院の件から一日以上、眠り続けていたのだがキャンディスを心配してアルチュール、リュカ、マクソンスはそばを離れようとしなかったのだそう。
なんだか心がぽわぽわと温かくなる不思議な感覚にキャンディスは首を捻る。
今までとは違う展開は、いい皇女に一歩近づいたからだろうか。
診察が終わると、医師たちがカバンを持って立ち上がる。
入れ替わるようにヴァロンタンとユーゴがやってくるのを見て、キャンディスは医師を引き止めようとするが、白衣はスルリとキャンディスの手のひらをすり抜けていく。
これからキャンディスどうなってしまうのか……キャンディスの予想によれば、間違いなく怒られるか死刑宣告ではないだろうか。
(お父様を大嫌い、出てけって言った不敬罪にアルチュールを誘拐した罪……それから勝手な行動をとって迷惑をかけてしまった罪に)
だか、ヴァロンタンは足を止めて医師たちと何かを話し始めたことっキャンディスはホッと息を吐き出した。
診察の診断をヴァロンタンが報告を受けている間、ショックを受けてるキャンディスの元にはユーゴがにこやかに歩いてくるではないか。
「ユーゴ、モンファのことだけど……」
「今日から正式にキャンディスの護衛を任せることになりました。それから……」
ユーゴがパンパンと手を叩くと、侍女服を着た黒髪の女性たちが現れる。
眼帯をしている女性と、両腕に包帯をている女性が立っていた。
二人とも肩ほどの長さで黒髪を短く切りそろえていて、顔も同じ。
彼女たちは双子で眼帯がある方がタオ。
両腕に包帯が巻いてあるのがマオという名前だそう。
「タオとマオが今日からエヴァとローズを補佐するような形で侍女として働きますから」
「本当に……? いいの?」
以前は断れたが、ユーゴがこう言っているのならヴァロンタンの許可も取れているのだろう。
キャンディスはモンファが護衛となり、ロンの一族の女性たちもキャンディスのそばにいることができる。
「えぇ、お転婆で何をしでかすかわからないキャンディス皇女様には、彼女たちがピッタリでしょうね。もうホワイト宮殿から勝手に抜け出すことはできません」
「……それってつまり」
「彼女たちの仕事はキャンディス皇女様の監視ですから!」
ユーゴは笑っているのになんだか顔が恐ろしい。
彼の顔には『もう勝手な行動はとらせないからな』と書いてあるような気がした。
キャンディスはユーゴの圧に頷くことしかできない。
「わかったわ。でもよかった……」
彼女たちに居場所を作れた。
なんだがロンの一族のために役に立てたようで嬉しいではないか。
これでモンファも安心してキャンディスの護衛を続けられる。
(わたくしもレティーのように少しずつ周りの人たちを救っていきましょう!)
キャンディスはまるで本のヒロイン気分だ。
ユーゴはそんな様子を見て、困ったように笑った。
「……すべてキャンディス皇女様のご希望通りになりましたね」
含みのある言い方にキャンディスはハッとする。
時が戻る前も、ユーゴによくこう言われていたからだ。
「わ、わたくしっ……わがままを言ってしまったかしら?」
結果的にはキャンディスのわがままでユーゴたちを困らせてしまい、勝手な行動を取ってしまった。
何か理由があったからキャンディスの護衛として採用しなかったのだろう。
(わがままばかり言ったら嫌われるのは当然だわ……)
キャンディスが反省していると、ユーゴが目線を合わせるように膝をつく。
ついいつものようにユーゴのサラサラの髪を撫でようとして、手をピタリ止めた。
それは申し訳ないという気持ちからだったが、ユーゴはキャンディスの手を取り、手の甲にそっと唇を寄せた。




