①②③
その後もミュリエルは『キャンディス皇女のそばにいたい』とアピールを繰り返してギーグ神父やシスターも困り果てている。
昨日も一人で王宮までキャンディスに会いにきたというから驚きだ。
どうしてもキャンディスに会いたいとのことだ。
アルチュールと同じ色のイエローゴールドの髪、ピンクパープルの瞳。
喋れないけれどキャンディスからピッタリとくっついて離れなかった。
彼女がこんなにも気になるのはアルチュールに似ているからなのか。
喋れないけれどキャンディスにぴったりくっついているところが可愛らしい。
「ミュリエルはアルチュールとそっくりな子で、わたくしからぴったりとくっついて離れなかったのですわ」
「…………アルチュールと?」
キャンディスがミュリエルのことを話すと、ヴァロンタンとユーゴは目を合わせた後に真剣に話を聞いていた。
目の前で母親を殺されてしまったこと、そのショックで話せなくなったこともだ。
そんなことに気が付かずにキャンディスはある考えを巡らせていた。
とあるお茶会に出席した際に、孤児を侍女にしたという話を思い出す。
(そんなにわたくしのことが好きならば、アルチュールと一緒でそばにいるべきよね……!)
だが、また勝手なことをしたら怒られてしまうかもしれない。
キャンディスは唇を開いたり閉じたりを繰り返す。
「あの……ミュリエルのことですが、わたくしはそばに……」
「引き取りたいのか?」
「……はい」
「なら、手元に置いておけ」
ヴァロンタンの問いかけにキャンディスは何度も頷いた。
キャンディスの周りにはどんどんと人が増えていく。
「ラジヴィー公爵には報告するが、これ以上は人を増やすなよ?」
「はい、わかりましたわ! お父様、わたくしの希望を叶えてくださりありがとうございますっ」
キャンディスは満面の笑みを浮かべてから頷いた。
「お父様、大好きですわ!」
「…………!」
興奮していたキャンディスは喜びからヴァロンタンの頬にキスをする。
ヴァロンタンはキャンディスの行動に大きく目を見開いた。
後ろにいたモンファに抱きつこうとするが、彼女は軽々とキャンディスを抱えた後にベッドへと運ぶ。
「キャンディス皇女様、今度こそアタシが必ずお守りいたしますから」
「あ、ありがとう……」
モンファは跪いてキャンディスの手を握る。
(なんだか別人みたい……モンファってば、いきなりどうしたのかしら)
モンファの決意をまったく知らないキャンディスはよくわからない。
彼女のあまりの熱量にキャンディスは頷くしかなかった。
マクソンスたちを送り届けたのかエヴァとローズも部屋の中へ。
タオとマオもいつの間にかキャンディスのそばにいるではないか。
ヴァロンタンとユーゴは静かに部屋から出て行った。
(お父様は、あんなにも優しくしてくれるなんて……なんだか不思議な感じ)
キャンディスはやっと水分と食事を取ると、いい気分のまま眠りについたのだった。
* * *
一カ月後──。
キャンディスは左腕が使えないことで不自由な生活を強いられていた。
今はお気に入りの中庭で兄弟たちとテーブルを囲んでお茶をしていた。
怪我をしてやれることは少ないがやっとヴァロンタンから外に出る許可が出たのだ。
けれどそれよりも変わったことといえば……。
「腕が治ったら、オレと剣の訓練に行こうぜ!」
「マクソンスお兄様、いい加減にしてくださいませ。しつこいですわ!」
「ギーグ神父が週に一度、ここにきてくれているのは知っているだろう!?」
「知っていますわ。マクソンスお兄様が毎日その話をしますから」
「ギーグ神父がお前の動きが素晴らしいって言っていたんだ。それにユーゴにも付き合ってもらってるんだぜ? オレはお祖父様を超えるんだ」
「ガンバッテクダサイマセー」
棒読みして紅茶を啜るキャンディスを気にすることなく、マクソンスは剣への情熱を語っている。
それも以前とはまた違った方向に。
(うぅっ、暑苦しくって嫌になりますわ……!)
だけど考えてみればキャンディスと同じで、マクソンスも祖父に縛られ続けたらしい。
本人はトップレデロ大将に見捨てられたと笑い飛ばしていたが、彼から離れた途端、プレッシャーから解放されたのか本来の子どもらしい表情を見せるようになった。
そう思うとマクソンスのことを邪険にはできないではないか。
(だけど戦おう戦おうって、うるさくってぶん殴ってやりたいですわ……!)
キャンディスがマクソンスを殴り飛ばしたいと叫ぶ右手を押さえていると……。
「そしたら今度はお前を守ってやるからな……キャンディス」
「マクソンスお兄様、何か言いましたか?」
「何でもない。オレは最強になる。みんなを守れるように……!」
キャンディスはやる気満々なマクソンスに舌打ちをしてから視線を逸らすと、扉を小さくノックする音。
ジャンヌが扉を開くと小さな侍女服を来たミュリエルがキャンディスの元へ。
ぴったりとくっついて笑顔を見せる彼女にキャンディスの心が和んでいく。




