①②⓪
「私自身、信じられないんです。あの小さな体でゴロツキたちと互角に戦っていた。何人も倒して子どもたちを誘導していたんです……こう言ってはなんですがマクソンス殿下よりもよっぽど実戦経験があると思います」
普段ならば冗談だと鼻で笑うだろう。
六歳になったばかりのキャンディスがそんなことができるわけない、と。
しかし元中将であるギーグがそう言うと説得力がある。
ユーゴに目配せをしているが、今はそれを追及している時間はない。
「父上……申し訳、ありません」
マクソンスが深々と頭を下げている。
「トップレデロ大将にどう説明するつもりだ?」
「……ありのままを話すつもりです。今回の件は俺の責任ですなら」
「そうか」
マクソンスは覚悟を決めたように顔を上げた。
彼は第一皇子としてトップレデロ大将の指示で厳しい訓練を受けている。
『力こそすべて』
そんな彼のやり方についていけずにギーグ中将は彼の元を離れた。
マクソンスがどちらを慕っていたのか、今回の件で明白だろう。
「キャンディスがいなければ……俺はっ、誰も守れなかった」
悔しそうなマクソンスは手のひらを握る。
その言葉に再びキャンディスを見る。意識を失っている彼女の頬を撫でた。
* * *
「痛っ……!」
キャンディスは痛みで目を覚ます。
そこら中から薬品の匂いがするではないか。
(どうしてこんなに痛いのっ!? 全身が針に刺されているようだわ)
全身が痛すぎで涙目なキャンディスは身をよじろうとしてもうまく動かせない。
左手が包帯でぐるぐるに巻かれて固まって動かせないことに気づく。
なんとか上半身を起こすと、そこにはキャンディスのベッドを囲むようにして眠るアルチュール、リュカの姿がある。
離れた場所にはマクソンスの姿もあるではないか。
マクソンスにいたってはキャンディスと同じように包帯を巻いて怪我をしているように見えた。
顔には擦り傷だらけだ。
(変な夢ね……兄弟が揃ってわたくしの部屋にいるなんて)
アルチュールとリュカならわかるが、マクソンスがここにいる理由がわからない。
キャンディスは状況が把握できずにボーッとしていたが、喉が乾いたと水が入ったガラスポットの前へと移動しようとベッドに足を下ろす。
「……っ!」
筋肉がビチビチと千切れてしまうように痛い。
テーブルに行こうとしたが、そのままバランスを崩してしまいフラリと倒れ込んでしまう。
──ベチャ
うまく受け身が取れるわけもなく、キャンディスは額から落ちてしまい悲鳴をあげる。
「いだあぁぁい……!」
キャンディスの声に、ガバリと兄弟たちが起き上がった音がした。
どこから現れたのかモンファがキャンディスの体を起こすように背に手を添えた。
「キャンディス皇女様、大丈夫ですか?」
「……モンファ?」
扉からはエヴァ、ローズがワゴンを抱えてやってくる。
少し遅れてジャンヌも部屋の中へと入った。
「キャンディス皇女様っ、よかったです……!」
「ああ、目が覚めたのですね!」
「……キャンディスお姉様!」
「キャンディス、大丈夫!? 何か手伝えることはある?」
「怪我は? 痛むのか!?」
四方八方から話しかけられてキャンディスは混乱してう。
(一体、何が起こっているのよ……!)
キャンディスの部屋はぎゅうぎゅうで、声に頭が響いている。
耳元でモンファが「ユーゴさんと皇帝陛下に知らせて参ります」と、エヴァやローズたちにキャンディスを託して一瞬でどこかに消えてしまう。
『皇帝陛下』という言葉を聞いて反射的に止めようとしたキャンディスだが時すでに遅し。
モンファの気配はなくなっていた。
キャンディスはアルチュールとリュカ、マクソンスに迫られつつも順に今まで起こったことを整理していた。
(ギーグ神父は無事なのかしら……それよりも最後はお父様がいたような気がするんだけど)
アルチュールが腰にしがみついており、リュカは痛みの心配を繰り返している。
マクソンスにいたってはキャンディスに戦い方について聞いている。
エヴァとローズ、ジャンヌは三人をどうにかキャンディスから引き剥がそうと必死だ。
どのくらいそうしていたのだろうか。
(わたくし…………もう我慢の限界ですわっ)
喉も乾いたし、腕も痛い、周りはうるさいしでキャンディさんの苛立ちは増していく。
キャンディスは苛立ちに任せて思いきり叫んだ。
「──もう出てってくださいませっ!」
しんと静まり返る部屋の中。
キャンディスが肩で息をしていると、いつのまにか扉が開いている。
ゆっくりと視線を向けると、プラチナブロンドの髪と大きく見開かれているバイオレットの瞳。
(……お、おっ、お父様あぁあぁっ!?)
キャンディスの体は明らかに入り口に向いている。
今、入ってきたヴァロンタンにそう叫んだことにならないだろうか。
キャンディスの予想通り、ヴァロンタンの表情は徐々に険しくなっていく。
ユーゴの表情が強張っていくのを見て、キャンディスは悟る。
これはヤバいのではないかと。
『大嫌い』の後には『出て行って』と言ってしまったではないか。
ヴァロンタンが一歩後ろに下がったのを見たキャンディスは自然と体が動いてしまう。
「お父様、あの……っ!」




